新日本ジュニアヘビー級の頂点を極めたのは、高橋ヒロムだった。エル・デスペラード優勝予想の声が多い中で、ヒロムが史上初の『BEST OF THE Super Jr.』3連覇を成し遂げた。ヒロムにとって、通算4度目の優勝(歴代最多)だった。

エル・デスペラードに「TIME BOMB」を決める高橋ヒロム

 6月3日、日本武道館にはゲストの特別立会人として藤波辰爾の姿があった。日本のジュニアヘビー級の歴史は、藤波のWWWF(WWF)ジュニアヘビー級王座奪取から始まったと言ってもいい。

ドラゴン・ブームから始まったジュニアヘビー級の興隆

 1978年1月、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでカルロス・ホセ・エストラーダにフルネルソン・スープレックス(ドラゴン・スープレックス)で勝利した藤波が凱旋して、日本全国に爆発的なドラゴン・ブームを呼ぶ。それがタイガーマスクらを経て、獣神サンダー・ライガーへと継承され、世界的な現在のジュニアヘビー級の興隆がある。

 ヒロムが藤波の試合を観たのは、2003年1月4日の東京ドームだったという。中学1年生だったヒロムは、藤波vs西村修を鮮明に覚えている。もちろんジュニアヘビー級の試合ではない。接点といえば接点だが、それはあまりにも一方的な関係性だ。そのヒロムが、リング上で藤波から優勝トロフィーを受け取っている。

「デスティーノ(運命)かな」と笑ってみせたが、ヒロムには感慨深いものがあったに違いない。ヒロムは「これがオレたちのスーパージュニアだ!」と叫んだ。

優勝トロフィーを掲げる高橋ヒロム ©Essei Hara

「今回のスーパージュニアを盛り上げたのは、間違いなく外国人選手。(過去2回は)コロナの影響で所属選手のみのワンリーグでの2連覇でしたけど、やっぱり改めて凄いなと。そう思った時にさ、目の前に藤波辰爾さんがいるんだよ。新日本プロレスのジュニアヘビー級の第一人者・藤波辰爾さんあってのオレたちジュニアなのかなって思ったんで、お礼を言いました」

 ヒロムは2018年に首のケガを負い、昨年にも左大胸筋断裂による長期欠場があった。ここまでの道のりは決して順風満帆だったわけではない。

「これだけ長い歴史のある『BEST OF THE SUPER Jr.』。29回、来年は30回、その中で3連覇っていう人間はいない。そして4度目の優勝という男もいない。そういう歴史を作れたっていうのは一つ、オレも改めて結果を出せたのかなって、素直に思います。1年半なんですよね、オレがこの3連覇を成し遂げた期間。デスペラードと日本武道館でやった時は2020年12月。そして2021年の12月はYOHと。そこから半年しか経ってない。1年半で3回ですよ」

 コロナ禍による変則開催がもたらした結果のため仕方がないのだが、ヒロムには満足できない部分がある。

「この記録が作れた、偉業を成し遂げられたのは嬉しいですけど、歓声のない中での3連覇っていうのは、正直言ってすごく寂しかったですね。もちろん拍手、応援、すごく嬉しいですけどね。まあやっぱり、歓声がある中で優勝したかったなっていうのはありますね」

 この日の日本武道館の観客数は3520人。満員の大歓声を浴びての優勝をヒロムは願っている。

6月3日、『BOSJ』決勝が行われた日本武道館の様子

「ライガーさんを超えたことにはならないっすから」

 ヒロムは6月21日の後楽園ホールでIWGPジュニアヘビー級王者の石森太二に挑戦する。現在、ヒロム、石森、デスペラードの3人が新日本プロレスのジュニアヘビー級をけん引している事実は動かない。

「久しぶりに本当に超満員の後楽園ホールを見たいなと思いますね。これはぜひ超満員になってほしい。ぜひ来てほしい。ぜひ会場に来て」

 ヒロムはファンにそう訴えた。そして、もう一人の伝説化した存在にも触れた。

「IWGPを何度取ろうが、何度スーパージュニアに優勝しようが、ライガーさんを超えたことにはならないっすからね。違った方面からオレは超えたいなって思ってるんで。ライガーさんがやってきたことを超えることはできないわけですよ。記録ではないですよ」

 ヒロムは自身の派手なコスチュームにも言及した。

「オレがなんであのコスチュームを着ているかと言うと……。(たとえば)東京ドームで試合をしました。一番前にいるお客さんだけに伝えたい訳じゃない。テレビの前にいるお客さんももちろんそうですし、やっぱり『初めて会場に来ました。一番安い席を買いました。一番後ろの席でした』という人の印象に残るじゃないですか」

「プロレスラーに見えない」体格でどう爪痕を残すか

 話が自身の経験に基づいた“ジュニアヘビー論”に及ぶと、ヒロムの口調にさらに熱が入ってきた。

「オレたち小さいジュニアの人間っていうのは、ただでさえレスラーとして見られないんですよ。悔しいことに素顔ですよ。高橋ヒロム、街歩いてます。知らない人が『プロレスラーだ』ってわかると思いますか。絶対わからないです。ちょっと体格がいい人、『なんかスポーツやってる人なのかな』とは思っても、プロレスラーっていうふうには思わない。それを少しでも、初めて観に来るお客さんに、どうやって印象を残すか、どうやって覚えてもらうかって言ったら、やっぱり見た目でちょっとした派手さを演出するしかないんですよ」

人目を引く高橋ヒロムの入場コスチューム

 ヒロムはライガーを例にあげて、「ジュニアヘビー級のプロレスラー像」について語った。

「ライガーさんはマスクマン、全身コスチューム。もう、どっからどう見てもプロレスラーですよ。マスクマンのうらやましいところなんですよ。小さくてもマスク被っていたら『あっ、プロレスやってる人だ』ってわかるじゃないですか。それって、マスク被っていない人からしたら、やっぱうらやましいんですよ。

 ライガーさんだってべつに身長はないじゃないですか。身体は大きいけど。でも、その身体をもってしても、プロレスラーって思われるかどうかわからないですよ。デカい人は今いっぱいいますからね。一般の人でも鍛えて凄い人、いっぱいいますからね。やっぱりレスラーっていうのはいつの時代も、『身長が高くて、身体が大きくて』っていうイメージがあるわけで、そのイメージを10年や20年で壊すなんて難しいですし。壊しちゃいけない部分でもありますし。

 だから、オレがやっていることは絶対に間違ってない。『オレはオレのやり方でライガーさん、アナタを超える』ってメッセージをちゃんと捉えてほしいなと。『なんかいろいろ考えがあると思うけど』とも(ライガーは)言ってましたけど。もちろん考えがなきゃこんなことやってません。考えがあるから、オレはこういうことをしてるんです。こうやって、真面目にしゃべることもするじゃないですか? ふざけてるだけじゃないんです。真面目な時は真面目にしゃべるんですよ。それはわかってほしいなってふうに思いましたね」

 恵まれた体格を持たないプロレスラーが爪痕を残すための生存戦略と、譲れない矜持。高橋ヒロムは高橋ヒロムなりのプロ意識を、確かに示してみせた。

文=原悦生

photograph by Essei Hara