ラグビーのハイシーズンが始まる。いや、始まった。

 リーグワンは最終節まで消化し、王者を決めるプレーオフに進出する4チームが決まった。その週明け5月9日には日本代表候補63人(FW36人、BK27人)が発表された。

 ここからカレンダーは一気に加速する。プレーオフは21日と22日に準決勝が行われ、28日に3位決定戦、29日には国立競技場で決勝が行われ、初代チャンピオンが決まる。

 そして選手たちは、休む間もなく日本代表の活動にシフトする。

 日本代表候補のうち、プレーオフに進まなかったチームの選手たちは5月中旬から事前合宿に入り、プレーオフ終了後の6月初旬からは宮崎で合宿がスタート。6月11日にはトンガ海底火山噴火被災者救援と被災地復興支援のためのチャリティーマッチとして、若手を中心に編成した「エマージング ブロッサムズ」が「トンガ サムライフィフティーン」と秩父宮ラグビー場で対戦。続く18日からはいよいよ国内でのテストマッチシリーズだ。

 日本代表は、18日に秩父宮で、25日はミクスタ(北九州)でウルグアイ代表と対戦する。ウルグアイは今回初めて敗者復活に回らず米大陸予選でW杯出場権を獲得しており、世界ランクは19位ながら実力上昇中の注目チームだ。

好調フランスと極上のテストマッチ

 そしてテストマッチシリーズ後半戦の相手はフランス代表だ。2023年W杯のホスト国は、今年の6カ国対抗で全勝優勝。19年W杯では20歳で司令塔を務めたロマン・ヌタマックが経験値を高めて順調に成長するなど、W杯初優勝に向けて強化が進んでいる。

 19年W杯を除くと、フランス代表が来日するのは1984年以来、実に38年ぶり。7月2日の豊田スタジアム、9日の国立競技場での2連戦は、来年に迫ったW杯で2大会連続の8強、それ以上を目指すジェイミー・ジャパンにとって格好の試金石になるだけでなく、エンターテインメントとしても極上の試合を期待できそうだ。

シックスネーションズを制するなど、2023年W杯ホスト国として着々と強化を進めているフランス代表 ©︎Getty Images

 そのテストマッチシリーズで日本代表がどんな戦いを魅せてくれるのか、興味は尽きないが、まずは目の前に迫っているのはリーグワンのプレーオフだ。ということで、プレーオフを見ながら日本代表の夏シリーズを予想する楽しみ方を考えてみよう。

 5月9日に発表された日本代表候補は全部で63人。

 そのうち、プレーオフ進出4チームから選ばれている人数は以下の通りだ。

《1位》東京サントリーサンゴリアス=11人(FW7人、BK4人)
《2位》埼玉パナソニックワイルドナイツ=12人(FW8人、BK4人)
《3位》クボタスピアーズ船橋・東京ベイ=7人(FW3人、BK4人)
《4位》東芝ブレイブルーパス東京=8人(FW5人、BK3人)

 9日のオンライン会見に出席した藤井雄一郎ナショナルチームディレクター(ND)は、「リーグワンになって試合のレベルが上がっている。特にトップ4のレベルは高い。選手の能力もあがっている」と話した。そこから多くの選手を選ぶことになるのは当然の成り行きで、4強からは5位以下のチームよりも多くの代表候補が選ばれた。

 ちなみにトップ4を逃したチームでは、トヨタヴェルブリッツ(5位)から7人、横浜キヤノンイーグルス(6位)とコベルコ神戸スティーラーズ(7位)から各6人、静岡ブルーレヴズ(8位)とNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(10位)、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪(11位)から各1人、リコーブラックラムズ東京(9位)とNECグリーンロケッツ東葛(12位)はゼロ、ディビジョン2を制した花園近鉄ライナーズからは3人が選出されている。

 なるほど、内訳を見ても今回のセレクションは今季の成績、戦いぶりを反映しているといえそうだ。

 そこでプレーオフで注目したい“日本代表対決”を勝手に展望してみたい。

ラグビー日本代表候補63名 W杯3大会連続出場中のHO堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)©︎JRLO

府中ダービーで注目はロック対決

 準決勝第1試合(花園)ではリーグ1位サンゴリアスと同4位ブレイブルーパスが対戦する。第15節(5月1日)にも雨中の味スタで対戦したばかりだから、3週間ぶりの再戦となる(15節はブレイブルーパスが27−3で勝利)。

 ともに東京都府中市にホームグラウンドを持ち、旧全国社会人大会時代から何度も決勝を戦ってきたライバル同士。日本代表を争うマッチアップもたくさんのポジションで発生するが、当欄はFW戦のエンジンにして空中戦の花形、ロックに注目したい。

 ブレイブルーパスの注目は、昨年に流経大柏高から入団し、シニアデビューする前の欧州ツアーで日本代表デビュー、ポルトガル戦で初キャップを獲得した20歳ワーナー・ディアンズだ。

 そのワーナー、国内では高3の花園以後、なかなかプレーする姿を見る機会がなく、話題先行状態だったが、リーグワン開幕と同時にそんな心配は霧消した。シニアデビュー戦となったリーグワン開幕戦(1月8日)で、サンゴリアスを相手にワーナーは力強い突破力を披露。開始8分、相手タックル2人を突き抜けてチームのリーグワン初トライをあげてしまうのだ。この日はさらに後半にもトライを奪っている。

 武器は202cmの身長だけではない。手足が長く、懐が深く、上体を前傾させればもう相手のタックルは届かないから、相手に囲まれても前に出られる。無論、長身を生かしたラインアウトも武器だ。

 蹉跌もあった。2戦目でハイタックルのイエローカードを受け、3試合出場停止の処分を受けるが、これもまたレッスンだった。ワールドラグビーの矯正プログラムを受け、アタックだけでなくディフェンスでも低くヒットする姿勢を習得し、出場停止1試合を減免。そして先発に復帰した第5節ブルーレヴズ戦では1トライをあげただけでなく、ブレイクダウンでも大活躍し、プレーヤーオブザマッチを獲得。

「高校のときよりも周りの選手が大きくなって、無意識のうちに姿勢が高くなっていたのを矯正しました。自分は脚が長いので、上体を倒すだけじゃなく膝を曲げて姿勢を低くすることを意識しています」

 リーグ戦では15試合中13試合に先発し、80分フル出場が6試合。1年ほど前までは高校生だった少年が、世界トップ選手の集まるリーグワンで、当たり前のようにフルシーズンをケガもなく戦い抜いたのだ。

ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)©︎JRLO

松岡修造を叔父に持つ“熱き男”

 対するサンゴリアスのロックには、辻雄康(たかやす/26歳)がいる。慶應高から慶大を経て19年サンゴリアスに加入。190cm、113kgのサイズは超大型化した現在の世界ラグビーではやや物足りなく感じるが、ひとたびグラウンドに出れば身長差など関係なしにハードヒット、ハードタックルを反復する。今季は先発8、途中出場5。どんな使われ方をしても、点差がどんな状況であっても、ひたすら激しく相手に体をぶつけていく。

 器用さは身長も上回るワーナーが上に見えるが、不器用でも強く泥臭いプレーをひたすら反復する選手もラグビーでは必要。過去の日本代表なら大野均を筆頭に大久保直弥、眞壁伸弥……その系譜に連なる男だろう。叔父は誰もが知る熱き男・松岡修造さん。どこまでもポジティブに突き進むプレースタイルは通じるところがある気がする。

東京サントリーサンゴリアス辻雄康 ©︎Yuki Suenaga

 もちろん、このお題は“二者択一”ではない。ともに大活躍を見せて、2人が日本代表でロックのペアを組む……なんて場面も見てみたい気がする。

 準決勝第2試合(秩父宮)ではリーグ2位ワイルドナイツと同3位スピアーズの対決だ。

 こちらも多くのポジションでスリリングなマッチアップが見られそうだが、当欄のオススメは日本代表候補に初選出されたWTB同士の対決だ。

 ワイルドナイツの竹山晃暉(25歳)は2019年度に加入。トップリーグ1年目のシーズンはコロナ禍で打ち切られたが、2年目の昨季は特例ながらリーグ新人賞を獲得している。

 対するスピアーズからは、今シーズンの新人賞最有力候補の根塚洸雅(23歳)を挙げたい。すでにリーグワン元年「最多ラインブレイカー」のタイトル獲得が決まっている魅惑のランナーだ。

 ともにWTBというポジションながら、プレーの持ち味は微妙に異なる。

 竹山の武器は情報収集力だ。ボールの動き、味方の動き、相手の陣形、表情……あらゆる情報を瞬時に入手・処理し、次の場面を予測して最適解を導き出し、軽やかに最適な位置に自分の体を移動させる。だから、本当はとても高度で難度の高いトライを、さも簡単そうに、笑顔まで浮かべたダイビングで取ってしまうのだ。トライフィニッシャーというよりもマジシャンと呼びたくなる。

竹山晃暉(埼玉パナソニックワイルドナイツ)©︎JRLO

個人タイトルを獲得した23歳根塚洸雅

 一方の根塚は「最多ラインブレイカー」を受賞したように、ボールを持って相手DFと勝負し、抜き去る力が最大の武器だ。相手と接近して、タックルへ動かせてからステップを切って猛加速し、狭いスペースを抜き去る様はエキサイティング。リーグ戦のトライ数は竹山の10に対して4と少ないが、フラットな状態からチャンスメークする力、決定的な場面を作ってラストパスを出す力は負けていない。

根塚洸雅(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)©︎JRLO

 7日のリーグ戦最終節では直接対決が実現。66分に竹山がファンブルしたボールを追った根塚が同点に追いつくトライを、78分には相手パスをインターセプトした竹山がダメ押しのトライを決めている。試合はワイルドナイツが35−14で勝利したが、根塚は試合後「次の対戦に向けて学びのある試合でした」と前を見た。この競演がまた見られるのだ。

 WTBといえば、19年W杯ではすでに引退して医師を目指している福岡堅樹さんと、フランスのクレルモンに移籍した松島幸太朗(29歳)が2枚看板だった。今夏は松島も「ケガがなくても休ませなきゃと思っていた」(藤井ND)と、テストシリーズを欠場する見込みで、次世代フィニッシャーの出現は待望されている。

 とはいえ、このポジションにはライバルも多い。特に19年W杯メンバーで、サイズ&パワーのあるアタアタ・モエアキオラ(26歳)、トライスコアリング能力では7季ぶりにトライ王に輝いた山下楽平(30歳)という神戸スティーラーズの2人は楽しみな存在だ。

日本代表候補に選出されたアタアタ・モエアキオラ(左)と山下楽平(ともにコベルコ神戸スティーラーズ) ©︎JRLO

 もちろん、他のポジションでも注目の代表候補は目白押し。負傷者などが出た場合は63人のリスト外からの追加招集もありえる。

 リーグワン初代チャンピオンを目指す戦いは、この夏のテストマッチシリーズ、そして来年に迫ったW杯を戦う日本代表の座をかけた争いでもある。一瞬も見逃せないはずだ。

文=大友信彦

photograph by Kiichi Matsumoto