J1清水エスパルスに加入した「ピカチュウ」という名前の選手に注目が集まっている。ブラジル人選手をめぐる「フットボールネーム」について調べてみた。(全2回/#1も)

 プロレスであれば、「タイガーマスク」のように漫画、アニメ、ゲームなどのキャラクターの名前を使った選手が何人もいる。しかし、日本の一般的なスポーツ選手が清水エスパルスに加入したピカチュウのように漫画などのキャラクターの名前を名乗ることはなかなか考えにくい。

 一方、ブラジル人選手がニックネームをフットボールネームとして使うケースが多いことは世界中で知られている。

 これは選手に限らない。ブラジルではファーストネームで呼び合うのはもちろんのこと、ニックネームで呼ばれる人が少なくないという背景がある。

そもそもキング「ペレ」だって本名ではない

 何しろ、ブラジルが生んだ世界フットボール史上最高の選手であるキング・ペレからして本名ではない。

 フルネームは、エジソン・アランテス・ド・ナシメント。「子供の頃、GKとしてプレーするのが好きで、地元のクラブの名GKビレになったつもりで『ビレ、ビレ』と叫びながらプレーしていた。それでみんなから『ビレ』と呼ばれるようになり、これが訛って『ペレ』になった」と本人が語っている。

1971年のペレ。本名は ©Getty Images

 このように、子供時代に何らか理由でニックネームを付けられ、大人になってからもその名前で呼ばれ、プロ選手となってからもそれをフットボールネームとした、というのが最も多いパターンだ。

「カレッカ」の意味は日本語だと……

 たとえば、1987年から91年までナポリでマラドーナとコンビを組んで大活躍し、ブラジル代表の一員としても1986年と1990年のワールドカップ(W杯)に出場し、1993年から96年まで柏レイソルでもプレーした名FWカレッカ。これは、ポルトガル語で「禿げ頭」を意味する。

柏時代のカレッカ ©Sports Graphic Number

 子供の頃、ピエロの格好をしたカレキーニャ(小さなカレッカ)という歌手が大好きで、いつも彼の歌を口ずさんでいたので、周囲の人からこう呼ばれるようになった。

 ただし、ブラジルでは「禿げ」という言葉に日本ほどネガティブなイメージはない。その証拠に、カレッカは髪の毛がフサフサしているがこの呼び名を嫌がっていない。また、ブラジルには彼以外にも「カレッカ」と呼ばれた選手が2人おり、彼らも禿げ頭ではなかった。

 ブラジル代表でキャプテンを務めて1994年W杯で優勝し、1995年から98年までジュビロ磐田で活躍した“闘将”ドゥンガのフルネームは、カルロス・カエターノ・ブレドルン・ベーリだ。

 子供の頃、非常に小柄だったので、親戚のおじさんから童話「白雪姫」に出てくる小人たちの末っ子(ドゥンガ)のニックネームを付けられた。以来、家族、友人からこう呼ばれるようになった。

闘将ドゥンガのフルネームは、カルロス・カエターノ・ブレドルン・ベーリ ©Sports Graphic Number

 その後、身長は人並み以上になったわけだから「俺は小人じゃない」と怒ってもおかしくない。しかし、あのこわもてのドゥンガが、子供時代につけられたこのあだ名を何の問題もなく受け入れている。ブラジル人らしい鷹揚さ、と言っていいだろう。

ブラジル代表監督の由来が少々ややこしい

 現在のブラジル代表監督チッチのフルネームは、アデノール・レオナルド・バッチ。彼の場合は、ニックネームの由来が少々ややこしい。

 元ブラジル代表監督のルイス・フェリペ・スコラーリが、選手生活の晩年、ブラジル南部の高校のチームを指導していた。そのチームにアデノールがおり、チッチと呼ばれる別の選手と一緒に地元のプロクラブの入団テストを受けさせた。その際、スコラーリはアデノールのことを誤ってチッチと紹介してしまい、以後、それが通名になった。

 ペレ、リベリーノらの名手と共に1970年W杯を制覇したCFトスタンのニックネームの由来も、少し変わっている。

 トスタンとは、「全く価値がなくなった昔のコイン」という意味だ。子供の頃、小さくて痩せており、またチームには彼より上手い選手がいたので、冗談半分にこう呼ばれるようになった。

 良い意味ではないから、本来なら本人が強く抗議するところだろう。しかし、彼の場合も周囲の人から親しみを込めてこう呼ばれているうちに気にしなくなったという。

カカとジーコは“本名と少し関連あり”パターン

 ニックネームは、本名と多少の関連がある場合もある。

カカのファーストネームは「リカルド」だが ©Sports Graphic Number

 たとえば、2001年から14年までサンパウロ、ACミラン、レアル・マドリー、そしてブラジル代表でも活躍したMFカカ。彼のファーストネームはリカルドだが、幼かった弟が正しく発音できず、こう呼んだ。それを家族が面白がって真似をするようになり、周囲の人にも広がった。

 ジーコもこの範疇に入る。

 彼のファーストネームはアルトゥールで、家族が「アルトゥールジーニョ」(小さいアラウトゥール)と呼び、それが訛って「アルトゥールジーコ」へと変形。さらに、その末尾だけを取って「ジーコ」となった。

 日本のメディアの記事で、「ジーコとは痩せっぽちの人のこと」という説明を読んだことがあるが、これは間違い。ポルトガル語に「ジーコ」という言葉は存在せず、従って意味も持たない。

ジーコの本名は言わずと知れた「アルトゥール・アントゥネス・コインブラ」 ©Sports Graphic Number

風貌からニックネームをつけられる場合も

 風貌からニックネームを付けられる場合がある。

 たとえば、マラドーナ、カレッカらとナポリの黄金時代を築いたMFアレモンは、ポルトガル語で「ドイツ人」を意味する。彼がドイツ人のような風貌を持つからだ。

 最近はブラジル代表から遠ざかっているが、2019年のコパ・アメリカ(南米選手権)で大活躍して得点王となったエべルトン・セボリーニャ(現フラメンゴ)という選手がいる。「エベルトン」はファーストネームだ。

 ブラジルにはトゥルマ・ダ・モニカ(モニカと仲間たち)という国民的人気漫画があり、登場人物の中にセボリーニャ(ネギの意味)といういたずらっ子がいる。このキャラクターと風貌が似ているため、チームメイトからこう呼ばれるようになった。

 インディヘナ系の選手で、本名とは無関係にインジオ(ポルトガル語でインディヘナのこと)と呼ばれる選手もいる。これまで、フットボール選手で7人、フットサル選手で1人のインジオがいた。

 これは一般人でもそうで、ブラジル生まれのブラジル人とわかっていても、仲間内でアレモン(ドイツ人)、トゥルコ(トルコ人)などと呼ばれる人がかなりいる。

 中国系ではないにもかかわらず、「中国人に風貌が似ている」という理由でシーナ(中国)と呼ばれた選手も複数いる。

 このうち有名なのは、1978年から1994年までボランチとして活躍し、1983年、グレミオ在籍中にトヨタカップで優勝した選手。シーナは彼を含めて5人おり、ハンドボール選手でも1人いる。

マルセロ、パウロなど“あるある名字”はどうする?

「マルセロ」は日本で言う「鈴木」「佐藤」のような多いファーストネームだそうだ ©Takuya Sugiyama/JMPA

 また、マルセロ、パウロなどブラジルでありふれたファーストネームを持つ選手の場合、周囲の人が区別する必要性から、名前の後に出身地の名前を付けることが多い。

 1988年から2009年までフラメンゴ、コリンチャンスなどで活躍し、2002年にガンバ大阪でプレーしたMFマルセリーニョ・カリオカ(「マルセリーニョ」は「小さなマルセロ」の意味)はリオ州出身で、マルセリーニョ・パウリスタというサンパウロ州出身の選手もいた。

 また、元ブラジル代表MFで現在はブラジルサッカー連盟の強化部長を務めるジュニーニョ・パウリスタ(「ジュニーニョ」は「小さなジュニオール」の意味)はサンパウロ州出身で、2000年代にリヨンで活躍したFKの名手ジュニーニョ・ペルナンブカーノはブラジル北東部ペルナンブコ州出身だ。

FK職人だったジュニーニョ・「ペルナンブカーノ」は出身地由来だ ©JMPA

 現在のブラジル代表には、リヨンで活躍するMFルーカス・パケタという選手がいる。彼のファーストネームもルーカスというよくある名前で、リオ市東部にあるパケタ島の出身であることからこう呼ばれている(ルーカスを省いて単にパケタと呼ばれることも多い)。ブラジル北東部のセアラ州出身であることで、セアラと呼ばれたDFもいた。

ルーカス・パケタは「パケタ島」出身だ ©JMPA

「ロナウド」をめぐる呼び方は一種の言葉遊び?

 これは日本人にもかなり知られていると思うが、ブラジルでは一般に小さかったり、かわいらしかったり、親しみを抱いている場合、名詞や形容詞の語尾に「〇〇イーニョ」と付けることが多い。その反対に、大きな場合は語尾に「〇〇ドン」と付ける。

 これらはニュアンスを付加する一種の言葉遊びで、ブラジル人が好んで多用する。

 たとえば、ロナウドもありふれた名前なので、小柄なロナウドをロナウジーニョ、大柄なロナウドなのでロナウドン(ブラジル代表にも選ばれたCBで1994年から96年まで清水エスパルスで活躍)と呼ぶ。

 なお、1998年から2015年までパリ・サンジェルマン、バルセロナ、ACミラン、ブラジル代表などで活躍した名MFロナウジーニョは、ブラジル国内ではたいていロナウジーニョ・ガウーショと呼ばれる。

ロナウジーニョには「小柄な」という意味が含まれる ©JMPA

 ガウーショとはカウボーイ、またはブラジル南部リオ・グランデ・ド・スル州出身者のことで、ロナウジーニョの場合は後者の意味で使われる。

 また、インテル、レアル・マドリーなどで活躍したロナウドはブラジル国内ではロナウド・フェノメノ(驚異のロナウド)と呼ばれる。これは、現役時代の彼の驚くべきプレーが由来だ。

ブラジル人らしい鷹揚さが現れている

 このように、多くのブラジル人選手が様々な理由からニックネームを持っており、それを自動的にフットボールネームとして使っている。そして、それらが少々奇妙であったり、場合によってはネガティブな意味を持つことがあっても、他者から親しみや愛情が感じられる場合は全く嫌がらない。

 こういう鷹揚で些事にこだわらないところが、いかにもブラジル人らしい。このような国民性がプレースタイルにも大きな影響を与えており、ひいてはブラジルのフットボールが世界中で広く愛される理由の一つではないかと考えている。<#1/「ピカチュウ秘話」につづく>

文=沢田啓明

photograph by JMPA