雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は史上最年長53歳での日本ダービー(東京優駿)制覇を成し遂げた武豊にまつわる4つの言葉です。

 
<名言1>
負けたダービーは全部悔しいですよ。
(武豊/Number978号 2019年5月16日発売)

 ◇解説◇

 武豊が久々に、ダービーで渾身のガッツポーズを見せた。

日本ダービーを制したドウデュースと武豊 ©Keiji Ishikawa

 29日に東京競馬場で行われた日本ダービー、武豊騎乗の3番人気ドウデュースが直線で後方から一気に差し切り、2分21秒9のレースレコードで優勝した。そしてこの勝利によって、武豊は前人未到6度目のダービー制覇、さらには史上最年長53歳2カ月15日での同レース勝利となった。

 1998年:スペシャルウィーク/29歳

 1999年:アドマイヤベガ/30歳

 2002年:タニノギムレット/33歳

 2005年:ディープインパクト/36歳

 2013年:キズナ/44歳

 2022年:ドウデュース/53歳

スペシャルウィークと武豊 ©Sports Graphic Number

 20代から50代まで、4つの年代すべてでダービー制覇を経験したことになる。これだけでも偉大なジョッキーであることがわかる。

 1988年ダービーデビュー以降、武豊は“競馬の祭典”においても常に主役であり続けてきた一方で、人一倍悔しさも味わってきた。1番人気ながら2着に終わった1996年のダンスインザダーク、2000年のエアシャカール……。

「何着でも負けてしまえば、悔しいものは悔しい。そこに差はありません」

 稀代のスタージョッキーであっても、迷ったまま乗ったことを悔いるレースが多々あると言うが、しかしながら、ことダービーにおいては不思議と“後悔”の念は「あまりない」。勝利の美酒だけでなく、敗戦の味すらも特別——。全身全霊を懸けて挑む一戦だからこそ、記憶が鮮明なのだろう。

ディープインパクトに騎乗するという重圧

<名言2>
ディープでゴールした時は、毎回心底ホッとしてたよ。
(武豊/Number927号 2017年5月18日発売)

 ◇解説◇

 ディープインパクトは無敗での三冠制覇をはじめ、種牡馬になってからも数々のGIホースを輩出した名馬であり、平成の日本競馬史を変えた1頭と表現して過言ではない。

ディープインパクトと武豊 ⒸTakuya Sugiyama

 そのディープの全14レースの鞍上を任されたのは、武豊だった。スターホースゆえ、天才ジョッキーですら大きなプレッシャーに悩まされた。

「勝てるとは思っていても、競馬だからやってみなければどんな結果がでるかわからない。勝っても『やったー』ではなくて『やれやれ』という気持ちだった」

 それほどまでに日本じゅうから「強さ」を求められた馬だった。皐月賞を制して臨んだ日本ダービーでは、優勝インタビューでこんな言葉を残している。

「いま、感動してます。この馬の強さに」

 武とディープインパクトは重圧を乗り越え、史上最強のコンビへと上り詰めたのだった。

ルメールが「憧れ、尊敬する先輩」と語るワケ

<名言3>
ユタカさんは僕がフランスにいる時からの憧れのジョッキーであり、尊敬する先輩です。その気持ちは日本に来てからも同じで、ずっと持ち続けています。
(クリストフ・ルメール/NumberWeb 2019年3月1日配信)https://number.bunshun.jp/articles/-/838473

 ◇解説◇

 ダービーで抜け出たドウデュースを、最後の最後まで追いつめたのは、ルメールが跨ったイクイノックス。ルメールにとって、2017年レイデオロ以来となるダービージョッキーへの執念を感じさせる騎乗だった。

 日本とフランスが誇る名手である武豊とルメール。今春から放映されている人気スマホゲーム『ウマ娘』のCMでもそれぞれが出演して話題になっているが……普段からリスペクトに溢れた関係のようだ。

武豊が通算4000勝を飾った際、祝福するルメール ©Eiichi Yamane/AFLO

 武豊が興味深いルメール評を語っていたのは、最強牝馬アーモンドアイが3歳の頃のことである。

「クリストフの素晴らしいところは沢山あるけど、例えば下手な先入観を持たずに乗れるところなどもその1つだと思います。桜花賞は後方からモノ凄い末脚で勝っていました。その馬で、オークスは先行して抜け出した。

 前に勝った時とまるで違う競馬をさせるのは、なかなか難しい。ましてそれで勝つのは更に難しい。それをいとも簡単にやってのけるのは技術面を含め、色々な面に長けているからだと思います」

 このように絶賛されたルメールは2018年に年間215勝を挙げて、それまで武豊が保持していた2005年の212勝を更新している。ただそれについて問われたときも、こんなコメントを残していたのだ。

「でも、記録を1つ抜けたからと言って、ユタカさんを抜けたとは思っていません。彼が憧れの存在であり僕の大きな目標とするジョッキーであることは、今でも変わりありません」

名手・岡部の通算勝利を塗り替えた際の“宣言”

<名言4>
ここまで来たら、誰にも破られないところまで行きたい。
(武豊/Number685号 2007年8月17日発売)

 ◇解説◇

 武豊が岡部幸雄の持つ史上最多勝利記録を抜き、歴代トップに立った2007年の言葉である。

「プロの騎手としてのスタート台に立ったとき、岡部さんは間違いなく雲の上にいた人でした。(中略)そんな凄い人の記録を抜くという事実に、とてつもない重みを感じていました」と、その瞬間の心境を振り返りつつ、さらなる高みを目指していた。あの時以来、武は前人未踏の道を歩み続けている。

Number888号/2015年の表紙カット ©Takuya Sugiyama

 ドウデュースは凱旋門賞への登録を済ませており、今秋の海外挑戦を見据えているという。日本競馬界にとって長年の悲願である日本馬・日本人ジョッキーでの凱旋門賞制覇はなるのか——。人馬一体となった武豊の騎乗に今後も目が離せない。

文=NumberWeb編集部

photograph by Keiji Ishikawa