その延髄斬りは、5月に内藤哲也に放ったものよりも高かった。7月16日の新日本プロレス、札幌・北海きたえーる大会。オカダ・カズチカは『G1 CLIMAX』開幕戦のメインイベントでジェフ・コブと対戦した。

 7人×4ブロック制ということで、1人が戦うリーグ戦はそれぞれ6試合しかない。オカダのAブロックには他に矢野通、トム・ローラー、ジョナ、ランス・アーチャー、バッドラック・ファレがいる。難敵コブとの初戦を落とすと厳しい展開になる。

 コブはオカダとの過去の戦いでもオカダの技を巧みに繰り出して切り返している。カウンターのドロップキックも、コーナー上の相手へのドロップキックも「どうだ」と言わんばかりに放つ。オカダの株を奪うようにラリアットもいいタイミングでぶち込んだ。

持ち前の怪力でオカダ・カズチカを担ぎ上げるジェフ・コブ

「また、オカダやられちゃうのか」とも思った。だが、オカダをよく研究しているコブでも、まだタイミングがつかめていないものがあった。それが延髄斬りだった。

オカダ・カズチカが繰り出した三沢光晴の“あの技”

 高くジャンプしたオカダが延髄斬りを放った。続けてオカダは意外な技を繰り出した。あの三沢光晴のエメラルド・フロウジョンのように、キャンバスにコブをたたきつけたのだ。これには観客席がどよめいた。最後はいつものようにレインメーカーだったが、コブの研究が及ばないところでの勝利だった。

オカダ・カズチカのエメラルド・フロウジョン

「ジェフが進化しているように、ボクも進化しています。想像できないような技が出て。上からも投げられましたし、自分では重たいと思っているのに、あんなに紙飛行機のようにポンポン投げられたら、ちょっと自信をなくします。でも、そういう中でも、しっかりと受け身が取れた。きついですけれど、これがG1だなと」

 オカダは進化という言葉を使った。それは外に向けての意外性という意味も含んでいるはずだ。オカダが「まさか」と思ったように、コブも「まさか」を感じただろう。延髄斬りからエメラルド・フロウジョン、猪木技から三沢技という新しい流れが生まれた。それでもオカダは、どちらの技でもフォールにはいかずに、フィニッシュはレインメーカーだった。

フィニッシュのレインメーカー

「ジェフをあそこまで持ち上げられたっていうのは、オレも力あるなと。オレもモンスターだな、と。ある意味、Aブロックのほかの選手もビックリするような戦いができたんじゃないかと思います」

 オカダはこう言って自信をのぞかせた。

「公式戦の数は減りましたけど、そういう意味では体調は整えやすくなりましたし、ケガが少なく、いいコンディションで戦えるんじゃないかと思います。けど、それは相手も同じことなんで。一概に試合数が減ったからよかったということはないですし、そこはみんな、何ブロックになっても同じ条件。勝つってことしかないんで、しっかりと勝っていきたいなと思います」

「ただ勝つだけじゃつまらないので」とガウンを新調

 オカダはこの日、赤色の新しいガウンをまとって入場した。入場口のライオンマークの前に姿を見せた瞬間、このG1にかける意気込みが伝わってきた。ガウンには少し抑え気味の赤にゴールドがあしらわれている。タイツも同じ色調で、黒いリングシューズには赤いヒモが通っている。

「コスチュームを変えて、自分の気を引き締めるのもそうですし、お客さんに喜んでもらう。ただ勝つだけじゃつまらないので、ひとつでも何か楽しめたらと思って。でも今日、改めてそのカラーリングを見て気が引き締まりました」

新日本プロレスの歴史が刻まれた赤いガウンで入場したオカダ・カズチカ

 これまでの白いガウンと同様に、赤いガウンにも新日本プロレス50年の歴史を記した文字が刻まれている。

「ボクはもう、リング上で戦って勝つってことしか考えてないんで。この10年で見え方としては変わってきていると思います。でも、昔から変わらないのは、勝つっていうその一点を目指してやっているってことですね」

IWGP王者のジェイ・ホワイトにリベンジなるか

 開幕前に行われた記者会見で、オカダはBブロックにエントリーされているIWGP王者のジェイ・ホワイトから「一緒に2人で写真を撮ろう」としつこく言い寄られたが、それには応じなかった。リーグ戦の後、8月17日か18日、日本武道館での準決勝か決勝で当たる可能性は十分に考えられるが、今はホワイトが上の立場にいるのは事実だ。

 会見を終えたオカダが会場を後にすると、ホワイトは「これはオレのものだ」と言わんばかりに、置いてあったG1トロフィーを抱えてIWGPベルトとともに記念撮影を行っていた。「オレの存在なくして歴史は作れないってことを、みんないつになったら気づくんだ?」とうそぶいて。

我が物顔でIWGPのベルトとG1トロフィーを掲げるジェイ・ホワイト

 そのホワイトはオカダが勝った同日、SANADAを下した。おそらく、リーグ戦は順調に勝ち進むだろう。

「オレがG1に帰ってきた。ああ、オレの“Jay1”だ。お前らみんな、オレとオレの言葉を信じるんだ。ファンもレスラーもな。“SWITCH BLADE”(ジェイ・ホワイトの異名)を信じないのは間違っている。オレとの試合の後には、相手が誰であれ、そいつはオレの強さを実感することになるだろう」

 一方、いい汗をかいたオカダは札幌のファンに声を張り上げていた。

「でかい壁だらけですけれども、しっかりと倒して、優勝したい。この汗の感じが、G1だなと思います。まだ1人しか倒してないですけれど、Aブロック、モンスターがたくさんいるんですよ。イコール、楽しいってことだから。オレにかかってこい、この野郎!」

文=原悦生

photograph by Essei Hara