薔薇の花言葉は「愛」「美」。赤い薔薇ならば「あなたを愛しています」「情熱」「熱烈な恋」などの意味を持ち、さらにそれが1本だけならば「一目ぼれ」「あなたしかいない」となる。

 顔を血で赤く染めた“狂猿”葛西純が差し出したそれを、同じく血に染まった“ならず者ルチャドール”エル・デスペラードは一切の躊躇なく受け取った。

 5月6日の後楽園ホール。『タカタイチマニア2.5』と銘打たれた大会は、稲葉ともかと鈴季すずの再会、鈴木みのるvs綾部蓮、タイチとヨシタツの同期対決など、「2.5」というナンバリングの通り、今まさに点が線になっていく過程を目撃している、という面白さによる多幸感に溢れていた。

 そんな中で一際大きな注目を集めていたのが、葛西とデスペラードの久々の遭遇だった。

 デスペラードはIWGPジュニアヘビー級王者という立場を活用し、自らをより楽しませてくれる刺激を求めていた。新日本プロレスのビッグタイトルは、自分のことをよく知らない他団体のファンに対してわかりやすい通行手形になるはずだった。GLEATのエル・リンダマン、DDTの佐々木大輔、全日本に参戦していたフランシスコ・アキラ、NOAHのYO-HEYら、興味がある他団体の選手の名前を次々と挙げていた王者だったが、5月1日の福岡ドーム大会でベルトを石森太二に奪われてしまった。

5月1日の福岡ドーム。エル・デスペラードは石森太二に敗れ、IWGPジュニアヘビー級王座を失った(クリックすると「この記事の写真」に飛びます。流血等の過激な写真を含みますのでご注意ください) ©Essei Hara

 しかし、ベルトを失っても刺激はやってきた。「痺れるような極上の刺激」が。

「狂ってるとしか言いようがねえ」2人の初対決とは?

 2人の初対決は2019年5月7日、『タカタイチマニア2』でのシングルマッチだった。

 2018年1月23日の『タカタイチマニア』で葛西は飯塚高史と激突し大乱戦を繰り広げていたが、飯塚は2019年の2月に引退。新たな刺激を求めているタイミングでの、デスペラードとの遭遇だった。

 2019年3月31日、『タカタイチハウス』で葛西はDOUKIとシングルマッチを戦い、血祭りにあげたうえで旋回式のリバース・タイガードライバーで勝利。普段は旋回式ではなく、それはデスペラードのピンチェ・ロコを想起させるものだった。決着してからもDOUKIに攻撃を加えようとした葛西は、弟分を助けるためにリングに飛び込んできたデスペラードに満面の笑みを見せた。

 そして訪れた初対決。有刺鉄線ボードを持って入場してきたデスペラードは、ゴングを待たずに奇襲を仕掛けるも葛西にペースを握られてしまったが、ギター攻撃から反撃。しかし最後は場外で乱戦となり20カウントが数えられ、わずか6分55秒で両者リングアウトになってしまった。

 共にやり足りない2人は再試合を認めさせたが、試合はどんどん過激さを増し、とうとうカミソリボードと竹串ボードを使った殴り合いに発展したところで和田京平レフェリーが試合をストップ。通常のプロレスルールで行われていた試合は、7分13秒で無効試合という結末を迎えた。

 試合中に顎が割れたデスペラードは直後に控えていた『BEST OF THE SUPER Jr.』(以下、『BOSJ』)も含めて約5カ月の欠場を余儀なくされたが、自身が大きな怪我を負ったという自覚がありながらも試合後に「これがあんたの言う刺激か? 最高だぜ。俺はあんたに刺激を与えられたのか?」とマイク。葛西は「このリングを見てわかんねえのか? どう見たって、狂ってるとしか言いようがねえだろ」と最高の賛辞で返し、2人は再戦を誓い合った。

あれから3年、互いに想いを募らせていた両者

 デスペラードは、試合の中で感じる「楽しい」「凄い」という感情を、葛西によって「刺激」という言葉で理解できたという。仮にこの遭遇が無ければ、現在のような明確な刺激の求め方とは違う未来もあったのかもしれない。

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 コロナ禍で他団体との交流が難しくなったこともあり、気づけばそれから3年もの時が経ってしまった。

 ただし、決着を心待ちにする2人は互いに特別な存在であり続けた。デスペラードは復帰後、顎を割られたパンチを自らもここぞの場面で繰り出すと、その技をロコ・モノ(狂った猿)と命名。一方の葛西は、大一番でパンチを見舞う際に「デスペラード!」と叫ぶようになった。

 それぞれ、新日ジュニアの頂点に登り詰めても、世界最高のデスマッチファイターとして君臨し続けても、お預け状態になったままの刺激の穴が埋まることはなかった。

 そして6日、会えなかった時間の分だけ想いを強めた2人は、前回のような無効試合になることがないハードコアルールでぶつかり合った。

リングインする葛西純(クリックすると「この記事の写真」に飛びます。流血等の過激な写真を含みますのでご注意ください)

凄惨な流血戦も、会場の悲鳴はいつしか…

 先に入場してきた葛西はロープを持ち上げてデスペラードを招き入れたが、コールが終わるとゴングを待てずに襲い掛かった。2つの行動は矛盾しているようにも思えるが、どちらも愛情の強さの表れだった。刺激を与え合いながら更なる高みへと上っていく両者は、葛西が場外の机にデスペラードを寝かせてダイビングボディプレスでクラッシュさせれば、デスペラードも同じ攻撃で仕返し。その刺激のやりとりはタッグパートナーのDOUKIと本間朋晃にも波及し、4人全員が当然のように血まみれになりながら戦う姿に会場からは悲鳴も上がった。デスペラードと葛西は激しくやり合う、というのは訪れた全員が思っていたはずだが、思っていた以上だったのだろう。

葛西のダイビングボディプレス(クリックすると「この記事の写真」に飛びます。流血等の過激な写真を含みますのでご注意ください)

 DOUKIが真っ赤に染まる姿や、実はかつて大日本プロレスでデスマッチを牽引していた本間(葛西の先輩にあたる)がパイプ椅子やラダーを武器として楽しそうに使いこなす姿は、新日本のリングでの彼らしか知らないファンにとってかなり衝撃的なものだった。

 しかしその悲鳴は、デスペラードがエルボーを打とうと力を入れると額から血が溢れだしたり、DOUKIがミサイルキックで飛ぶと同時に血が飛び出たりするほど凄惨な状況になった終盤には不思議となくなっていた。刺激は2人から4人に伝播しただけでなく、いつしか後楽園ホール全体を包んでいたのだ。

葛西の“プロポーズ”とデスペラードのBOSJ優勝宣言

 試合は葛西がDOUKIを下して決着し、冒頭の薔薇の場面がやってきた。

 葛西は「今日も刺激をありがとう。しかしだ。俺っちはもう、単なる刺激じゃ満足しねえ体になっちまったようだ。おいデスペ、お前からの“超”刺激が欲しい……。つべこべ言わずにシングルやれや」と1本の赤い薔薇でプロポーズ。即座に受け取って告白に応えたデスペラードが「今日いただいたこの刺激を持って、俺はスーパー・ジュニア優勝します」と宣言すると、葛西は新木場1st RINGで初めて向かい合った時と同じ満面の笑みを見せた。2人は拳を合わせて続きを誓い合い、「2.5」というナンバリングにピタリと合ったto be continuedに。実は「3」は1月10日に開催済みなのだが、ようやく動き出した時計の針はもう止まらないだろう。

シングルでの対決を約束した2人(クリックすると「この記事の写真」に飛びます。流血等の過激な写真を含みますのでご注意ください)

 デスペラードは、前回の葛西との遭遇で欠場することになってしまった『BOSJ』を、今回はきっちりと乗り越えたうえで再び対角線に立つつもりだ。もしかしたら、そこまで合わせて清算しなければ「2」より大きい整数には進めないのかもしれない。

 葛西からの刺激というブーストによる制覇、葛西との2度目のシングル実現の手土産としての制覇、というだけではない。同じBブロックには名前を出し続けてきたエル・リンダマンがエントリー(24日に後楽園ホールで激突)。DOUKIとの同門対決(28日、幕張)や、AEWで一気にスターダムを駆け上がっており美味しい存在のウィーラー・ユウタ(22日、秋田)など、追加の刺激には事欠かない。もう一方のAブロックには以前から狙いを定めていたフランシスコ・アキラもエントリーしており、優勝決定戦(6月3日、日本武道館)で初対決となる可能性もある。

UNITED EMPIREの新メンバーとしてスーパージュニアに参戦しているフランシスコ・アキラ(クリックすると「この記事の写真」に飛びます。流血等の過激な写真を含みますのでご注意ください)

 新日ジュニアのタイトルで手に入れていないのは『BOSJ』だけになったデスペラードが、この絶好の機会を逃すわけがない。しかも、その先には更なる刺激があることがわかっているのだから。

 5月17日の『BOSJ』初戦、ティタンに対してロコ・モノを炸裂させると、一気にピンチェ・ロコで勝利したデスペラードは「全部ぶち抜いてやる。俺のロコ・モノで」と宣言。ならず者ルチャドールは、ジュニアの祭典も楽しみつくすのだろう。

文=原壮史

photograph by Masashi Hara