今年の日本ダービーを制したドウデュース。武豊騎手とともに悲願を成し遂げた株式会社キーファーズの松島正昭代表に、ダービー当日の記憶、凱旋門賞制覇への思いなどについて聞いた。(全2回の2回目/前編からつづく)

ドウデュースとの出会い「やっと武君に貢献できた」

 松島正昭氏がドウデュースを初めて見たのは、デビュー前、ノーザンファームイヤリングにいたときのことだった。

「数頭から選びました。印象は、可愛かったということだけです(笑)。ぱっと見て男か女かもわからないのに、馬を見るポイントなんてありません」

 期待できそうだと思ったのは、昨年9月に小倉芝1800mで行われた新馬戦を勝ってからだったという。

「武君も友道先生も『走りますよ』と言ってくれました。10月のアイビーステークスを勝ったときに『ホンマに強いかもな』と思い、次走の朝日杯を勝ったときは天にも昇る気分になりました。なかなかいい馬に出会うことができなかったけど、やっと武君に貢献することができた。そう思って、ずっとウルウルしていました」

 競馬界の七不思議のひとつにもなっていた、「武豊は朝日杯を勝てない」というジンクスを、22回目の騎乗にして、ついに打ち壊すことができた。

「自分が思っていたラインより上で、武君と一緒に勝負できる馬にめぐり合えた。次の年の凱旋門賞のために、クラシックでハクをつけよう、と思いました」

2021年の朝日杯FSを制したドウデュース。武豊にとって初の同レース制覇となった ©Photostud

ダービーでのユタカコール「千両役者やなあ」

 年明け初戦の弥生賞ディープインパクト記念は2着。つづく皐月賞は、後方からメンバー最速の上がりで追い込むも、3着だった。

「皐月賞は、前目につけて抜け出して勝つと思っていました。実際は後ろからになりましたが、それでも勝つだろう、と。ただ、中山の直線が短いことを忘れていました(笑)」

 道中は自分のリズムで進んで脚を溜め、最後に末脚を爆発させるという走りに磨きをかけたドウデュースは、次走の日本ダービーで、外から豪快に追い込み、3歳世代の頂点に立った。ウイニングランでスタンド前に戻った武とドウデュースを、6万人を超える観客が、大きな拍手と、コロナ禍ゆえ控えめの「ユタカコール」で迎えた。

「僕は普段、自分の馬のレースの道中は見ないんです。手応えが悪くなって下がって行くのを見るのがつらいからです。でも、ドウデュースはいつも抜群の手応えで進むので、ダービーも見ていました。4コーナーを余裕のある手応えで回ってきたときに勝ったと思いました。あの馬は自分より後ろにいた馬に一度も抜かれたことがありませんから。すごく興奮して、血圧がたぶん上が500、下が250くらいになっていたと思います(笑)」

 その後、毎日のようにダービーのリプレイ映像を見ているという。

「ウイニングランをしたときとか、ユタカコールに迎えられたときとか、武君の仕草や、何か動きがあったときの間などを何回も確認して『千両役者やなあ』と余韻に浸り、嬉しくて仕方がありません。朝日杯のときも感動しましたけど、ダービーとなると、世間の反応が違いますね。一夜にして人生が変わりました。これで胸を張って凱旋門賞に行けます。本当に、こんなことがあるんですね。もし皐月賞を勝ってダービーで負けていたら、ジャックルマロワ賞かアイリッシュチャンピオンステークスあたりにターゲットを切り換えていたかもしれません」

日本ダービーのゴールの瞬間、武は拳を突き上げた ©Keiji Ishikawa

凱旋門賞はダービー馬対決へ「注目されてほしい」

 日本ダービーをドウデュースが制した翌週、6月4日に行われたエプソムダービー(英国ダービー)をデザートクラウンが2馬身半差で完勝。6月5日のフランスダービーをヴァデニが5馬身差で圧勝した。今年の日・英・仏のダービー馬は、みな強い。

「イギリスとフランスのダービーも見ていました。武君と凱旋門賞を勝ちたいと言っているからには世界の競馬を知っていないといけないので、ここ何年かで見るようになったんです。今年の凱旋門賞は、ダービー馬対決になりますね。せっかく出るのだから、有力馬の一頭として参戦したい。夢のようだと思う一方で、注目されてほしいと思っています」

 武もいつもGIに臨むとき、人気になってほしいと言う。強いと思われている馬で出たいのだ。それはおそらく「王者としての戦い方」を心得ているからだろう。

ダービーを制し、ファンの声援にこたえる武豊 ©Keiji Ishikawa

「実は、昨日、ドウデュースが誘拐される夢を見たんです。面白かったですよ(笑)。犯人はどこに隠したんやろう、と。テレビで誘拐事件を扱った『マイファミリー』を見ているからですかね」

 こうしてジョークで場を和ませるあたり、同じようにウイットの利いた言葉づかいをする武に通じるものがある。

「ドウデュースのいいところは、足が速くて、おとなしくて、賢いところです。ハーツクライ産駒として2頭目のダービー馬なんですが、1頭目のワンアンドオンリーは、馬自身も、乗っていた横山典弘騎手も、生産者のノースヒルズ代表の前田幸治さんも、観戦されていた天皇陛下(当時は皇太子)も同じ2月23日生まれだったでしょう。実は、僕もそうなんです。で、ドウデュースは5月7日生まれなのですが、うちの家内と一緒なんです。それは買ってから気づいたのですが、セレクトセールなどで馬を選ぶとき、誕生日はけっこう見ますよ」

「武君と夢を共有して…いい人生だなと思います」

 そう話す松島氏は、所有馬のローテーションや乗り方などについてどこまで関与しているのか。

「すべてプロに任せています。ローテーションは調教師さんが決めますし、騎手に指示を出したこともありません。出す出さないを考えたこともないです。相手はプロやのに、僕がそんなことをしたら失礼やし、怒られますよ」

 馬主になって10年も経たないのにこれほどの実績を残してきたことは驚愕に値するが、それなりの金額を投じてきたことも確かだ。馬主業を投資とみなした場合、ダービーを勝ったことによって十分なリターンを得られたと考えているのだろうか。

「金額のうえでは、見合うリターンはまったく得られていません。ただ、僕個人としては、武豊君と夢を共有して、それを叶えるために協力しているのだから、いい人生だなと思います。自己満足ですけど、毎日が楽しいです。死ぬとき、『ああ面白かった』と言えるでしょうね」

 庶民レベルでは、「人間の悩みの9割は金で解決できる」とよく言われる。しかし、逆に、金があるからといって夢を叶えられるわけでもない。特に、「一国の宰相になるより難しい」とも言われているダービーオーナーになるには、資力だけではなく、運や出会いなど、いろいろなものに恵まれなくてはならない。

「例えば、同じ1億円でも、100万円の馬を100頭買うより、1億円の馬を1頭買うほうが、夢に向かっていくとき、叶う確率が高くなると思います。昔から思っているのは、金を遣ったからといって夢が叶うわけでなくても、金を遣えば夢を追うことができる、ということです。僕も、自分の限界が来たらやめようと思っています。これまで何度も、『もうアカン、これ以上はつづけられない』という状況に追い込まれましたが、そのたびに何かが勝って、今に至っています。ですから、ここまで順調に来られたという感覚はまったくないのですが、夢を追いかけられる限りは、追いかけたいですね」

日本ダービーのレース後、武豊騎手と松島正昭氏    ©Keiji Ishikawa

「とにかく、凱旋門賞は楽しみます」

 武が引退したら、自分も馬主をやめると公言している。

「喜びが半減しますから。そうなったら馬主は息子に継がせますし、娘がインゼルをつづければいい。僕は、馬主をやめたら生産牧場をしようと思っているんです。これまでいい牝馬を購入してきて、その良血がもったいないので、可愛い馬たちをつくろうと思います」

 まだまだ先のようでありながら、凱旋門賞まで3カ月半を切った。

「こんなこと、一生に一度あるかどうかですから、楽しもうと思っています。いつからフランスに行こうかとか、向こうで晩は何を食べようかとか、そうしたことを考えたり話したりするのが楽しい。ダービーのときは勝ち負けにこだわっていましたが、凱旋門賞にはそれがなく、ワクワクしかない感じです。去年ブルームで出て、すごいレースなんだとあらためて思って、今年は僕の馬に乗った武君が勝つかもしれないと思うと、ものすごい高揚感があります。とにかく、凱旋門賞は楽しみます」

 これまで数々の日本の名馬が世界最高峰の壁に阻まれてきた。が、活力たっぷりに道中を進み、ピッチ走法でありながら2400mでも飛び抜けた瞬発力を発揮できるドウデュースなら、ひょっとするかも、と思わせる魅力がある。

 第101回凱旋門賞は10月2日。パリロンシャン競馬場で歴史が動くか、注目だ。

文=島田明宏

photograph by Keiji Ishikawa