初戦で立ちはだかるのは欧州最多の優勝4回を誇る超大国。色褪せたかつての王者を蘇らせた“タイトルコレクター”に、日本選手やグループ分け、目指すべきサッカーについて聞いた。Number1050号(2022年5月6日発売)『[独占インタビュー]ハンジ・フリック(ドイツ代表監督)「日本に勝って自信を掴み取る」』の記事を、無料で全文掲載します(レーブ前監督インタビューを含む全3回)。

 再び強いドイツが帰ってきた。

 ヨアヒム・レーブ監督のもとで2014年W杯を制したものの、'18年W杯はメキシコと韓国に敗れてグループステージ敗退という屈辱を味わった。ベスト8以上に進めなかったのは戦後初だった。

 ユーロ2020でも不用意なミスが目立ち、決勝トーナメント1回戦でイングランドに完敗。15年間に渡るレーブ政権の勤続疲労は明らかだった。だが昨年8月、ハンジ・フリックが新監督に就くと、淀んだ空気は瞬く間に吹き飛ばされた。

 フリックは'06年からレーブの右腕としてドイツ代表のコーチを務め、'14年W杯優勝に貢献。'19-'20シーズンの途中にバイエルン・ミュンヘンの監督に就任すると、ブンデスリーガ・ドイツ杯・チャンピオンズリーグの3冠を達成した。攻撃的なサッカーを志向しつつ、激しい守備にも力を入れる。レーブがスタイルに執着する「ロマンチスト」なのに対し、フリックは結果にこだわる「リアリスト」だ。

6月のネーションズリーグでのドイツ代表とフリック監督 ©Getty Images

 ノイアーやキミッヒら「バイエルン・ブロック」を生かしつつ、若手抜擢によって新たな競争が生まれ、新体制になってからまだ1度も負けていない。ドイツきっての「タイトルコレクター」はカタールW杯にどう臨むのか。フリックとコーチ陣が大会に向けた準備でハンブルクのホテルに滞在した際、話を聞いた(翻訳:木崎伸也)。

ドイツは以前よりフレキシブルに戦えるように

――あなたが監督に就任して以来、ドイツ代表は8勝1分と絶好調です。レーブ政権から何を変えたのでしょう。

「'06年から'14年までヨッギ(レーブ)のアシスタントコーチだったので、彼の攻撃的なプレー哲学は熟知しているつもりだ。それを継続しつつ、システムの“ニュアンス”を微調整することに取り組んだ。守備では高い位置から積極的にプレスをかけ、ボールを失ったらすぐ相手に襲いかかる。攻撃ではコンビネーションで相手を圧倒し、センターバックが勇気を持って自ゴールから35、40mの位置を取る。以前よりフレキシブルに戦えるようになった」

――現ドイツ代表の基本布陣は4-2-3-1。攻撃では片方のサイドバックが高い位置を取りつつ、反対側のサイドバックが最終ラインに残り、3バックでビルドアップする場面をよく目にします。この『非対称可変システム』もニュアンスですか。

「その通り。カウンターを防ぐために、自分たちの攻撃中にどうスペースを埋めるかが大事。後方に穴を作ってはいけない。たとえば左サイドバックのダビド・ラウムが高い位置を取れば、右サイドバックのティロ・ケーラーが最終ラインに入る。ピッチの空間を分割し、選手に割り振っている」

フリック監督とラウム ©Getty Images

――ドイツではボールを失った直後の即時奪回を「ゲーゲンプレッシング」と呼び、ユルゲン・クロップ監督がリバプールで実践して有名になりました。代表も「ゲーゲンプレッシング」にこだわる?

「もちろん。現代サッカーでは極めて重要な要素だからね。私が監督になってから最も改善された部分だ。W杯までにはさらにゲーゲンプレッシングの強度を高めたい」

――あなたは招集外の選手に電話して理由を説明するなど、優れたコミュニケーターとしても知られています。選手との会話では何を心がけていますか。

「全員がチームに必要であると、しっかりと伝えること。『信頼している』という印象を与えるようにしている」

――先ほど名前が上がったラウム(24歳)の他にも、バイエルンのジャマル・ムシアラ(19歳)、フライブルクのニコ・シュロッターベック(22歳)ら若手を積極的に起用しています。彼らに何を期待しますか?

「W杯は一瞬一瞬を楽しむチャンスと捉え、『4週間で5年分の成長をした』と言えるような時間を過ごして欲しい。我々は心のタンクに自信というガソリンを溜め込んでいる。緊張せず大会に臨んでほしい」

アサノ?とても俊敏で、即座にプレスを

 フリックの手腕でチームは完全復活し、ドイツ国内では期待の声が高まっている。フリック自身もそのつもりだ。3月の合宿の際、選手たちにこう訴えた。

「W杯で優勝しよう」

 だが、どんなに準備段階で好調でも、グループステージでは何が起こるかわからない。日本、スペインなどと同居するE組をフリックはどう見ているのだろう。

――あなたが視察した4月2日のホッフェンハイム対ボーフム戦で、浅野拓磨が2ゴールを決めました。どんな印象でした?

「とても俊敏で、チームがボールを失ったときに即座にプレスをかけていた。攻撃の選手にもかかわらず、チームへ貢献する意識が強い選手だと感じたよ」

浅野拓磨はフリック監督が視察したホッフェンハイム戦で2ゴールを挙げている ©Getty Images

――シュツットガルトでキャプテンを務める遠藤航も、日本代表の中心選手です。

「もちろん知っている。シュツットガルトは残留争いに巻き込まれたので、キャプテンとして簡単なシーズンではないだろう。だが、それは成長のチャンスでもある。プレーから強い気持ちが感じられる選手だ」

――日本代表の長所をどう見ていますか。

「非常にポテンシャルがあるチームで、ブンデスリーガでたくさんの選手がプレーしていることからも、それがわかる。プレースタイルとしてはスピードがあり、速い攻撃を武器にしているチームだと思う」

日本代表の弱点?それは私の……

――日本代表の弱点を挙げるなら?

「それは私の心の中に留めておこう(笑)」

――初戦の重要性をどう考えますか?

「W杯では初戦の結果によって、勢いに乗れるかが決まると言っても過言ではない。もし初戦でつまずくと、即座に心理的なプレッシャーがかかってしまう。私たちはそれを回避したい。つまり初戦でしっかり勝利して、自信を掴み取るつもりだ」

――グループ分けの印象は?

「W杯では簡単なグループなどない。それはE組も同じ。対戦する3チームとも、三者三様の長所がある。どんな相手だろうと、絶対に侮ってはいけない」

――あなたはコーチとしてW杯を制しました。W杯で最も大事なことは?

「チームの一体感だね。全員が同じ方向を見て、他者のために行動できるチームでなければ、大会中のさまざまな困難を乗り越えられない。それが成功の絶対条件だ」

――'19-'20シーズンのCLは、新型コロナ禍のために準々決勝以降がポルトガルで集中開催されました。その際、あなたは選手のコンディションを効率的に高め、驚異的なハイプレスを実現しました。それと同じ強度をW杯で見せたいですか?

「それが私の目標だ。もし高いインテンシティを実現できれば、カタールの地で優勝候補の筆頭になれる」

 フリックは休むことを知らない。今年2月にはブレントフォードのバイタリー・ジャネルトを極秘視察し、スタジアムの通路で面談した。この23歳のMFはドイツでほぼ無名だったが、その後チェルシー戦で2得点をあげて時の人に。W杯の秘密兵器になると言われている。「全ポジションが常に高い活動量を発揮するサッカーをしたい」と語る指揮官は、その準備を着々と進めている。

<#1、#2からつづく>

文=アレクシス・メヌーゲ

photograph by KYODO