今季のBリーグのクライマックスを前に、日本男子バスケ界の変化がはっきり感じられる。

 東京オリンピックで女子のバスケ代表を率いて銀メダルを獲得したトム・ホーバスが、大会後に男子代表ヘッドコーチ(HC)へ転身したのはご存知のとおり。

 新指揮官がもたらした改革の一つが、“脱オールスター化”だ。

日本代表とオールスターの関係

 2018年1月。前任のフリオ・ラマスHCが指揮をとっていた時代には、オールスターの開催地となった熊本で、オールスターゲーム後に代表合宿が行なわれたことがあった。代表選手の多くがオールスターに選ばれていたため、それが効率的だと考えられたからだった。

 だが、今は違う。その違いは一目でわかる。

 今年1月のオールスターに選ばれた選手のうち、日本代表として出場する資格のある者は20人いた(*ただし、オールスター自体は新型コロナウイルスの影響などもあり開催中止)。

 しかし、そのメンバーと、2月末に行なわれた日本代表戦の顔触れは大きく異なっていた。

 前提として、ケガやコンディション不良で、本来は選ばれるはずの代表選手がいなかったという事実はある。ただ、その変化の大きさには目を見張るものがあった。代表戦2試合でベンチ入りした選手の総計15人のうち、オールスターにも選ばれていた選手はわずか3人だけだったのだから。

高田真希の証言「『君にはこういうことを求めている』と…」

 両方に選ばれたのは、日本代表でキャプテンを務める富樫勇樹、チャイニーズタイペイ戦で最多27得点を記録した西田優大と、PG(ポイントガード)の安藤誓哉のみである。

 “脱オールスター化”の真意はどこにあるのか。それを探るうえで最高の証言がある。東京オリンピックの女子代表チームでキャプテンを任されていた高田真希のものだ。彼女はオリンピック後にこう話していた。

「ホーバスHCが、各選手としっかりコミュニケーションを取って、『君にはこういうことを求めている』と役割を明確にしてくれたのが大きかったです。若い選手から、私のようなベテランまで、何を求められているのかが明確になっていたので、良いプレーができた。それがメダルにつながったと思います」

ホーバス体制を象徴している“ある選手”とは?

 現在の男子代表で、ホーバス体制の象徴となるのが、王者・千葉ジェッツの佐藤卓磨だ。2月のチャイニーズタイペイ戦のあと、ホーバスHCが賞賛したのも佐藤だった。

「彼は素晴らしいプレーをしました。我々が必要としているプレーをベンチから出ていって、見せてくれました。彼は1on1からの得点を狙うのではなくて、リバウンドやハードな守備をしてくれて、さらにフリーの状態からはシュートを決めた――。

 彼は自分の『役割』をわかっているのです」

 女子だけではなく、男子の代表でもホーバス体制の下で「役割」はキーワードになる。

 佐藤はオールスターには選ばれていないが、彼がどんな選手かは千葉の指揮官の起用法にも表れている。昨季から千葉に加入すると、大野篤史HCから「うちのベストディフェンダー」といわれ、初年度からスタメンを張り続けてきた。

千葉ジェッツ所属、日本代表でも活躍する佐藤卓磨 ©AFLO

千葉ジェッツHCが伝えた言葉

 実は、今季の開幕前に大野HCは佐藤へ、こんなことを伝えている。

「自分の苦手なことにチャレンジすることはもちろん、大切なこと。だけど、自分の持っている本当の武器を磨こうとしないと、卓磨の良さは錆びついていってしまうよ」

 佐藤は大野HCとのやり取りの意義をシーズン終盤になった今、かみしめている。

「自分の良さは、走ることや中に切り込んでいくこと。あとは『シュートも良いものを持っているぞ』と大野さんから言ってもらったので。まずはそこに目を向けようとなりました。そうすることで、それ以外の動きも、気づいたら以前より良くなっている感じがあって。大野さんが自分の強みを見てくれて、それをやり続けてきたからこそ今のところ、昨シーズンよりも個人的には良いシーズンを過ごせていると思います」

富樫勇樹の証言「代表に選ばれたことが彼の自信になっている」

 佐藤がリーグ屈指のディフェンスのスペシャリストであることは浸透したが、今季はアウトサイドのシュートでも著しい成長の跡がある。

 3P成功率は43%で、自身最高を記録した。しかも、昨シーズンの1.5倍の3Pシュートを放ちながらも、36.7%から43%へと確率を上げたのである。

 今季は3P成功数が10本足りず(野球の規定打席数に届かない選手のように)リーグの3P成功率ランキングには載らなかったが、ランキング入りすれば5位に該当する成功率だ。このまま成長を続ければ、来季はランキングの上位に名を連ねているだろう。

「卓磨が今のプレースタイルで代表に選ばれたということが、彼にとってすごく自信になっているのではないかなと思っています。それに彼は今のスタイルで、前回の代表でも活躍したわけですから」

 そう話すのは、日本代表でも千葉でもキャプテンを務めている富樫だ。チームメイトの佐藤をかたわらで見てきた立場から、日本バスケ界の顔役はこう話す。

「『この道が正しいんだな』と感じられる」

「やはり、『たくさんシュートを打ちたい』とか、『もっと長くボールを持ちたい』と考えるのが普通だと思うんです。卓磨がそれを望んでいないというわけではないんですけど、うちで見せているプレースタイルで、代表に呼ばれ、そのスタイルのままで活躍できましたから。彼にとって、『これが自分の生きる道』じゃないですけど、『この道が正しいんだな』と感じられると思うんです。そこはすごく自信につながるんじゃないかなと」

 佐藤は言う。

「僕自身はそこまで器用な選手だとは思っていないんです。一つひとつのことを、時間をかけてやっていくプレーヤーだと考えていて。ただ、他の選手よりは、タフな方だと自覚しているので。そこを基盤に、自信にできているのかなと」

 華麗に相手を抜き去ったり、1試合に何十点も決めるような派手なプレーヤーではない佐藤だが、自らの特長にマッチした役割を高レベルに果たして見せる。だからこそ、王者・千葉で認められ、それが新しい日本代表の指揮官にも評価されたわけだ。

オールスターと日本代表の差別化

 ホーバスHCが日本代表で各選手の「役割」を明確化して、それをまっとうさせるというアプローチは、理にかなっている。日本代表の強化という競技面で活きるのは間違いない。

 ただ、その効果は競技面だけに限らない。興行面、つまり、プロとして試合をファンに見てもらうときに活きてくる。

 幸いにして、サッカーではなじまない(Jリーグでも以前はオールスターが行なわれていたが、現在は開催されていない)オールスターが一大イベントとして根付いているのが、バスケットボール界だ。

 オールスターゲームでは、派手で、一人で何でもできるオールラウンダーが選ばれて、ファンを喜ばせる。

 日本代表戦では、それぞれの役割に合ったエキスパートが選ばれ、チームの勝利に貢献する。

 Bリーグには、オールスターには選ばれるものの日本代表には選ばれない選手がいる。その一方で、日本代表では欠かせないけれどオールスターには選ばれないような選手もいる。その両輪があれば、ファンの見どころは増え、バスケットボールを深く楽しめるようになっていく。

ホーバスHCが男子バスケ界にもたらすもの

 今週末から始まるのは、Bリーグの総決算となるチャンピオンシップだ。22チームによるレギュラーシーズンで好成績を残した8チームが年間王者をかけて戦うプレーオフの舞台である。

 オールラウンダーとエキスパートの競演を、日本代表選手とオールスターに選ばれた選手とのプライドのぶつかり合いを、ファンは楽しめる。

 そんなところにも、女子の日本代表に待望のメダルをもたらしたホーバスが男子のバスケ界を変えようとしている効果は表れているのだ。

文=ミムラユウスケ

photograph by JIJI PRESS