厳しい試合は多い。それでも負けない。負けられない。

 “女性版タイガーマスク”タイガー・クイーンは、昨年7月のデビュー以来、いまだ3カウントもギブアップも奪われていない。タッグマッチでパートナーに黒星がついたことはあるが、自身はいまだ“無傷”だ。

 タイガー・クイーンは初代タイガーマスクである佐山聡の「ストロングスタイルプロレス」でデビュー。佐山と女子プロレスのレジェンドであるジャガー横田が育てた選手だ。80年代に一世を風靡し、今なおファンが多い伝説的レスラーの“直系”の後継者ということになる。しかもそれが女子レスラーという新しさ。

 試合数が多いわけではないが、だからこそ1試合ごとの注目度も高い。そしてタイガー・クイーンは、その注目度を超える結果を出してきた。

 昨年7月のデビュー戦では“デスマッチ・アマゾネス”山下りなをタイガー・スープレックスでフォール。デスマッチで男子とも渡り合う実力者にいきなり勝ったのだからインパクトは大きかった。

異例のポジション“勝ち続ける”タイガー・クイーン

 その後も佐藤綾子(ディアナ)、彩羽匠(マーベラス)、ライディーン鋼(PURE-J)、フリーの伊藤薫に高瀬みゆきと、いくつものベルトを巻いてきたトップ選手たちを下している。並の新人、いやよほどの大物ルーキーでも、ここまでの結果は出せるものではない。

 新日本プロレスで活躍した初代タイガーマスクも、めったなことでは負けなかった。シングルマッチでの敗北はわずかに1つ。最大のライバルだったダイナマイト・キッド相手に喫したもので、現在はないルール「フェンスアウト」による反則負けというものだ。その“正体”が大天才・佐山聡だったから、負けないことに誰もが納得する試合ぶりを見せていた、ということもあるだろう。

 ジャガーをして「初代タイガーのクローン」と言わしめた動きだけでなく、クイーンは“勝ち続ける”ことでも初代を踏襲、継承していることになる。勝ったり負けたりしながらドラマを紡いでいくのが現代プロレスの基本だから、これは相当に異例のポジションと言っていい。

佐山直系の“男女タイガータッグ”が誕生

 デビューから1年弱というだけでなく、試合数が少ないから結果の凄さを余計に感じるという部分もある。キャリアが浅いだけに、まだ経験していないことも多い。師匠のジャガーとしては、男女混合のミックスマッチも今のプロレスでは欠かせないという。

 4月29日、ジャガーが所属するワールド女子プロレス・ディアナの後楽園ホール大会では、クイーンが自身2度目のミックスマッチに臨んだ。ストロングスタイルプロレス提供試合という形で、タッグを組んだのはスーパー・タイガー。UWF時代の佐山、そのリングネームとマスクを受け継いだ「2代目」で、蹴りをはじめとした、いわゆる格闘スタイルを得意とする。

 つまり、佐山直系の“男女タイガータッグ”。令和のプロレス界ではこういうものも見られるのだ。対戦したのは、スーパー・タイガーの後輩でありライバルの間下隼人。間下のパートナーは世羅りさで、クイーンとは2度目のタッグマッチとなる。

 ミックスマッチということで男子との闘いもあり、なおかつ世羅はアイスリボン時代にシングル、タッグ両方のベルトを獲得。タッグ王座は最多防衛記録を樹立している。今年からはフリー女子デスマッチユニット「プロミネンス」を率いており、楽しい試合も荒っぽい試合も大の得意だ。

厳しい試合で出たタイガー・スープレックス

 となると、やはりクイーンは分が悪い。サマーソルトキックなど、ところどころ得意技を返すものの、基本的には世羅の攻勢が目立つ。クイーンは長身だが、体格では世羅も互角以上。加えてキャリアの差が大きい。間下はエルボーを真正面から受けても微動だにしない。

 マスクの下からでも苦しげな表情が分かる、苦しい展開。はっきり言ってしまうと、クイーンは持ち味を十分に発揮したとはいえなかった。それでも勝負どころでブリッジの高いジャーマン・スープレックス。ブリッジが高ければそれだけ相手を高いところから、角度をつけて投げることになる。

 さらにジャーマンをもう一発、そしてスーパー・タイガーのアシストを受けてタイガー・スープレックス。これも鮮やかな弧を描いた。厳しい試合だったが、またしても勝利。フィニッシュも見事だった。

 タッグマッチとはいえ世羅りさから3カウントを奪ったという結果も大きい。女子プロレス界全体を見渡してもトップクラスの実力、実績を持つ選手に勝ったのだ。「山下りなと佐藤綾子と彩羽匠と伊藤薫と高瀬みゆきと世羅りさにフォール勝ちしたことのある選手」は、いったい何人いるだろうか。それも1年弱の期間で。

クイーンは“女子プロレスの生態系”を破壊している

 とてつもない結果だ。プロレスにはボクシングのようなランキングはないが、選手は格、いわば“見えない番付”のようなものを感じながら試合をしているし、ファンも同じものを感じながら試合を見ていると思う。

 その見えない番付を、クイーンは次々と食い破っている。言い方を変えれば、女子プロレスの生態系を破壊している。それでいて、クイーンは今のところ生態系の頂点に立とうとしているわけではなさそうだ。「○○に勝った」という実績を持って何かしらのタイトルに挑戦するということがない。

 初代タイガーマスクも勝ちまくった。だがそのことで新日本プロレスを潤わせ、新日ジュニアヘビー級戦線の主役として自分中心に生態系を形成していった。負けた選手も“一座”に貢献したことになる。

 一方、タイガー・クイーンはさまざまな団体の選手(フリーも含め)に勝っている。それでも既存の団体の生態系に絡まないのであれば、主戦場であるストロングスタイルプロレスとディアナで自分の生態系、タイガー・クイーンの“一座”を作っていくことが求められる。生態系を壊すだけ壊して何も作らないというわけにはいかないはずだ。

今後のクイーンと団体に求められることとは?

 佐山が言っていたように“女性版ダイナマイト・キッド”を育成するというのも一つの手だし、それならば“女性版ブラック・タイガー”も期待したい。もちろん、これまでクイーンが勝ってきた選手との再戦も。今のところは“試合しました、勝ちました”の繰り返し。だがこれからは団体とクイーンがどんな世界観を築いていくかがポイントになる。

 ディアナ後楽園でクイーンが世羅に勝った29日の夜、スターダムのビッグマッチでは“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダム王者の朱里が、次期挑戦者に世羅を指名した。そういうレベルの相手を“食った”のである、クイーンは。

「○○に勝った」、「あの選手とは○勝×敗」という結果を背負いながら、プロレスラーはキャリアを重ねていく。この日も、試合を終えたクイーンは無言で控室へと引き上げていった。その姿を追いながら前に回って撮影しようとしたのだが、少し考えて背中を撮ることにした。彼女が背負う“結果”は大きく、重いからだ。

 その大きさ、重さをストーリーに結びつけられたら、これからのタイガー・クイーンはさらに面白くなる。

文=橋本宗洋

photograph by Norihiro Hashimoto