EL優勝を飾ったフランクフルトの鎌田大地が、準々決勝でアウェーの地でバルセロナを倒した試合は大きな話題になった。実は、日本人がカンプノウでの公式戦で勝利をつかんだのはこれが初めてのことだった。

 鎌田はなぜインサイドハーフを目指すようになったのか。序盤戦で先発から外されることもあった彼が21-22シーズンのフランクフルトでも欠かせない選手になれた要因は何なのか。全3回のインタビューの最終回では、かつて憧れていたバルセロナとの試合を振り返りながら、語ってもらった。(全3回/#1、#2)

カンプノウで勝てたのは感慨深かったです。だけど

「Hey、ダイチ。オマエは今日もサッカーを見ているのかよ!」

 フランクフルトのチームメイトから鎌田大地は、よく、そんな声をかけられる。

「世界のサッカーを勉強しているというほどではないですけど、暇さえあればサッカーの試合の映像を見ています。それも、ヨーロッパのトップリーグからJ3まで。チームメイトからは『オマエはどのカテゴリーでも見るんだな!?』とあきれられることもありますね」

 EL準々決勝のバルセロナまでの移動の際にもいつもと同じように見ていた。

「カンプノウは、僕らの世代がもっとも憧れていたバルサのホームなので。何度も映像で見ましたし、現地にも訪れて2〜3試合は見ています。カンプノウのピッチでやれたのはすごく大きなことだし、勝つこともできたので。感慨深かったです。だけど……」

 その答えはまた後で触れるとして――まずは、そこへたどり着くまでの苦労について振り返っていく。

©Hideki Sugiyama

シーズン序盤にはスタメンからも外されて

 今シーズンから、フランクフルトの監督にグラスナーが就任した。昨シーズン、ヴォルフスブルクを率いて、リーグで2番目に失点が少ない堅守のチームを作り、CLへ導いた指揮官だ。厳格な指導者として知られる彼は、当初、選手たちにこんな要求をしていた。

「後方の選手は、中央にいる選手の足元へパスをつけるな!」

 ディフェンスラインからボランチやトップ下の選手へ縦パスをつけようとして相手にカットされた場合、相手のカウンターをもろに受けるリスクが高い。そう考えていたからだ。

 ところがフランクフルトの選手は、リスクを冒しながら多くのチャンスを作っていた昨シーズンまでの戦い方に慣れ親しんでおり、新監督の指示に困惑していた。しかも、ロングボール主体のサッカーに合わせて獲得された新戦力の一部もはまらなかった。鎌田も当初の様子をこう振り返る。

「リスクを冒さずに『とにかく裏に走って……』という当初のサッカーに僕自身もトライしていましたけど、なかなか勝てず、シーズン序盤にはスタメンからも外されて。苦しかったですね」

 ところがシーズン途中から少しずつ、リスクを冒してアタックする前監督時代に見られたような攻撃が認められるようになり、チームは息を吹き返した。

 例えば、4月28日のEL準決勝。ウェストハムとのファーストレグで鎌田が決めた決勝ゴールの少し前などは改善された典型的な場面だ。あの攻撃は、リベロのヒンターエッガーから鎌田への縦パスが、攻撃のスイッチとなった。もしも、シーズン当初のような戦い方を続けていたら、鎌田による殊勲の決勝ゴールも、EL優勝もなかったかもしれない。

鎌田が担った“かなり独特な役割”とは

 今シーズンの鎌田はかなり独特な役割を担っていた。

 チームの基本フォーメーションは3-4-2-1と表されることが多い。「左シャドー」や「左FW」と表記される鎌田が果たす役割は、そのポジションの典型的なイメージとは少し異なっていた。右シャドーのリンドストロームは高い位置にいることが多かったが、左の鎌田はかなりの自由を与えられていたのだ。

 サイドハーフのような位置取りをしたかと思えば、ボランチよりも低い位置に落ちて、ビルドアップでチームを助ける場面もあった。中央には守備的MFが2人いる中で、鎌田はインサイドハーフのような仕事もこなすようになっていた。

 そんな鎌田が、学生時代に憧れていたのは――今やELで戦ったバルサの指揮官である――シャビのような選手だった。

 だが、今は違う。

「典型的な10番タイプというか、昔よくいたファンタジスタと呼ばれるようなタイプは、現代ではほとんど試合に出られないと思うんですよね。僕もプレースタイル的にそういうタイプだと見られますけど、それも何となくのイメージに基づいたもので。そもそも僕は『自分の最適なポジションはインサイドハーフ』と、ここ数年ずっと言い続けてきていますし」

ELバルセロナ戦での鎌田 ©Getty Images

今季の鎌田が得た新発見と監督からの賛辞

 トップ下のように見えながらも、インサイドハーフのような独特なポジションをつかみとった今シーズンの鎌田は、新たな発見も多かった。

「フランクフルトに来るのは良い監督が多いので、選手としての幅や考え方も変わるし、勉強にもなります。今シーズンのグラスナー監督は、ディフェンスの部分で学ぶところが多かったですね」

 フランクフルトの3-4-2-1では、左ウイングバックのコスティッチの攻撃力が強力な武器となっている。昨シーズンはブンデスリーガのアシストランキング2位で、今シーズンのELではアシスト王とMVPに輝いた。

 コスティッチは相手にプレッシャーをかける際の強度は高い。ただし、攻撃で力を出し過ぎて、守備で力を抜くことが度々ある。また攻撃時に敵陣深くまで侵入するため、相手の守備から攻撃への切り替えが早いときには、守備に回るタイミングが遅くなる。そういうシチュエーションでも、鎌田はチームに貢献してきた自負がある。

「コスティッチが前に攻め残ったりするから、彼の背後にある、彼が本来埋めるべきスペースを守備ではカバーしていました。フランクフルトの中で、自分はそういうことも他の選手よりきちんと考えながらできたのかなと感じています。監督は守備に厳しいタイプなので、そういうところでもすごく評価してもらいました」

「彼はものすごい運動量で守備的MFを……」

 グラスナー監督が鎌田の守備の部分を高く評価しているのを表すこんなエピソードがある。

 昨年10月から鎌田がELで3試合連続ゴールを記録すると、その活躍を評価する地元メディアからグラスナー監督に質問が飛んだ。鎌田の攻撃のパフォーマンスの質について問うものだったのだが、監督の答えはこうだった。

「彼はものすごい運動量で、相手ボールのときにはスペースを埋め、うちの2枚の守備的MFを助けてくれているのだ」

 鎌田が気をつかった部分は他にもある。フランクフルトのレギュラーに定着した直近3シーズンのリーグ戦90分平均のデータを比較すると、今シーズンは「ボールを失う回数」は最も少なく、「相手からボールをインターセプトする数」が最も多かった。

「個人的にはボールを奪うときの足の出し方などは、だいぶ、賢く立ち回れるようになってきたと感じていて。実際、あれだけ試合に出たのに(*ブンデスリーガは34試合中32試合、ELは13試合すべてに出場)、今シーズンは1枚もイエローカードをもらっていないんです。勝負するところではアタックできていたし、守備もできるようになってきているのかなと感じます」

バルサの選手を“リスペクトしすぎていた”

 実は、ELでチーム最多得点を記録した鎌田は、EL準々決勝のバルセロナで行なわれたセカンドレグに3-2で勝利したことで、長谷部誠とともに「カンプノウで勝利をつかんだ初めての日本人選手」となった。

©Getty Images

 ここで冒頭の話に戻ろう。鎌田にはそこで感じたことがあった。

「カンプノウのピッチで試合をやれたのは大きなことだし、勝つこともできたので感慨深かったです。でも、僕が感じたのは違うことで……」

 鎌田は最も強く感じたことをこう表現する。

「『彼らも同じ人間だとわかって良かったな』と思ったんですよね、素直な気持ちとしては」

 一体、どういうことだろうか。

「バルサやレアル、プレミアリーグの上位チームは、かつての自分のイメージでは別物というか、ものすごく偉大な存在でした。バルサのペドリやガビにしても、あれで18歳前後ですからね。バルサの選手は信じられないくらい上手いなと感じましたし、ずっと見てきたセルヒオ・ブスケッツも。

 ただ、バルサの選手って小さいころから見ていたからこそ、はるか遠くにいる存在だとリスペクトしすぎていたとわかったんです。あの試合では『世界とはまだ差があるな』と感じたものの、想像以上の差はなくて……。つまり、僕の想像のほうが彼らの実力よりもはるか、はるか先を行っていたということなんでしょうね。

 そういう意味では、『上手さには限界がある』とも感じました」

 鎌田の感想はこう続く。

「やはり、ムバッペとかハーランドとか、ああいうフィジカルがすごい選手には、個人の力では到底、太刀打ちできないんですよ。それと比べれば、バルサの選手はものすごく上手いけど、『どうしようもないほどではない』とも思えた。それが良かったんですよ」

僕が目指すプレースタイルが変わったのは

©Hideki Sugiyama

 以前、Jリーグの公式HPの企画で、「もしもJリーグが存在せずにサッカー以外の仕事をするとしたら、どのような職業についていたと思うか」を問われ、鎌田は「起業家やユーチューバーを目指す」可能性を挙げていた。その理由は、サラリーマンでは収入などを含めて限界が見えてしまうからだという。

「まぁ、サラリーマンを目指さないのは僕が社会不適合者だから」とジョークをまじえる鎌田だが、サッカー界の話には熱を帯びる。

「ビッグクラブへ行ってチャンピオンズリーグに優勝することは、子どものころからの夢の一つ。今のところ、幸いないことに『これ以上を目指すのはもう無理だ』とサッカーをしていて感じたことが自分にはないんです。

 僕が目指すプレースタイルが変わったのは、最近はファンタジスタのような選手では厳しくて、あらゆる能力を高レベルに兼ね備えているインサイドハーフ的な選手が求められているから。僕としても『これだけは世界中で誰にも負けない』というほど突出しているものはないからこそ。すべてのことを今以上に、ハイレベルにできるようにならないといけないと考えています」

 サッカー論議の最中に言葉の端々からにじみ出てくるのは、世界のトップとの比較や、トップへ登りつめたいという意欲である。

 そんな鎌田は、今シーズンはEL優勝という記録に残るタイトルと、カンプノウで初めて勝利した日本人として記憶に残るような印象的な活躍を見せた。これまでタイトルやエリートコースとは無縁だったことが嘘だったかのように。

 ひょっとしたら、ここまでの鎌田の活躍は、これから大きく羽ばたいていく鎌田伝説の序章に過ぎないのかもしれない。

パラグアイ戦のゴール後に語った興味深い言葉

パラグアイ戦で存在感を放った鎌田 ©Takuya Kaneko/JMPA

 そして、日本代表にも昨年の11月以来の復帰を果たすと、6月2日のパラグアイ戦では念願のインサイドハーフとして先発。1ゴール、1アシストを記録し、PKも獲得した。何より、ゴール前に飛び込んで決めた得点について試合後に鎌田が語った言葉には、今インタビューで明かされた努力の成果が凝縮されていた。

「インサイドハーフはあそこに入っていかないとダメだと思う。4-3-3のチームと試合をしても、強いチームはインサイドハーフの選手がああいうところに入っていって点をとっているイメージがあったので、自分も狙っていました」

久保建英も「本当に良い先輩だなと思います」

 さらに、6月10日のガーナ戦でのこと。日本代表では初めてインサイドハーフとして先発し、後半に代表初ゴールを決めた久保建英が「前半が終わった後に、鎌田選手に『もっとペナルティエリア内に入っていけ』とアドバイスをもらった」と明かして話題になったが、久保は鎌田の存在をこう語っている。

「(紅白戦などで)敵チームにいるときにも近いポジションでプレーすることが多いので、練習中も結構アドバイスなどをもらっていて。フィーリングも合いますし、本当に良い先輩だなと。僕は(年上の選手のことを)あまり『先輩』とか言わないんですけど、良い人だなと思います」

練習中の久保と鎌田 ©Yoshio Tsunoda/AFLO

 フランクフルトで取り組み、身につけてきたことを、鎌田は日本代表でも余すことなく還元している。今後の代表戦やカタールW杯でその成果を見せつけたとしても、もう誰も、驚かない。

 <#1、#2からつづく>

文=ミムラユウスケ

photograph by Hideki Sugiyama