毎年5月から6月にかけて、高校球界では、盛んに「招待試合」が行われる。

 通常の「練習試合」とは違って、都道府県の高野連が主催して、話題のチームや強豪チームを招待し、地元校と数試合行なって、技量と意識の向上に努めようという公式行事である。

 ルーツは50年ほどさかのぼる。

 怪物・江川卓投手を擁した作新学院は、春のセンバツ後の週末・休日のことごとくが招待試合の連続で、移動の金曜日は毎週機上の人となっていたという逸話があった。「教育の一環としての高校野球」なのに、野球中心の生活になるのはいかがなものかと議論になったこともあるが、それでも原辰徳(現・巨人監督)の東海大相模や斎藤佑樹(日本ハム、昨年引退)の早稲田実業など、人気者が現れると、引っ張りだこになるのは、ある程度、仕方ないのかもしれない。

 最近は、大阪桐蔭に人気があるらしく、今月は富山で招待試合を行ったと聞く。

まずは“来年のドラフト候補”ピッチャー

 一方、愛知県高野連の主催で、天理高が中部大春日丘、至学館、享栄、星城の4校と招待試合を行なうと聞いて、私は5日の刈谷球場に向かった。

 出かけた理由の1つは、「享栄高」が出場すること。左腕の2年生エース・東松快征(178cm83kg・左投左打)は、すでに140キロ後半をマークする剛腕の卵として、活字になっている。

「全国」の常連、天理高相手に、先発の立ち上がりから140キロ台を連発しながら飛ばしていたが、気負いも見えていた東松投手。

 ひと汗かいて、頭も冷えてきた頃から、多彩な変化球を混ぜ始め、そのへんから徐々に「平熱」に戻ったようだ。スライダー、カーブ、カットボールにチェンジアップだろうか……持ち札は多彩だった。

 中でもチェンジアップだ。インパクト寸前、一瞬止まったようにも見える「変化」が、何度も天理打線のバットに空を切らせた。

 0対1で迎えた最終回。同点のランナーが一塁に出た場面で、わざわざベンチから出てきて、打席に向かおうとする打者の肩を抱いて、背中を何度も叩きながら激励を繰り返す東松投手。

 激励している相手が「3年生」だったから驚いた。勝負に対する執念は、「上下関係」を超えるのか。来年は、視線が集中する存在になるのだろう。

「こりゃあ、小園だなぁ!」

 そして、第2試合だ。先発のマウンドに上がった星城高・田島善信(3年・182cm78kg・右投右打)

 初回7球の投球練習……最初の2球を見て、もう胸が躍った。

「こりゃあ、小園だなぁ!」

 昨年の横浜DeNAドラフト1位・市立和歌山高・小園健太投手。

 去年の今ごろですでに185cm90kgほどもあった小園健太よりはひと回りコンパクトではあるが、投手として全く過不足を感じない均整抜群の体躯。

 体重を増やすために、無理やり太らせた体じゃない。メリハリの利いたユニフォーム姿のシルエットに、バランスのよい筋肉量の発達が見てとれる。

 軟式出身者特有の伸びやかで柔軟な四肢の躍動。左膝が胸まで上がっても、上体が前傾も後傾もせずに、初動が生んだパワーを受け止めて、マウンドの傾斜にスピードをもらった体重移動に、連動をつなげていく。

 時計の文字盤で「11時」の角度から長い右腕がしなやかに振り下ろされる。

 軸足(右足)がパーンとプレートを蹴り上げて、全身で跳ねるようなフィニッシュ。まず、ここが「小園」だ。

 一瞬、全身で跳ね上がったフィニッシュがバラつかず、すぐに捕球体勢に移れる。そこが、さらに「小園」だ。ピッチャー返しの打球にも、送りバントにも、隙がない。

今春の沖縄キャンプでの小園健太

「〇〇二世」「〇〇の再来」の表現は使ったことがないが…

 試合開始の初球を、「142キロ」から入った。

 見せてやる!の気負いは感じられない。いつも、こんなスタートなんですよ……みたいな、日常感のあるほどよい力感。

 変な力みが生じないのは、センター方向に無理なくなされたテークバックのせいだ。理にかなった動作だから、ことさら力を必要としない。なので、適度に脱力までできて、そのぶん、腕の振りからフィニッシュで存分に力を瞬発できている。

 いいフォームだ! これなら、努力の量と能力アップが正比例するはずだ。

 最初の2イニング、天理高の強打者6人がすべて差し込まれた打球で打ちとられる。

 打順ふた回り目、140キロ前半でも甘く入った速球は捉えられ始める。それでも、プロ注目の2番・戸井零士遊撃手(3年・180cm85kg・右投右打)4番・内藤大翔三塁手(3年・176cm84kg・右投右打)には、果敢に速球勝負を挑んで向かっていっては、ガツンとやられている姿を見ていると、「いい勉強させてもらってるなぁ……」と、むしろ、伸びしろしか感じない。

 変化球を混ぜ始めた4回あたりから、急激に三振奪取率が上がる。

 タテのスライダー、チェンジアップで、下位打線から3者連続三振を奪ったかと思うと、今度はフォークボールだろうか……落差と鋭さを兼備したタテの変化で、天理高クリーンアップから再び3者連続三振だ。

 スライダーとフォークには、どうやら、カウント稼ぎ用と勝負球用のふた通りの変化があるようで、カットボールも変化点が打者に近いから、振り始めてから動いて打者を悩ませる。

 まっすぐのスピードだけじゃない。変化球の使い手でもあり、宿敵・智弁和歌山にも臆せず立ち向かっていったファイティング・スピリット……そうした「小園的要素」も持ち合わせている星城高・田島善信。

 ストライクゾーンはすべてフルスイングで攻めていって、引き腕(左腕)を目一杯大きく使ったスイングから、タテのカーブを右中間のいちばん深い所まで運んでいったバッティングセンスにいたるまで、どうしても「コンパクト小園」に見えて仕方なかった。

「〇〇二世」とか「〇〇の再来」という表現はしたことがない。

 そう簡単に現れるはずもない「天才」を引き合いに出しては、〇〇選手に失礼だし、うわべだけでなく〇〇選手の「本質」まで知らなければ、使ってはいけない表現だと考える。

 ただ、「重なる選手」は少なからず現れる。そういう選手になってほしいなぁと強く願う選手だ。

 去年の今年だから、まだ記憶も生々しく、かなり鮮明だ。

 この先、夏の大会から、もし本人がプロ志望だったら、10月20日のドラフトにかけて、大きな活字で報じられる存在になりそうだ。

 野球をやるために生まれてきたようなかっこ良さ。目の前の相手に闘いを挑んでいける凛々しさ。

 星城高・田島善信、やっぱり「小園健太」がそのまま重なる。

市立和歌山高校時代の小園健太投手(左、現DeNA)と松川虎生主将。写真は2人が高2の2月に撮影(2021年)

文=安倍昌彦

photograph by KYODO