高円宮杯JFA U-18サッカープリンスリーグ関東の第2節。埼玉の強豪・昌平高校は、試合終盤に中学3年生のMF山口豪太をピッチに送り込んだ。

 同校の下部組織にあたるFC LAVIDAに所属する山口は「来年度チームの10番候補」と言われている逸材だ。卓越したボールコントロールと切れ味の鋭いドリブル、そして精度の高い左足のキックは、通用するどころか、この日の対戦相手・帝京高校(東京)にとっても脅威となっていた。

 現在チームの10番を託され、すでにJ1・FC東京への内定を発表しているMF荒井悠汰(3年)は、「後ろを見たらすぐに(山口)豪太がいる。いつ彼にポジションや10番を取られるか分からない緊張感があります」と3つ下の後輩に対して危機感を募らせる。それほどチーム内の競争が激しくなっているという証だろう。

FC東京入りが決まっているMF荒井悠汰(高3) ©Takahito Ando

強豪校の仲間入り、Jリーガーも多く輩出

 その“競争”が物語るように、近年の高校サッカー界における昌平高校の存在感は年々増している。2008年のサッカー部強化元年から6年目の13年度に埼玉県の新人戦で初優勝を果たすと、翌年の選手権に初出場。16年のインターハイでは初出場で全国ベスト4に輝くなど、一気に強豪校の仲間入りを果たした。

 また、16年度に同校初のJリーガーとなるMF松本泰志(広島)とMF針谷岳晃(磐田→北九州)を輩出すると、そこから毎年のようにプロ入りする選手が誕生。一昨年度はMF須藤直輝、MF小川優介(ともに鹿島)、MF柴圭汰(福島)、FW小見洋太(新潟)の4人が同時にJリーグ入りを果たした。

 一方のFC LAVIDAも、チーム2度目の出場となった昨年度の高円宮杯全日本ユースU-15で初めて決勝に進出。サガン鳥栖U-15に1−4と敗れたが、Jクラブユースが上位を独占する中で残した準優勝という成績は大きな衝撃を与えた。

帝京戦スタメンは11人全てがFC LAVIDA出身。ここ数年でJリーグ入りした選手の半数以上が同じキャリアを歩んでいる ©Takahito Ando

 このチーム強化の裏には、昌平の「6年強化」がある。

 現在、昌平高校で事務長(学校法人昌平学園 法人本部事務局長)も務めるサッカー部監督の藤島崇之が下部組織「FC LAVIDA」を立ち上げたのは2012年。「選手たちを育てる指導者の存在が不可欠」(藤島監督)と創設したのが始まり。“良い素材”を集めるだけでなく、指導者の育成という二軸の観点でジュニアユースチームが誕生した。

 近年の高校サッカー界でも「6年強化」は珍しくなく、青森山田(青森)や神村学園(鹿児島)、静岡学園(静岡)、日章学園(宮崎)などが全国屈指の強豪中学として知られてきた。昌平も同じ中高一貫校だが、特筆すべきは山口をはじめとするFC LAVIDAの選手の大半が昌平中学に在籍していないことだ。

 中高一貫校を持ちながら、部活ではなく、クラブチーム化したことでより多くの地域の子どもたちを巻き込んだ強化を実現。現在では近隣の中学校からだけでなく、関東近郊から昌平高校でのプレーを見越してFC LAVIDAの門を叩く中学生も在籍しているという。

全日本ユースU-15でも準優勝するなど、結果を出し始めているFC LAVIDA(学校提供)

JFA主催のリーグ戦には出場可能

 早くからその才能が開花した選手が山口のように、1つ上のレベルでプレーできる環境はJリーグユースさながら。インターハイや高校サッカー選手権といった高体連の試合に出場することはできないが、日本サッカー協会主催のリーグ戦(プレミアリーグ、プリンスリーグ、都道府県リーグ)では高校年代の試合に飛び級での出場が可能。昌平とFC LAVIDAはこの制度を活用し、早いうちからレベルの高い環境でのプレー機会を与えてきたというわけだ。ちなみに前述した現10番の荒井も中学時代から高校の練習に参加するなど高いレベルでの活動を経験したことが飛躍のきっかけにつながっている。

 昌平の他にも帝京長岡と長岡JYFC(新潟)など強化に成功しているケースがあるが、こうした組織がつくられた背景に、1つの社会問題が影響していると藤島監督は語る。

「6年強化の流れは今後も加速していくでしょう。そこには『部活動の限界』があります。中学のサッカー部として活動する場合は、一定数の学校教員が必要になりますし、外部コーチを雇いづらい問題が生まれます。それに中学のサッカー部として特待生を取るのか、取らないかという学校経営の判断にも直結する。そこには、それぞれの学校の方針があるので、必ずしも『強化したほうがいい』という選択になるとは限りません」

 先日、スポーツ庁が主導する「公立中学校の運動部活動改革」が報じられた。2025年までに中学の部活を民間委託し、顧問など教員の土日における負担を軽減させる案が出されたというもの。それは昌平のような私立中学も直面する課題だろう。さらに、スポーツに注力しやすい高校とは違い、入試を要する私立中学の場合は学力重視の方針を掲げる学校やそれを望む生徒が多い。藤島監督が語った課題をクリアしてまで特定の部活動を強化することは、決して容易なことではないのだ。

 そこで、高校サッカー部の強化を見据えた藤島監督が行動に移したのは、「部活動ではなく、地域体育としてのハブの役割」を担うことだった。

 中学校の部活とは別の組織を構築することは、垣根を越えた選手集めを実現するだけでなく、練習拠点も学校のグラウンドと施設を活用できるメリットがあった。

 また、藤島監督をはじめ3名の教職員以外のコーチ(指導者)や運営スタッフの雇用はすべてFC LAVIDA採用で確保した。FC LAVIDAの村松明人監督が高校のヘッドコーチを兼任するように、クラブに雇われたコーチ陣は中学生から高校生まですべてのカテゴリーに携っており、2020年11月に創設した小学5、6年生を対象としたエリートスクールまで、幅広い世代を兼任しながら指導に当たっている。

FC LAVIDAの練習風景(学校提供)

「多くの指導者に触れる機会を」

 こういった複数の課題をクリアしながら、高校サッカー部の強化に繋げてきた藤島監督は、感受性の高い思春期の時間に多くのスタッフの指導に触れることは人格形成においても重要だと語る。

「6年間を通じてなるべく多くの指導者に関わってもらうことで、価値観も養えるし、各学年1人、1人にきめ細やかに目を配ることができます。選手たちはいろんな視点、意見を学びながら、自己発見をして成長をしていくことができると思っています」

 こうした組織づくりではトップダウン的な指導になる例も少なくないが、指導者同士の交流が盛んなこと、そしてフィードバックの機会を必ず設ける仕組みは、サッカーにおけるトレンドにも柔軟に対応できるようになったという。

「(FC LAVIDA創設から)10年経ちますが、その間でも多くの変化がありました。一番は『サッカーの変化』です。世界的に見ても戦術、戦略の面は日進月歩で、柔軟性を持たないと置いていかれてしまう状況にあります。凝り固まったサッカーのスタイルはその時の流れにハマれば良いですが、ハマらないとギャップを生み出してしまいます。変に組織のコンセプトなどにガチガチに固められるのではなく、時としてそれと違うことを伝えたほうがプラスのこともあると思います。

 だからこそ、『サッカーはこうあるべき』というような凝り固まった考え方を養うのではなく、組織全体がプラスになる変化を受け入れる柔軟性を持ち続けることが、継続的に組織として発展したり、良い選手を育てていく肝になると思っています」

「将来的には総合型クラブに」

 Jリーグが加盟条件として下部組織の創設を義務付けたことで高校サッカー界もアップデートを余儀なくされた。少子化が進む社会では、学校教育にもさらに変化が訪れるだろう。

 そういう時代背景の中で行われた昌平とFC LAVIDAの取り組みは、育成アプローチだけでなく、組織(学校)と地域社会との連携、雇用の創出という多角的な視点を提示している。「部活動の限界」が迫っているからこそ、高校サッカー界から現状打破と育成ロールモデルの構築の足がかりを作っていきたいと藤島監督はビジョンを明かす。

「将来的にはサッカーだけではなく、陸上をはじめ、その他のスポーツを含めた総合型クラブとしてやっていけたらいいなと思っています」

 中学生が高校生の試合に出場するという事実から見えた新たな部活のあり方。10年前に始まったチャレンジが、実を結び始めている。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando