国立競技場で華々しく行われたPSGジャパンツアーの初戦。VIP席の観客視点、そしてフロンターレ視点でメガクラブのスケール感を追った(全2回/#1も)

 7月20日に開催された、パリ・サンジェルマン(PSG)のジャパンツアー第1戦。6万4922人の大観衆が、国立競技場を埋め尽くした。

 この数字は6月6日の日本×ブラジル戦(6万3638人)を上回る、改築後の国立競技場の最多観客数だ。安易に比較すべきではないかもしれないが、前日の7月19日にカシマスタジアムで行われたE-1選手権の日本×香港戦が4980人だったことを考えると、驚異的な動員数と言っていい。スタジアム周辺はちょっとしたお祭りのような雰囲気もあり、地上波でのテレビ生中継もあるなど注目度の高い一戦だった。

世界的スターをひと目見ようと、国立競技場には6万人を超える大観衆が集まった ©Asami Enomoto

 試合はPSGが川崎フロンターレに2対1で勝利した。最後まで勝ちにいく姿勢を見せたJリーグ王者だったが、山村和也のセットプレーによる終盤の追撃弾のみで惜敗。ただ親善試合とはいえ、試合を通じて得られた「何か」も少なからずあったはずである。それを川崎の選手たちに聞いてみたいと思った。

PSG相手にフル出場した車屋紳太郎を直撃

 今回は12人まで交代できるレギュレーションで、前半と後半で両チームともにほぼ全ての選手が入れ替わっている。そんな中、フルタイムでプレーしたフィールドプレイヤーがいた。

 センターバックの車屋紳太郎である。

川崎のフィールドプレイヤーとしては唯一の先発フル出場を果たした車屋紳太郎 ©Asami Enomoto

 最初から最後までプレーし続けた彼にしか感じられないものも、きっとあったのではないだろうか。試合後のミックスゾーンで呼び止めて感想を求めると、開口一番、車屋は苦く笑った。

「疲れましたよ……。(90分出るという)そんな予感はしてましたが(笑)」

 疲労困憊になるのも、当然だろう。

 親善試合とはいえ、相手は世界屈指のスーパースター軍団だ。この日の前線には、リオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・ムバッペという、いわゆる“MNMトリオ”が並んだ。まるでゲームの世界のような攻撃陣だが、車屋は彼らと現実のピッチで対峙し続けたのである。

 チーム事情に目をやると、E-1選手権で日本代表に招集されているため、谷口彰悟、山根視来、脇坂泰斗の主力3人が不在だった。最終ラインに関していえば、CBには長期離脱していたジェジエウが約8カ月ぶりとなる復帰を果たし、右SBには左SBを主戦場としてきた大卒新人の佐々木旭が起用されている。そして直近のリーグ戦で戦列復帰したばかりの登里享平が左SBに入った。この4人の組み合わせによるDFラインは初めてで、対戦相手以前にその難しさもあったはずである。

「ぶっつけ本番なところがあったので、自分が声を一番出して統率しようと思っていました。2失点はしましたが、良いシーンもあったと思います」

 守備陣を牽引した車屋は、圧倒的な個を誇るPSGの攻撃陣に対して、巧みなラインコントロールで対抗した。駆け引きのポイントは「上げすぎず、下げすぎず」だ。

「ラインコントロールは細かくやっていたつもりです。とにかく一瞬の隙を狙っているので、そこのタイミングでしっかりとラインを下げる。逆にボールが出ないタイミングでは、ラインをコントロールする。前の選手を少しでも楽にできるように意識していました」

 コンパクトな守備陣形を保ちながら、奪ったボールからマルシーニョを相手DFの裏に走らせるカウンターでチャンスも作っている。ただ時間とともに徐々に自陣に押し込まれていき、我慢の展開となった。

左足でシュートを放つメッシ ©Takuya Sugiyama

ネイマールに釣り出され、スペースにムバッペが…

 車屋が主にマッチアップしていたのは、2トップの一角に入ったネイマールだ。言わずもがな、世界最高の選手の1人と言われるブラジルの至宝である。中盤に落ちてボールを引き出しながら、前を向いて鋭いドリブルを仕掛けてくる。危険な位置でボールを受けられそうになったときは、車屋もラインを崩して前に出て食い止めた。だがPSGの狙いは、CBを前に引っ張り出すことで生まれるギャップを突くことにあった。

 17分、その形で決定機を作られた。

ムバッペの鋭い飛び出しがたびたび川崎Fゴールを脅かした ©Takuya Sugiyama

 車屋がアプローチに行けない距離でネイマールがボールを持った瞬間、釣り出された背後のエリアにスルーパスを通されている。ムバッペが斜めの動きでスプリントしており、綺麗に中央を崩される決定機だ。ここは絶妙な飛び出しを見せたGKチョン・ソンリョンが間一髪で防いだものの、肝を冷やした場面だった。車屋はこう振り返る。

「前半に一度、やられました。ネイマールが落ちたところに自分が食いついて生まれるスペースを意図的に狙っているとわかっていましたし、あそこはディフェンスが1人出たらもっと絞らないといけなかった。中盤の選手もそうですが、絞りのところはもっとチームとしてやらないといけないと思います」

登里享平の証言「1vs1よりもむしろ…」

 スーパースター軍団が仕掛ける駆け引きに舌を巻いていたのは、車屋の隣にいた左SBの登里享平も同様だった。PSGの攻撃というと、圧倒的な個の能力に目が行きがちだ。だがMNMトリオをサポートする周囲の選手たちの立ち位置と距離感も絶妙で、攻守で連動した圧力を加えてきた。「個」よりもむしろ「グループによる崩し」によって後手を踏まされたと登里は明かす。

「相手のボールの持ち方ですね。1対1よりもむしろ、グループで局面の数的優位を作るのがうまい。それはすごく感じました」

個の能力だけでなく、立ち位置の巧みさを見せたPSGの選手たち ©Yuki Suenaga

 コーチングに優れた登里は、左サイドの味方を動かしながら、中央突破を警戒して防波堤を維持しようとした。だが相手はボールの取りどころを絞らせてくれず、連動しながら組織の綻びを簡単に作り出された。特別な崩しではないが、そこに至る駆け引きが実に巧みだったという。

「守備では中を締めるところで、マルシーニョやチャナティップ、ケント(橘田健人)もそうですが、しっかりと(周りを)動かすところは意識していました。ただ相手は体の向きでこちらの足を止めたり、目線を変えさせるような立ち方、運び方がすごくうまかった。遊びのパスもうまくて、なかなかチャレンジできない時間帯もありました」

 そして前半32分に失点。左右に大きく揺さぶられ、最後はメッシが振り抜いた右足シュートの軌道が変わり、ボールがゴールネットに吸い込まれた。

前半32分、メッシの右足シュートが登里享平に当たってゴールに吸い込まれた ©Takuya Sugiyama

車屋が「あれは完璧(笑)」と自画自賛したプレーとは?

 力の差を見せつけられた前半だったが、それでも耐え続けたのはチームとしての頑張りがあってこそだろう。前半終了間際にはネイマールが仕掛けた突破に対して、車屋が懐に入ってクリーンにボールを刈り取っている。「あれは完璧でしたね(笑)」と自画自賛するほど、会心のディフェンスだった。

「球際で1対1になった時に下がることが多かったので、僕自身がボールを取った時のようにしつこく密着してディフェンスをすることが大事だと思っていました。怖がって見ているだけではボールは取れないので。ボールをしっかり取り切るという意識は、あのシーンに出せたんじゃないかなと思います」

 ハーフタイムにはネイマールやムバッペら主力が下がり、後半は時間とともに親善試合の空気が色濃くなっていったのも事実だ。そんな中、最後までピッチに立ち続けた車屋には、どんな発見があったのだろうか。彼が口にしたのは、基本的なプレーを極限のレベルでやり続ける凄みだった。

「メッシやネイマールがそうですが、シンプルに当てて入ってくる。自分たちがやりたいサッカーを、相手に見せられたのかなと思います。自分たちがやろうとしていることをやり続ける。そういうところは、まだまだ学ばなくてはいけないな、と」

 実際、この日のPSGが決めた2点目の崩しは、メッシを起点にしたワンツーだった。派手な崩しではなく、「出して、動く」の作業を繰り返しただけだが、その的確な判断と技術の使い方はやはり世界トップクラスだった。車屋はこの試合で得られた刺激を、今後のJリーグで生かしていく必要性を語った。

「世界のトップの選手とやれたことはすごく嬉しいし、自分たちが向かっていく立場も最近はなかなか味わうことができなかった。この気持ちを持って、Jリーグでもプレーしなくてはいけない。そうすれば、もっともっと良いプレーができるんじゃないかと思います」

試合後の両チームの選手たち ©Asami Enomoto

MNMとの対戦という“非日常”を日常につなげられるか

 ジェジエウが復帰を遂げたことで、川崎フロンターレのCB争いは、日本代表の谷口、得点を決めた山村、そして車屋を含めた4人で繰り広げられていくことになる。

 少し前に尋ねた際、「切磋琢磨しながらやれる環境がチームとしても戻ってきています。簡単にポジションを返すつもりはないです。そこは負けたくない気持ちが強い」と、より激しくなるであろうチーム内での競争に向けて車屋は語気を強めていた。

 MNMトリオとの真っ向勝負。あのお祭りのような非日常で得られた経験を、車屋をはじめ川崎の選手たちが日常の成長にどうつなげていくのか。シーズン後半、逆転優勝を狙うJリーグ王者の楽しみとして見届けていきたい。<#1/PSGvs川崎《100万円VIP席》体験記につづく>

8月17日発売予定のNumber PLUS「パリ・サンジェルマンのすべて」仮表紙ではメッシ、ムバッペ、ネイマールの3人が並び立った! 8月17日発売予定のNumber PLUS「パリ・サンジェルマンのすべて」ではPSGの日本ツアーに徹底密着。さらには特別NFTの付録つきです。お楽しみに!

文=いしかわごう

photograph by Takuya Sugiyama