今年の日本ダービーを制したドウデュース。武豊騎手とともに悲願を成し遂げた株式会社キーファーズの松島正昭代表に、武騎手への尊敬と信頼、凱旋門賞制覇への思いなどについて聞いた。(全2回の1回目/後編へ続く)

 今年の競馬の祭典、第89回日本ダービーを制したのは、武豊が騎乗したドウデュース(牡3歳、父ハーツクライ、栗東・友道康夫厩舎)だった。勝ちタイムの2分21秒9は、従来の記録をコンマ6秒も短縮するダービーレコード。武にとっては、自身の最多勝記録を更新するダービー6勝目となるなど、話題の多いダービーだった。

 ドウデュースを所有するのは株式会社キーファーズ。代表の松島正昭氏は、以前から「武騎手で凱旋門賞を勝つことが夢」と公言していた。その夢を叶えるべく、この秋、ドウデュースは第101回凱旋門賞に出走を予定している。

「本当に、こんなことがあるんですね」

 自身が所有するダービー馬で、大ファンであり、大切な友人でもある武とともに世界最高峰の舞台に上がろうとしている松島氏は、そう言って笑顔を見せた――。

京都競馬場の貴賓室で競馬にハマった

 松島氏と競馬との出会いは、今から52年前、中学1年生だった1970年にまで遡る。

「その年の秋、父に京都競馬場に連れて行ってもらったんですよ。メインはエリザベス女王杯の前身にあたるビクトリアカップでした。芝コースも馬も綺麗だし、最後の直線を馬が駆け抜ける音がすごい迫力で、興奮しました。それで競馬が大好きになったんです」

 以来、スポーツ新聞で気になる馬の動向を追ったり、テレビで競馬中継を見たりするようになった。特に好きだったのは、同年の菊花賞馬ダテテンリュウだったという。

 しかし、初めてビクトリアカップを見たあとは、競馬場に行くことがなくなった。就職して忙しくなると、さらに競馬との距離がひろがりかけたのだが、20代後半のとき、また京都競馬場を訪ねる機会を得た。

「27、8歳のときでした。当時、GIの副賞として、うちの京都マツダ(現マツシマホールディングス)から車を提供していたんです。スポンサーですから、父と一緒に京都競馬場の貴賓室のようなところでレースを見ました。それから結構ハマりだし、また馬券を買うようになりました(笑)。ちょうど、ライスシャワーやミホノブルボンが活躍していたころです」

「『武豊』というブランドが好きになった」

 そうして再び競馬に熱いものを感じるようになった松島氏は、大の武豊ファンになっていた。

「武君が乗っていた、スーパークリークやオグリキャップ、メジロマックイーンといった馬に惹かれたわけではなかったんです。それでも、憧れていました。馬券とは別に、『武豊』というブランドが好きになったんです。競馬サークルの枠を超えたスーパースターで、突出した存在じゃないですか。また、家も近いし、新幹線などでもよく見かけていたんですよ。『あ、武豊さんや』って(笑)。いつかどこかで話がしたい、一緒に食事をしたいと思っていたところ、共通の知人を通じて、会うことができたんです」

 それが20年以上前のことだった。

「付き合っても普通です。偉そうにしないし、本当に競馬が好きなんですね。僕の馬券の話をしたことはありません。言わなくても、勝ったか負けたか、様子からわかるのかもしれませんが(笑)」

1988年、菊花賞を制した武豊とスーパークリーク ©Sankei Shinbun

「僕の馬じゃなくても、武君が凱旋門賞を勝つことが夢」

 個人馬主として初めて所有したのは、2014年7月の新馬戦で4着となり、5戦目、15年1月に初勝利を挙げたミコラソン(牡、父ダイワメジャー、栗東・小崎憲厩舎=当時)だった。

「前の年(2013年)に初めてセレクトセールに行き、4100万円で落札しました。これはエラいこっちゃと手が震えました。その前から、武君が凱旋門賞を勝ちたいと思っていることは知っていました。2006年にディープインパクトで負けたときはホンマに悔しくて、今でも夢に出てくるといった話を聞いて、そんなに凱旋門賞ってすごいのか、それほどまでに勝ちたいのか、と。それならば、自分のできる範囲で、一緒に凱旋門賞を目指せる馬を買ってみようと考えるようになったんです」

 その後、代表をつとめるキーファーズが、セレクトセールで1億円を超える高額な良血馬を次々と落札して話題になる。そして、冒頭に記したように、松島氏の夢は武とともに凱旋門賞を勝つことだ、と知られるようになっていく。

「そのように伝わっていることは知っていますが、正確には、僕が勝つことが夢ではないんです。僕の馬じゃなくても、武君が凱旋門賞を勝つことが夢なんです。僕の馬ならもっといいけど、とにかく、ファンとして武君が凱旋門賞を勝つところが見たい。日本人騎手で最初に凱旋門賞を勝つ騎手は『武豊』でなくてはいけないと思っています」

武豊と挑む凱旋門賞への思い

 2018年7月、ジェニアル(牡、父ディープインパクト、栗東・松永幹夫厩舎=日本在籍時)でフランスのメシドール賞を優勝し、馬主として重賞初制覇。鞍上はもちろん武だった。国内では2019年にマイラプソディ(牡5歳、父ハーツクライ、栗東・友道康夫厩舎)が京都2歳ステークスを勝って重賞初制覇。

「メシドール賞は現地で観戦しました。勝つと思っていなかったので、嬉しかったですね。ジェニアルは日本では2勝しかできなかったのですが、今スウェーデンで種牡馬になっています」

 そして昨年、アイルランドのクールモアグループと共同で所有するブルームでサンクルー大賞、ドウデュースで朝日杯フューチュリティステークスを制し、国内外でGI初制覇を遂げた。

 現在、海外に7頭ほど共同所有する馬がおり、キーファーズのほか、長女の悠衣さんが代表を務めるインゼルレーシングの所有馬を合わせると50頭ほどになる。海外で共同所有する馬はどれも、凱旋門賞に出走するときは鞍上に武を起用するという条件で直談判して権利を購入した。

今年の日本ダービーにて、武騎手と拳を合わせた松島氏 ©Keiji Ishikawa

「クールモアにはこう言っています。マイ・ドリーム・イズ・ユタカ・タケ・アーク・ウイン、と。そうして共有したブルームで、去年初めて武君と凱旋門賞に参戦したのですが、11着でした。厳しい戦いであることは十分承知しています」

 英語圏の関係者には「アーク(Arc)」で凱旋門賞と意味が通じる。

 武にとって、ドウデュースで臨む凱旋門賞は10度目の参戦となる。「子供のころからの夢だった」という日本ダービーを1998年にスペシャルウィークで制したときも、ちょうど10度目の参戦だった。

 斤量面で有利な3歳時に参戦できるメリットは大きい。

 夢の行方は、はたして――。《つづく》

文=島田明宏

photograph by Keiji Ishikawa