マリーンズには「幕張の摩天楼」とよばれる投手たちがいる。206cmのタイロン・ゲレーロ投手。196cmの国吉佑樹投手、192cmの佐々木朗希投手。

 そして、彼らに並ぶ存在として期待を集めるのがプロ2年目・河村説人投手(24歳)だ。マウンドから角度あるボールを投げ込む姿は圧巻。身長は佐々木朗希よりも大きい193cm(身長は全て自己申告)。

「親戚はみんな大きいですが、家族はそんなに身長は高くありませんね」

 身長は中学校3年生の時にはすでに190cmを超えていた。特になにか努力をしたことはないと話すものの、「あえて言うなら睡眠。とにかくよく寝ていた」と振り返る。ちなみに6歳年上の姉は150cm台だというから驚きだ。

大学を中退し、北海道の星槎道都大へ再入学

白樺学園高校時代の河村説人(2015年)©JIJI PRESS

 北海道出身。白樺学園高校では3年夏に甲子園を経験したあと亜細亜大学に進学。その後は右肩の故障もあり、環境を変えるために1年夏で退学し、翌年に地元の星槎道都大学に再入学した。同学年の選手たちから1年遅れた形での再出発。プロ野球選手になるという志の下、野球と向き合った日々だった。

「どちらの大学での経験も自分にとっては凄く大きい。この期間は自分の人生の中で大事な時期となっている」

 星槎道都大は北海道の北広島にある。在学中にファイターズの本拠地がここに移転してくるというニュースを目にして心を躍らせた。

「身近にプロ野球の本拠地ができる。プロに入って、投げたいという想いがありました。幸い、プロ入りして今はマリーンズの選手となった。(新球場が解説する)来年、投げたいという気持ちは凄くあります」と語る。

転機は伊藤大海との再会「球がエグかった」

 転機は大学3年生の時。愛媛県松山で行われた大学ジャパンの選考合宿に招集された。同じく招集されたメンバーには同じ北海道出身で同学年の伊藤大海投手(現・北海道日本ハムファイターズ)がいた。彼もまた駒澤大を1年で退学しており、1年遅れで苫小牧駒沢大学(現・北洋大学)に再入学していた。自分と似た境遇だったこと、さらには高3春の北海道大会でもベスト4をかけた試合で対戦して負けた経験があったことで、意識する存在になった。

 初めての練習でのキャッチボールでいきなり驚かされた。キレのある伸びるボール。今まで経験したことがない感覚に衝撃を受けた。

「球がエグかった。伸びがやばい。これがプロに行く人のボールなのだろうと思った。そう思ったのは初めての事。このレベルがドラフトで指名される。今まで漠然としていたプロへの想いが1つの目安ができて、意識が変わりました」

 宿舎の部屋も同室だった。必然と野球の話をした。いろいろな会話を交わすうちに気が付いたことがあった。

「すごく自分の感覚を大事にしているなあと思った。しっかりと自分の感覚を把握していて伝えられる選手。それから自分も感覚を大事にして投げるようにしようと思うようになった」

 選考の結果、河村はジャパン入りを逃したが、その後のキャリアを語る上で大きなターニングポイントとなった出来事だった。

東京五輪でも活躍した伊藤大海 ©Naoya Sanuki/JMPA

ドラフト4位でマリーンズへ

 具体的な目標を胸に野球に取り組み、制球力を上げた河村は2020年ドラフト4位でマリーンズ入り。同期入団には、当時の大学ジャパン選考合宿で時間を共にした1位・鈴木昭汰投手(法政大)、3位・小川龍成内野手(國學院大)がいる。一方の伊藤はファイターズにドラフト1位で入団し、ルーキーイヤーからいきなり2桁勝利を達成する活躍を見せた。

 河村も1年目から先発、中継ぎと20試合に登板。防御率3.46。7月7日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム)でプロ初勝利を挙げると、先発4連勝を果たした。

プロ初勝利を挙げ、ウイニングボールを手に井口監督(左)とポーズをとる河村(2021年)©KYODO

 ただ、胸に刻まれているのは嬉しい出来事ではなく、苦い思い出だ。4点のリードの9回に登板し、1アウトもとれずに降板した4月24日のホークス戦(ZOZOマリンスタジアム)である。

「悔しかった。9回ということで色々なことを難しく考えすぎてしまった」と、今でもその時の反省を忘れない。

どんな場面でも動じないポーカーフェイス

 マウンドで感情を面に出さない河村はポーカーフェイスと評されることが多いが、実は内心では緊張しているという。「入りすぎるとダメなタイプ。試合前、試合中も顔の力をうまく抜くようにしている」と、その表情が自身で導き出した答えの上に成り立っている。

 試合開始前も、ブルペンで投げる前にロッカーであえて自分の時間を作る。「どういうメンタルがいいのかは徐々に分かってきた。あえて野球の事を考えない時間も大事。つねに平常心でいるというのは難しいけど、テンションを上げすぎないようにコントロールしている。試合前になにも考えない一人だけの時間を作っています」

河村投手 ©Chiba Lotte Marines

 2年目の今季は、開幕こそ出遅れたものの、5月4日のライオンズ戦(ベルーナドーム)で今季初先発で初勝利を挙げると、同11日のイーグルス戦(楽天生命パーク)で2勝目をマーク。ポーカーフェイスには磨きがかかり、ピンチをピンチと感じさせない堂々たるマウンドさばきを見せている。

佐々木朗希からの刺激「とても勉強になる」

 “幕張の摩天楼”の一角を担う令和の怪物・佐々木朗希投手とは、担当スカウト(柳沼強)が同じという縁もある。そして、よく会話をする。

「マウンドでは凄いけど、普段はヤンチャ小僧。彼は年下だけど、野球に関して話をしていて、取り組み方とか、考えている方向が近いのですごく勉強になる」

 大学時代に伊藤大海のボールに刺激を受けて成長したように、今は完全試合を達成した若き怪物と同じ空間で過ごすことで、さまざまな事を吸収し、自身が飛躍するキッカケを掴もうとしている。

 身長はさすがにもう伸びそうもないが、ピッチャーとしては遅咲きでまだまだ伸びしろがある。

河村投手 ©Chiba Lotte Marines

 ちなみに名前の「説人(ときと)」はどちらから読んでも同じということが由来の一つ。大事にしている言葉は「有難う御座いました」。亜細亜大学時代にミーティングなどで書いていた野球ノートの最後は必ずこの言葉を書いて終わるという習慣があったことから今でも大事にしている。

 マリーンズの背番号「58」。幕張の摩天楼の1人である河村説人に今後も注目だ。

文=千葉ロッテマリーンズ取材班

photograph by Chiba Lotte Marines