広島に何が起きているのか——。

 開幕直後の勢いから一転、急失速した交流戦の戦いぶりではない。今季、広島が残すある数字に異変を感じている。それは、12球団最少の10という盗塁数にある(6月6日時点。数字は以下同様)。

 広島と言えば機動力野球、と長く言われてきた。「機動力=盗塁」ではないものの、広島の機動力野球を強く印象づけてきたのは盗塁の数であった。

 調べてみると、リーグ最少の盗塁を記録したシーズンは黎明期を中心に7度ある。ただ、広島野球の基礎をつくったともいえる球団初優勝の75年以降は、81年の1度のみ。広島がリーグ優勝した計9シーズンの盗塁数を見ると、リーグ1位が6度、2位が3度。印象に残るのも当然である。

 そんな広島の足攻が今季は影を潜めている。リーグ5位DeNAの盗塁数に盗塁失敗数を加えても及ばない。昨季リーグ3位の盗塁数からここまで急激に数字を落とすほど戦力が落ちたとは思えず、走力や走塁技術が落ちたとも考えにくい。

 58試合で10盗塁はシーズン143試合換算で24.7盗塁となり、プロ野球史上最少のペースだ。日本プロ野球史上最少だった85年ヤクルト(130試合)、93年中日(132試合)、94年巨人(130試合)の29盗塁を下回る。

 盗塁数が上がれば得点数が上がるわけでもないし、勝率が上がるわけでもない。事実、今季の広島は盗塁数だけでなく、本塁打数もリーグ最少の24本にとどまっている中で、リーグトップタイの得点数を残している。

影を潜めた機動力野球

 盗塁だけでなく、ヒットエンドランなど機動力を絡めた作戦もあまり見られない。相手バッテリーを揺さぶるでも、警戒させるでもなく、バッテリーと打者との“ガチンコ勝負”ばかり。選手個々の能力で打開してきた印象が強い。とはいえ、リーグトップのチーム打率.253を残している打線は強力と言える。

 交流戦では多彩な攻撃を繰り出してくるパ・リーグ相手に劣勢を強いられている。交流戦12試合で打率.219、0本塁打、22得点、2盗塁に対し、対戦相手には打率.264、12本塁打、61得点、9盗塁を許している。

 負けが込めば、見えなかった弱点が浮き彫りになることもある。攻撃のバリエーションを欠く状況にも、東出輝裕野手総合コーチは冷静に現状を捉えている。

「今のメンバーでは走らせられない。(走力のランク的に)SとかAというより、BやCが多い。失敗の確率が高い中で、わざわざリスクを冒す必要はない」

 主力選手のコンディションを考慮しつつ、非情とすら感じるほど選手の能力や状態にシビアな一線を引く。

 開幕直後は8番に固定された上本崇司が中軸を返し、自ら出塁して上位につなぐ役割を果たしたことで攻撃に幅が生まれていた。だが、上本が調子を落としてスタメンから外れ、選手個々の調子の浮き沈みもあって打線全体が機能しているとは言い難い状況に陥った。特に交流戦では得点力低下が顕著だ。

「今の打線の中で動かすなら上位2人。その後ろは3番の西川(龍馬)はチーム内でも打撃力があり、そこでは動かしづらい。クリーンアップの後ろを打つ6番小園(海斗)のところで小技をと思っても、今は下位が固定できていない」

 東出コーチと作戦を練る迎祐一郎打撃コーチは現状、野間峻祥が1番に復帰してから6番までを中心に得点に結びつける形を現状の最善策とみている。

待たれる若手の成長

 機動力野球とはつまり、多少のリスクを覚悟しながら仕掛けることで相手を揺さぶるメリットを得ることだが、現実にはチームは大胆な現実路線に舵を切っている。

 現状が最終形というわけではないようだ。東出野手総合コーチは機動力強化の鍵を握る選手の名前を挙げ、若手に奮起を促す。

「宇草(孔基)とか(中村)奨成とかがスタメンを奪えば、自然と盗塁の数も増えていくはず。そういった選手たちがまだ決まっていない打順、ポジションに入ってこられるかどうか」

 伝統や理想に背を向けてまで現実路線に舵を切り、目の前の1勝にこだわっている。交流戦で苦戦するも、リーグでは3位につける。歴代最少盗塁に終わった85年ヤクルトは最下位となったものの、93年中日は2位。94年巨人はリーグ優勝している。中日や巨人のように盗塁数の影響を受けずに順位を上げていくのか、それとも再び機動力野球を取り戻すのか。茨の交流戦を経て進む道はどちらになるのだろうか。

文=前原淳

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