メジャーが開幕して1カ月あまり。今季からは両リーグでDHが採用され、激しい点の取り合いの試合展開が多くなると思われていたが、周囲の予想に反して、「投高打低」の傾向が顕著になってきた。

 5月16日終了時点で、平均打率は史上最低ペースの2割3分4厘。極端な守備シフトの影響があるとはいえ、ステロイド全盛期の2割7分1厘(1999年)、2割7分(2000年)と比較するまでもなく、「打低」が浮き彫りになってきた。本塁打数にしても、史上最多の6776本を記録した19年の1試合平均2.79本から1.92本へ激減。これに対し、近年4点台が続いていた防御率も平均3.83と、15年以来となる3点台を記録している。

 その最大の要因が「飛ばないボール」にあるとの分析が、今や球界内では定説となってきた。

 今季は、開幕直後からこれまでのボールとの違いを指摘する声が聞かれていた。スタットキャストなどデータ分析が日常化され、打球速度や角度によって飛距離も計算されるようになった。だが、今季は打球速度が高速とされる100マイル(約161キロ)前後でも柵越えしないケースが見られるなど、現場レベルでは早い時期から話題となっていた。

「なんか柔らかい、ソフトだな」

 実際、エンゼルス大谷翔平も「去年より飛ばない印象はあります、見ている感じでも」と話し、感触として「なんか柔らかい、ソフトだなという印象はあります」と、率直な感想を口にした。

 MLB機構による「公式球の操作」は、これまでも何度となく繰り返されてきた。本塁打数が激増した19年、反発係数の高い「飛ぶボール」が使用されていたことを受け、その後、専門家グループによる検証を経て改良。昨季は、これまでの在庫があったこともあり、2種類の公式球が使用されたが、今季は21年に製造された「飛ばないボール」の1種類だけが使用されるようになった。その事実も、結果的には事後承諾のような形で知れ渡ったに過ぎない。

 その一方で、ボールだけが理由ではないとの声もある。今季は、オフ期間のロックアウトの影響で春季キャンプが短縮され、実戦不足のまま、慌ただしく開幕を迎えた。例年、開幕直後は寒い環境での試合も多く、スロースターターの打者の調子が上がっていないケースも少なくない。ヤンキースのアーロン・ブーン監督は「過去1〜2年で確かにボールは変わった」と認める反面、「投手がすばらしくなった」と、投手の技術向上を「打低」の一因に挙げる。打球に角度を付けるバレルゾーン理論が浸透し、アッパースイングの打者が増加した対策として、高めのストライクゾーンを攻めるなど、バッテリーの配球が変化してきたことも「投高」の理由とも言われる。今後、シーズンが進めば、打者の調子が上向く可能性もあるだけに、「飛ばないボール」に原因を特定するのは早計かもしれない。

 ただ、機構側による「公式球の操作」への疑念は消えていない。というのも、今季は、全国ネットで放送される試合に限って「飛ぶボール」が使用されているとの一説も浮かび上がってきた。5月1日にスポーツ専門局「ESPN」で全米中継された「フィリーズ―メッツ戦」では、4本塁打が飛び交い、両軍合わせて16得点の打ち合いとなった。試合後、メッツのエリック・チャベス打撃コーチが、地元メディアに対し、「ハードに打っていなくても、ボールがより遠くへ飛んだ」と証言。データで確認しても、他の試合とは明らかに異なることを指摘した。

 選手ら現場組が求めるのは、おそらく「飛ぶか」「飛ばないか」ではない。全球団が統一されたボールを使用するのであれば、条件は変わらない。だが、作為的に操作されるとすれば、納得できるはずもない。

機構と選手の溝は深まるばかり

 2019年6月に、英国・ロンドンで行われた初の公式戦「ヤンキース対レッドソックス」は、2試合で両軍合計10本塁打、50得点(17−13、12−8)、いずれも試合時間4時間20分を超える乱打戦となった。この2試合で「極端に飛ぶボール」が使用されたことは、両軍選手の多くが認めており、悪しき前例として知られてきた。

 もし、今後も頻繁にボールが変わるようなことがあれば、公平性は保たれない。

 泥沼化した昨オフの労使交渉は収束したものの、機構側と選手側との間の不信感や深い溝は、公式戦が始まっても埋まっていない。

文=四竈衛

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