冨安健洋のプレミアリーグ挑戦1年目が終わった。

 5月22日に行われたプレミア最終節エバートン戦を「太もも裏の張り」(アーセナル公式発表)で欠場。黒シャツの私服姿で、仲間たちの戦いをベンチ裏で見守った。

 試合はホームのアーセナルが5-1で圧勝したが、欧州チャンピオンズリーグ出場圏内の4位トッテナムも最終節ノリッチ戦に勝利した。そのため、5位のアーセナルは勝ち点で追いつくことができず、CL出場の夢が叶わなかった。

 最終節後には選手たちが場内を1周し、サポーターの声援に拍手で応えた。6季ぶりとなる欧州最高峰の舞台への復帰は実現しなかったものの、アーセナルファンは拍手で選手たちの労をねぎらっていた。そして、冨安も私服姿のままピッチを回り、拍手でファンに感謝の意を表した。この間、スタンドでは日本代表を称える「スーパー、トミヤス」のチャントが起きた。

ラガゼットと談笑する冨安 ©Getty Images

 アーセナルサポーターの温かい反応は、「よくやった」と選手たちを褒めているようだった。

 クラブ史上67年ぶりの開幕3連敗で最下位に沈んだ序盤戦の大苦戦を思えば、ここまでよく持ち直した。来季に向けて前向きな気持ちになれるパフォーマンスを見せたのも事実で、チームの奮闘と来季への期待が大きな拍手につながっていたように思う。

悪夢の開幕3連敗から冨安加入で空気が一転

 今季を振り返ると、9月11日のノリッチ戦がアーセナルにとって一大転機だった。8月に悪夢の開幕3連敗を喫した後、ミケル・アルテタ監督には解任論が沸き起こった。スペイン人指揮官はこのタイミングで新戦力をスタメンに抜擢し、若手中心の編成に切り替えた。

 その中に、昨夏の市場で加入した当時22歳の冨安がいた。新戦力のGKアーロン・ラムズデイル(同23歳)、DFベン・ホワイト(同23歳)とともに先発メンバーに入り、1ー0の完封勝利に貢献。守備が安定したことで、攻撃も見違えるほどスムーズになったアーセナルは、ここからリーグ戦で8戦無敗(6勝2分)の快進撃を見せた。

デビュー戦、スターティングオベーションで称えられた冨安 ©Getty Images

 冨安の加入効果は抜群だった。

 チームの弱点だった右サイドバックに入ると、力強い守備で対峙したマーカーを抑えた。空中戦でも圧倒し、当たり負けするシーンも皆無だった。怪我の影響で国内リーグの出場数は38試合中21試合と少なかったが、それでも34回のパスブロック数はチーム3位、36回のインターセプト数も同3位と、好成績を残した。

英メディア「ポゼッションと守備の両方で貴重な選手」

 攻撃面でも大きな役割を果たした。

 ポゼッション時には、右サイドから中央部にポジションをスライド。冨安のポジション移動で最終ラインは4バックから3バックに変形し、左サイドバックのキーラン・ティアニーの攻撃参加を促すという難しい役割をこなした。左右両足を器用に使いながらビルドアップでも貢献し、攻守両面で存在感を示した。

 その一方で、怪我に泣いたシーズンでもあった。12月中旬に右ふくらはぎを痛めて離脱すると、強行出場での実戦復帰と怪我再発を2度繰り返した。2月には反対の左ふくらはぎを負傷。復帰できたのは4月23日のマンチェスター・U戦で、5試合出場した後、再び怪我を抱えて欠場した。

 それでも英メディアは、今季のシーズンレビューで冨安に称賛の声を上げた。

 英スポーツサイトのアスレティックは、アーセナルにおける「今季最大のサプライズ選手」に冨安を選出。「デビュー戦となった昨年9月のノリッチ戦からヒットした。右サイドで絶大な頼もしさを見せ、ポゼッションと守備の両方で貴重な選手となった」と指摘。「両足でプレーできる能力は非常に重要で、守備時における我慢強さと意思決定も、これまで最終ラインにあまり見られなかった落ち着きをもたらすことにつながった」と高く評価した。

トッテナムとのダービーでケインのシュートをブロック ©Getty Images

最終節後、今季の総括を本人に聞いてみると……

 最終節エバートン戦後、冨安に今季の総括として話を聞いた。日本代表DFは静かな口調で次のように話した。

「本当に満足できないシーズンでした。来シーズンに向けて、しっかりまた準備していく必要があるなと思っています。プレミアに慣れていないからこそ、怪我をしたんだと思います。まだまだだなという感じですね。

(記者:それでも英メディアの評価は高いが?) まだまだですよ、本当に。僕の中では全然(足りない)という感覚の方が大きいです。監督が求めているサッカーをピッチ上で完全に表現できているかと言われると、そうでもないので。20試合ぐらい(※アーセナルでは公式戦22試合出場)しか出られなかったし、本当に満足のいくシーズンではなかったですね」

冨安が感じる自身の課題とは?

 冨安の言葉は、自身の課題について及んだ。

「攻撃の部分で、もうちょっと貢献できるところもあると思います。ボールを持った時のところというのは、まだまだ課題が残っているかなと。(記者:守備では自信になったところはあるか?) 右サイドバックをやっていて、相手のウィングを止めることが僕の仕事です。まずはそこが第一と思っています。守備を含めて、アーセナルというクラブでプレーしている以上、まだまだ自分自身求めていくところがあるかなと思います」

 冨安を取材していて常々感じるのは、自身への評価が非常に厳しいことだ。

 最終節後、何度も口にしていたのが「まだまだ」という言葉。英サッカーサイト、フットボール・ロンドンにも「冨安は今季で最も効果的な補強だった」と評価されているが、本人は現状にまったく満足していない様子だった。

高評価の試合でも「はっきり言って満足できない」

 5月1日のウェストハム戦でも似たような印象を抱いた。

 対峙したアルジェリア代表FWサイード・ベンラーマのドリブル突破をうまく抑え、フットボール・ロンドンと地元紙ロンドン・イブニング・スタンダードから、チーム2位タイとなる「7点」の高評価が与えられた。

 しかし、足の痙攣で後半33分に交代したせいか、本人は「はっきり言って満足できるものではなかった。シンプルにミスが多かったです。ボールを奪った後に、(自分が)またすぐに失ってとなると、僕らが求めているサッカーではない」と、反省の言葉を口にした。故障明けながら随所に好プレーを見せていたが、自身には厳しい眼差しを向けていた。

 裏を返せば、冨安のこうした妥協を許さない姿勢が、アビスパ福岡からベルギーのシント・トロイデン、さらにイタリアのボローニャを経て、世界最高峰のプレミアリーグまで辿り着いた理由でもあるのだろう。現状に満足はせず、常に高みを目指す。こうしたストイックさが、今の冨安を形作っている。

ボローニャ時代、ロナウドとのマッチアップ ©Getty Images

ソン・フンミン、マネらと対決した貴重な経験値

 今一度シーズンを振り返ると、さまざまなドラマがあった。

 ラヒーム・スターリング(マンチェスター・C)、ソン・フンミン(トッテナム)、サディオ・マネ(リバプール)、ジェイドン・サンチョ(マンチェスター・U)といった世界トップの選手たちとしのぎを削った。

 相手の執拗なロングボール攻撃で試合後に疲れて座り込んだバーンリー戦(9月18日)、ガブリエウ・マルチネッリへの柔らかいクロスボールで初アシストを記録したニューカッスル戦(11月27日)、急遽左サイドバックとして出場したリーズ戦(5月8日)と、印象に残る試合も多かった。

「アーセナルで何かしら勝ち取れることが……」

 1シーズンを戦ったプレミアリーグについて、冨安は「シンプルに1試合のインテンシティが高い分、その1試合の疲労度というのはやっぱり全然違います。あとは毎試合、毎試合100%の状態でないと難しい試合になる」と言う。

 そして、次のように力を込めた。

「ここで生活をしていて幸せに感じます。アーセナルでプレーしていることも幸せに感じています。できる限り長くここでプレーすることと、何かしら(タイトルを)勝ち取ることができたらいいなと思っています」

 かくして、冨安のプレミア1年目は幕を閉じた。「まだまだです」「本当に満足していない」と本人は語りながらも、世界最高峰のプレミアリーグで貴重な経験を積み、試合を重ねるごとに成長していったのは紛れもない事実である。

22-23シーズンのアーセナルのユニフォームに身を包んだ冨安 ©Getty Images

 プレミアリーグと欧州リーグ、そして11月には日本代表としてカタールW杯も控えている来季、果たしてどんなストーリーが待っているか。23歳のサムライ戦士の活躍に期待したい。

文=田嶋コウスケ

photograph by Visionhaus/Getty Images