もう何度も書いてきたことだが、いまのMotoGPクラスは、ヨーロッパメーカーの台頭で、日本のメーカーは“苦戦”の連続である。それに加えて参戦継続に向けても厳しい状況に置かれ始めているのか、先日、スズキがMotoGPクラスからの撤退を表明した。

 思えば、いまから10数年前、世界経済に大きな影響を与えたリーマンショックでは、カワサキとスズキがMotoGPから撤退。そしていまは、長引くコロナ禍と戦争、カーボンニュートラルへの投資など、企業としてはなかなか先の見えない時代となり、2015年に復帰していたスズキは再び表舞台を去る。

 ホンダもF1からの撤退を決めて、モータースポーツと距離を置き始めている。そういう状況の中で今年のホンダのMotoGPは、コース上の戦いでも一段と厳しい戦いを強いられている。第7戦フランスGPを終えた後に、レプソル・ホンダのアルベルト・プーチ監督が「明らかに、期待している結果ではないし、我々の本来のポジションではない」と現状について語った。

 こうしたコメントは、今シーズンが始まってからほぼ一貫したものであり、特にヨーロッパラウンドに入ってからの3戦、ポルトガルGP、スペインGP、そしてフランスGPでは、より一層明確となり、その対策についてプーチ監督はこう語っている。

「どこを改善しなければならないのかはわかっているし、いま、抱えている問題を解決するためにはもっとテストの時間が必要だ。そのため、引き続き仕事に取り組み、解決策がヨーロッパに届くのを待っているところだ」

 つまりは、正直もうお手上げ。次のニューパーツの到着、もしくは新しいアイデアを待つしかないという厳しい状態をコメントしていた。

マルケスの怪我に始まった常勝ホンダの低迷

 ホンダの低迷が始まったのは、コロナ禍の中でシーズンが始まった20年にマルク・マルケスが右腕上腕を骨折し、長らく欠場したシーズンからだ。マルケス不在の20年は実弟のアレックスが2度表彰台に立っただけで未勝利。マルケスが復帰した21年は、完全な状態ではないなか3勝を挙げた。

 そして今年は7戦を終えて、ポル・エスパルガロが開幕戦で3位表彰台に立っただけ。頼みの綱のマルケスも視力障害再発の不安を抱える上、右腕と右肩の状態も完全ではない。

 これまでは、マシンの状態が完璧ではなかったとしても、スーパーライディングを見せるマルケスがホンダをチャンピオン争いに押し上げ、実際、13年のデビューから怪我をする前年の19年まで7年間で6度のタイトルを獲得してきた。MotoGPクラスでは、これまで59勝をあげており、この数字は、MotoGPに参戦する他のライダーたちの勝利数を合計しても到底及ばない大記録である。そのマルケスが、怪我の影響だけとは思えない大苦戦を続け、6戦を終えて4位を最高位に表彰台はなし。そして迎えたフランスGPでは、これまで聞いたことがないコメントを連発することになった。

「明日の予選はトップ10を狙う」「決勝はセカンドグループで戦いたい」「決勝は6位から7位くらいの勝負ができればと思っていたし、その通りの結果になったが、でも、それは転倒者が出たからで、実際は9位のレースだった」

 これまでどんな状況でも、マルケスは優勝争い、表彰台争いを期待させたものだが、いまは完全に手の届かないところにあることをコメントが裏付けている。

スペインGPで転倒したマルケス。マシン扱いに長けたマルケスとはいえ、今季は不安定なシーンが多い

期待のニューマシンがなぜ…

 マルケスがこの状態なのだから、そのほかのホンダ勢も推して知るべし。その原因は、ひと言で言えば、車体のバランスの問題なのだろう。2022年型RC213Vは、エンジン、車体ともに大幅に改良されて“期待のニューマシン”となるはずだったが、カタール、インドネシア、アルゼンチン、アメリカと続いたシーズン序盤の中高速サーキットでは、良くも悪くもないという印象にとどまった。ただ、特徴的だったのは、ハイサイドでの転倒が多かったこと。電子制御の時代にハイサイドで転ぶのも珍しいと感じたが、ヨーロッパラウンドに入ってからの3戦は、テクニカルサーキットが続き、マルク・マルケスは「これまでは感じなかったが、タイトなコーナーでは旋回性がイチバンの問題」とコメントするようになった。

 スペインとフランスでは、僕の目の前でマルク・マルケスが転び、もしくは転びそうになった。共通しているのは、マシンを寝かせ始めた直後、まだ膝がつく前にフロントが切れ込んでいること。ハイサイドが多かった現象と、この数戦のあまりにも低い限界での転倒、そして転倒寸前の状況は、セッティングと密接に関係があるのだということは容易に想像がつくが、いずれにしても、どうしてここまで迷走してしまったのだろうかと不思議で仕方がない。

 そうした状況の中でスズキの撤退が決まり、ジョアン・ミルとアレックス・リンスという素晴らしいライダーの行き先にホンダの名前が挙がり、ライダー、ホンダとも実際に交渉していることを認めている。しかし、コンストラクターズポイントで6メーカー中最下位のホンダにとって、現状打破に必要なのは、誰を乗せるかではなく、誰もが乗りたいと思わせるバイクを作ることではないだろうか。

7戦終了時点でランキング4位につけるスズキのリンス。来季は青いワークスからは見られなくなる

 あのマルケスがこれほど苦戦しているバイクに、果たして誰が乗りたいと思うのだろう。もちろん、マルケスが大けがをしたことがホンダのつまずきの始まりだが、思えばこの10数年、ケーシー・ストーナー、マルケスというチャンピオンの偉業を支えてきたのは、18年までホンダのライダーだったダニ・ペドロサという偉大なるナンバー2のお陰だったような気がする。MotoGPでもっとも小柄なライダーだったペドロサはニューパーツの評価も的確だったと言われ、とにかく乗りやすいバイクを目指した。その頃のホンダはライダーの平均点が高かったし、「いいバイクは乗りやすいバイク」ということを証明する時期だった。

 コロナ禍もあり、日本のメーカーはマシン開発においてヨーロッパ勢に較べるとはるかに厳しい条件下にあるが、一方で日本勢はヨーロッパ勢に較べるとはるかに大会社であり、過去にも常にハンディキャップを跳ね返してきた。過去2年、厳しいコロナ禍の中で日本メーカーのスタッフは、確かに孤軍奮闘しているように見えたが、それも今年はかなり解消されて、言い訳の材料にはならなくなってきた。

“常勝”復活に欠かせないもの

 いつの時代もレースの勝敗をわけるイチバンの要因は、ライダーやスタッフはもちろんのこと、会社全体としての勝ちたいという強い気持ちなのだろうと思う。そして、現在の差のつきにくい厳しいルールの中でMotoGPクラスの勝敗に大きな影響を与えているのは、モチベーションではないだろうか。

 グランプリのパドックに衝撃を与え、レースファンをがっかりさせたスズキのMotoGP撤退という経営判断が、スズキとともにMotoGPを支え、常勝を誇ってきたホンダやヤマハに伝播しないことを願うばかりである。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo