ブラジル代表は、強豪ひしめくワールドカップ(W杯)南米予選で圧倒的な強さを発揮し、17戦して14勝3分(中止・延期された1試合を除く)。リオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン)率いる宿敵アルゼンチン代表に勝ち点6差をつけ、首位で突破した。
今年3月末にFIFAが発表したランキングで、約4年半ぶりに首位へ返り咲いた。今年のW杯の有力な優勝候補であり、国民は20年ぶり6度目の戴冠を熱望している。
主要フォーメーションは、2ボランチが横に並ぶ4−3−3。高い位置からのプレッシングと素早い攻守の切り替えをベースに、高度なテクニックと豊かな創造性で相手守備陣を翻弄する。
市場価格合計が約765億9000万円!
レギュラーから控えまで、ほとんどの選手が欧州ビッグクラブの絶対的レギュラー。現時点のベストメンバーの市場価格合計が5億6900万ユーロ(約765億9000万円。平均約69億6000万円)で、現時点の日本のベストメンバーの市場価格合計6870万ユーロ(約92億5000万円。平均約8億4000万円)の約8.3倍というスター軍団だ。
1980年代くらいまで、ブラジル代表の弱点はGKと守備陣だった。しかし、その後、クラブでの選手育成の努力が実り、現在ではこれらのポジションでも世界トップクラスの選手を輩出している。
まず、GKがすごい。キャッチング技術が秀逸で安定感抜群のアリソン(リバプール)と、左足から繰り出す正確無比のフィードが見事なエデルソン(マンチェスター・シティ)という世界有数の名手2人がポジションを争うという豪華さ。現時点ではアリソンが概ねレギュラーとして起用されているが、「足元の技術も含めた総合力ではエデルソンの方が上」という声もある。
CBは、状況判断が素晴らしく身体能力も高いマルキーニョス(パリ・サンジェルマン)が軸。もう一つの座を、若手で馬力のあるエデル・ミリタン(レアル・マドリー)と経験豊かなチアゴ・シウバ(チェルシー)が争う。

両SBについては「カフー、ロベカル」より物足りない?
ただし、両SBに関しては、これまでカフー、ロベルト・カルロスといった世界フットボール史上に残る名手を生んできたブラジルとしては少々物足りない。
右SBのダニーロ(ユベントス)は、パワフルだが守備面のミスが少なくない。世界フットボール史上最多の41タイトルを獲得している鉄人ダニエウ・アウベス(バルセロナ)も39歳で、かつてのスピードとスタミナはない。左SBも、一長一短だ。
ボランチは、冷静沈着で技術レベルの高いカゼミーロ(レアル・マドリー)が中心。攻撃的にプレーする場合はテクニシャンのルーカス・パケタ(リヨン)が、守備に重きを置くなら1対1の守備に秀でたフレッジ(マンチェスター・ユナイテッド)が起用されることが多い。
ネイマールにとって「最後のW杯になるだろう」
エース・ネイマール(パリ・サンジェルマン)は、これまで主に左ウイングとしてプレーしてきたが、最近、代表では主としてトップ下で起用されている。
現代フットボールではウイングは相手SBのマークをしなければならないが、30歳になり、かつてのような頻度でスプリントをするのは難しい。トップ下の方が、守備の負担が少ない。
近年は故障による欠場が急増しており、今季はクラブでも代表でも全試合の半分強の試合でしかプレーできていない。クラブでは影が薄くなりつつあるが、代表では依然として攻撃の中心。それでも、前大会に続いて今年のW杯でも期待を裏切るようなら、国内でも痛烈な批判を浴びるのは間違いない。
「僕にとってこれが最後のW杯になるだろう」と漏らしており、3度目の出場で今度こそチームを優勝に導くことができるかどうか。
3トップの当面のレギュラーは、右からラフィーニャ(リーズ)、マテウス・クーニャ(アトレティコ・マドリー)、ビニシウス(レアル・マドリー)。
ラフィーニャは、W杯南米予選を通じて控えからレギュラーへ序列を上げた右ウイングで、決定力もある。守備面でもチームに貢献する。
クーニャは、東京五輪優勝メンバー。屈強なCFで、得点能力が高い。ただし、代表での実績はまだ十分とは言い難い。それだけに、この遠征で結果を出す必要がある。
ビニシウスは、驚異的なスピードを持つ21歳のドリブラー。かつてはシュートの精度に問題があったが、猛練習を積んで急速に改善された。ネイマールが代表から引退した後のエースとなることが期待されている。

ジェズス、リシャルリソン、ロドリゴもいる
ただし、ラフィーニャとクーニャは、まだ絶対的な存在ではない。右ウイングには、今季、レアル・マドリーで急成長を遂げた21歳のロドリゴがいる。
勝負強いガブリエル・ジェズス(マンチェスター・シティ)と東京五輪得点王のリシャルリソン(エバートン)は、前線ならどこでもプレーできる。
チッチ監督は、守備戦術の構築に長け、選手たちのモチベーションを上げるのがうまく、強力なリーダーシップを発揮する。ブラジルの名門コリンチャンスを率いて2012年にクラブ世界王者となり、2016年6月から代表を率いている。
2018年W杯ではGSを首位で突破し、ラウンド16でメキシコに快勝したが、準々決勝でベルギーに1−2で敗れた。これが2度目のW杯で、大会後に退任することを明らかにしている。
はたして日本代表に勝ち目はあるのか
世界トップクラスのブラジル代表に対し、はたして日本代表に勝ち目はあるのか。
ブラジルから東アジアへやってくると、二十数時間の長旅の疲れ、そして12時間の時差に苦しむ。昼夜が完全に逆転するのだ。
ブラジル代表の一行は5月26日にソウルへ到着し(28日の欧州チャンピオンズリーグ決勝に出場した選手は31日着)、6月2日、韓国代表と対戦。この日程では実力の6、7割程度しか発揮できないかと思われたが、5-1の圧勝を飾った。
6日の日本戦ではかなりコンディションが良くなっているはず(試合を前にした練習では小競り合いが起きたと報じられた)だが、それでもせいぜい8割前後の状態ではないか。

日本としては、守備ではアタッカーを含む全員が激しいプレスをかけ続けてブラジル選手のミスを誘発したい(彼らも人間なので、ミスはする)。
そして、相手ボールを取り切ったら、ブラジルの数少ない弱点である両SBが攻撃参加した後の背後のスペースを突きたい。
日本のストロングポイントは右サイドの伊東純也(ヘンク)、左サイドの三笘薫(サンジロワーズ)のスピードに乗った爆発的なドリブルで、ちょうどブラジルの短所と日本の長所が噛み合う。
警戒は必要だが、過度に恐れてはならない。気持ちで決して負けることなく、ブラジル選手が嫌がるプレー、即ち激しい当たりと執拗なマークで攻撃を封じ、少ないチャンスをものにしたい(その逆に、気後れして後手に回ったら、ホームといえども大量失点を喫しかねない)。
90分間、強い気持ちで戦い続け、ブラジルの長所を消し、欠点を突き、自分たちの強みを最大限に発揮する――。これができれば、13戦目にして初勝利をあげる可能性が出てくる。
もし日本がブラジルを倒したら、そのニュースは瞬時に世界を駆けめぐるはずだ。

<#1からつづく>
文=沢田啓明
photograph by Penta Press/AFLO