W杯出場決定後初の活動となる6月のテストマッチに、森保一監督は28人の選手を招集した。チームは6月2日にパラグアイ、6日にブラジル、10日にガーナ、14日にチリまたはチュニジアと対戦する。ブラジル、ガーナ、チュニジアはW杯出場を決めている国だ。

 W杯のメンバー発表前の活動は、今回と9月の2回に限られる。残された時間は、意外なほど少ない。

 このタイミングで選手に、チームに求められるものは何か。元日本代表で2010年南アフリカW杯に出場した中村憲剛氏に聞く。

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 メンバーリストを見た第一印象は、「初招集がひとりにもかかわらず、見どころが多いな」というものでした。5月20日の発表を前に、一部のメディアで「この選手を呼んでほしい」といった記事を見ましたが、タレントはすでに十分過ぎるぐらいに揃っています。最終予選を通して若い世代が入ってきたことで激しい競争が繰り広げられており、率直に言ってこのタイミングで新しい選手が割って入るのはなかなか難しいのかな、と感じます。

 残された時間の問題もあります。6月シリーズの4試合と9月の2試合の合計6試合で、カタールW杯に臨まなければなりません。9月の2試合は直前のテストマッチですから、より本番を想定したメンバーで戦うと考えられます。「新しい選手を呼んでほしい」といった意見があるかもしれませんが、今後のスケジュールを考えると、テストをする機会と新戦力を戦力としてフィットさせる機会が十分ではありません。

 それならば、「どうしてここまでの活動で呼ばなかったのか」という意見があるかもしれません。しかし、コロナ禍の影響でこれまでのW杯予選のように親善試合を組む時間を設けることが出来ず、集まってすぐに本番に臨むレギュレーションとなりました。緊迫感のあるひとつも落とせない試合の連続では、新戦力を試したくてもなかなか試せない事情があったと思います。

最終予選では新戦力の招集に慎重だった森保一監督 ©Takuya Sugiyama/JMPA

 予選を突破した既存のメンバーでタレントは揃っている、そして準備期間がいつになく限られていることを踏まえ、森保監督はチームの熟成に軸足を置いているのでは。そうした狙いがうかがえるメンバー構成だと思います。

大迫勇也が不在の最前線、注目すべきポイントは?

 これまで中心的な役割を担ってきた大迫勇也が、今回はメンバー外となっています。森保監督は以前から、コンディションが万全でない選手の招集に慎重です。大迫についても、「100パーセントに戻してほしい」と話していましたが、所属するヴィッセル神戸では直近のJ1リーグ戦に出場していません。招集に踏み切れる状態にはない、と判断したのでしょう。

 同時に、森保監督にとっての大迫は、「何ができるか分かっている選手」です。無理をさせる必要はありません。

コンディションを理由に日本代表を外れた大迫勇也。所属するヴィッセル神戸もJリーグで苦戦が続いている ©Takuya Sugiyama/JMPA

 むしろ、大迫不在時のオプションを作るならこのタイミングでしょう。彼の不在を機に、これまで出場機会の少なかった選手、日本代表からしばらく遠ざかっていた選手を起用し、戦い方の幅を広げる4試合になると思います。

 最前線での起用が予想されるのは、上田綺世、浅野拓磨、古橋亨梧、前田大然の4人です。世界との戦いでは、スピードがより大事になります。ドイツにもスペインにもカウンターは効くと思いますので、浅野、古橋、前田らスピードが武器の選手たちの使い方は整理しておきたいところです。

 崩しの局面でパスの出し手と彼ら受け手との呼吸を合わせるためには、本来ならもう少し時間がほしいところです。タイミングをすり合わせる機会が限られているだけに、今回の4試合を有効に活用する必要があるでしょう。

EL制覇・鎌田大地の復帰は「非常に楽しみ」

 鎌田大地と堂安律の「復帰」も、今回のトピックにあげられます。鎌田は昨年11月以来、堂安は今年1月以来の招集となります。

ヨーロッパリーグの優勝カップをかかげる鎌田大地と元日本代表キャプテンの長谷部誠 ©Getty Images

 フランクフルトのヨーロッパリーグ制覇に貢献した鎌田ですが、「シーズン開幕前は、クラブに残るつもりはなかった」というコメントを残しています。その当時は移籍の可能性を探っていたわけで、カタールW杯アジア最終予選が開幕した昨年9月は、色々な意味で整っていなかったのだと想像します。

 しかし、そこから腰を据えてフランクフルトで戦い、EL制覇の一員となった。最終予選序盤とは違うテンションやコンディションで、今回の日本代表の活動に臨めるはずです。個人的には非常に楽しみな選手のひとりです。

鎌田大地と堂安律をどう起用するのか

 読者の皆さんが気になるのは、鎌田の起用法でしょうか。

 4-3-3のシステムなら、インサイドハーフか。もしくは、システムを4-2-3-1にしてトップ下に置くか。あるいは、3-4-2-1のシステムにして、フランクフルトと似たようなタスク(シャドー)を与えるのか。

 日本代表の4-3-3は、アンカーの遠藤航、インサイドハーフの守田英正と田中碧の3人が非常に重要な役割を担っています。彼ら3人がチーム全体を支えていると言ってもいいだけに、鎌田を起用するなら4-2-3-1のトップ下がもっともスムーズでは、と考えます。

 堂安は所属するPSVで、ボランチでも起用されていました。インサイドハーフにも対応できるのでは、という期待はあります。4-3-3なら右ウイングが適正ポジションです。そこには、最終予選を通して不動の存在となった伊東純也がいます。

 鎌田と同じように堂安も、所属クラブで好パフォーマンスを披露しました。代表復帰に異論はなく、あとはどのように彼らを生かすのかがポイントになります。

今季オランダのPSVでリーグ戦8ゴールをあげた堂安律 ©Getty Images

 言い方を変えると、今回の4試合で4-3-3のとらえ方が見えてくるのではないかと思っています。たとえば、鎌田と堂安をインサイドハーフに入れて、遠藤をアンカーに置くといった形を取るのか。それとも、鎌田や堂安を使う際は4-2-3-1などへシステムを変えるのか。システムと選手の個性をどう組み合わせていくのか。森保監督の采配に注目です。

伊藤洋輝が初招集のDF陣は競争激化へ

 DF陣に目を移すと、伊藤洋輝が初招集されました。今回唯一の初招集になります。

 シュツットガルトでは3バックですが、日本代表では4バックの左CBが想定されるポジションです。左足のフィードは正確で、年間を通してブンデスリーガで戦ってきたフィジカル的な強さもある。彼の起用に目途が立てば、冨安健洋を右SBで使うといったこともできます。

 その右SBでは、酒井宏樹が不在です。代わって菅原由勢が招集されました。

 最終予選でレギュラー格だった酒井、吉田麻也、冨安、それに長友佑都については、所属クラブで怪我だったり、十分なプレータイムを得ていなかったり、コンディションが整っていなかったりと、それぞれ状況が変わってきています。ここからW杯までの期間で、ファーストチョイスが変わるポジションがあるかもしれません。

 伊藤も菅原も、複数のポジションをこなすことができます。彼らがいることで、選手起用が柔軟になります。今回のパフォーマンス次第では、23人の枠に入ってくる可能性もありそうです。

伊藤洋輝は最終節で遠藤航の劇的な決勝ゴールをアシストし、シュツットガルトの1部残留に貢献した ©Getty Images

本大会の23人は「30人強のグループ」から選ばれる

 あくまでも個人的な見立てですが、今回の28人に大迫、酒井、旗手怜央、GK谷晃生ら数人を加えた30人強のグループから、カタールW杯に出場する23人が選ばれるのではないでしょうか。

 旗手が招集されなかったのは、コンディションが理由と考えられます。彼は守田、田中と川崎フロンターレでプレーしていて、4-3-3のインサイドハーフにも慣れています。4-3-3で中盤のオプションに成り得る選手で、森保監督にとっては大迫と同様に「何ができるのかが分かっている選手」です。

 シーズン終盤のセルティックの試合からは相当に疲れていることが見て取れましたので、森保監督は回復を優先させたのでしょう。コンディションさえ戻れば、競争に加わってくると思います。

 クラブでも代表でも、負けていい試合はありません。日本代表にとって今回の4試合は、W杯を意識したテストマッチになりますが、当然勝利にもこだわらなければなりません。同時に、個々の経験値を高め、グループ、チーム戦術を浸透させることも、勝敗と同じくらいに大切です。そういうことが可能なのが、テストマッチなのです。W杯へ向けて自信を膨らませるような結果を求めつつ、競争激化を印象付ける個々のパフォーマンスを期待したいと思います。

文=中村憲剛+戸塚啓

photograph by Takuya Sugiyama/JMPA