欧州サッカーの22-23シーズン開幕を前に、多くの日本人プレーヤーが新天地を求めた。各国リーグでのステップアップは多様化しているが、ビッグクラブ挑戦へのメリットとデメリットは何なのか。フットボール王国ブラジルと比較しつつ調査してみた(全3回/#2、#3も)

 2019年6月にFC東京から“白い巨人”レアル・マドリーへ移籍した久保建英(21)が、3シーズンの間、スペインリーグの他クラブへの期限付き移籍を繰り返した後、中堅クラブであるレアル・ソシエダへ推定移籍金650万ユーロ(約9億円)で移籍した。

レアル・ソシエダの一員となった久保。すでに練習試合でプレーしている ©Daisuke Nakashima

久保がマドリーでプレーする可能性は潰えていない

 9歳にして名門バルセロナのアカデミーに加わり、将来はトップチームでプレーすることを夢見た。しかし、18歳未満の外国人選手はアカデミーであっても試合に出場できなくなり、14歳になる直前の2015年3月に帰国。FC東京のアカデミーに入り、2016年11月、FC東京U-23(当時J3所属)で、15歳5カ月1日で出場してJリーグ史上最年少出場記録を塗り替えた。2017年11月、16歳5カ月でプロ契約を結び、2018年後半の横浜F・マリノスへの期限付き移籍を経て、レアル・マドリーへ移籍した。

 それとほぼ同じ時期、18歳2カ月で代表でもデビューし、日本ではしばしば「天才」と呼ばれてきた逸材。だが、その彼をもってしても、栄光に包まれた純白のユニフォームをまとって公式戦のピッチに立つことはできなかった。

 レアル・ソシエダとの契約内容に関して「5年間の契約期間中はレアル・マドリーに優先購入権がある(他クラブが獲得を希望した場合、本人の同意があれば同条件で買い戻せる)」と報じられている。これが事実なら、将来、レアル・マドリーでプレーする可能性が潰えたわけではない。

 しかし当面、久保はレアル・マドリーのことは忘れ、“もう一つのレアル”(かつてスペイン王室の庇護を受けた経緯があり、地元では「ラ・レアル」と呼ばれる)の勝利に貢献し、自らも成長することだけを考えるべきだろう。

メガクラブ移籍か、それとも中小クラブか

 ここで、1つの疑問が湧く。

 3年前、Jリーグのクラブからいきなり世界のトップ・オブ・トップのクラブへ移籍したことが、彼にとって最良の選択だったのか。まず欧州の中小クラブへ移籍し、そこで経験と実績を積んでステップアップを目指す方が良かったのではないか――。

 それを検証するために過去、久保以外に日本から欧州ビッグクラブへ直接入団した選手のケースを確認してみた。該当するのは、以下の6選手である(カッコ内は現在の年齢)。

<MF稲本潤一(42):ガンバ大阪→2001〜02年アーセナル(4試合0得点)>
 ガンバ大阪のアカデミー育ちのボランチで、1997年、17歳でトップチームからデビュー。5年間レギュラーとして活躍し、2000年、日本代表にも選ばれた。

アーセナル時代の稲本 ©Sports Graphic Number

 2001年7月、21歳のとき、アーセン・ベンゲル監督(1995年から96年まで名古屋グランパスを指揮)に見込まれて1年間、アーセナルに期限付き移籍したが、カップ戦4試合の出場に留まった。その後、欧州3カ国のクラブでプレーした後、2010年から川崎フロンターレ、コンサドーレ札幌などでプレー。42歳の現在も、南葛SC(関東1部)に在籍する。

 日本代表では、82試合に出場して5得点。W杯は2002年から3大会連続出場。2002年大会で貴重な2得点をあげた。

プラチナ世代で期待された宇佐美、宮市だが

<MF宇佐美貴史(30):ガンバ大阪→2011〜12年バイエルン・ミュンヘン(5試合1得点)>
 ガンバ大阪のアカデミー育ちの攻撃的MF。2009年5月、17歳でトップチームからデビュー。翌年はレギュラーとなり、Jリーグ新人王を獲得した。

バイエルン時代の宇佐美 ©Takuya Sugiyama

 2011年7月、バイエルン・ミュンヘンに期限付き移籍したが、5試合に出場しただけだった。バイエルンを1年で退団し、ドイツ1部の他クラブへ期限付き移籍。その後もガンバ大阪とドイツの複数のクラブを行き来した後、2019年からガンバ大阪でプレーしている。

 日本代表では27試合に出場して3得点。ロシアW杯に出場した。

<FW宮市亮(29):中京大中京高校→2011〜15年アーセナル(2試合0得点)>
 高校、年齢別日本代表で快足右ウイングとして活躍。ベンゲル監督から高く評価され、2011年1月、19歳でアーセナルと5年契約を結んだ。しかし、すぐにオランダのクラブへ期限付き移籍。翌シーズン、アーセナルへ戻ったが、カップ戦2試合に途中出場しただけ。以後、イングランド、オランダのクラブへ貸し出されたが、度重なる故障に苦しんだ。

元ドイツ代表MFエジルと交代する宮市(2013年)©︎Getty Images

 2015年、ドイツ2部のクラブへ完全移籍した後、昨年7月、横浜F・マリノスへ加入。日本代表では、4試合に出場して無得点。W杯には出場していない。

浅野、“マンCに完全移籍”した板倉と食野は……

<FW浅野拓磨(27):サンフレッチェ広島→2016〜19年アーセナル(0試合0得点)>
 高校卒業後の2013年、広島に入団。4季プレーした後、2016年7月、21歳でアーセナルへ(移籍金は400万ユーロ=約5億5000万円=と報じられた)。しかし、ドイツの複数クラブへの期限付き移籍を繰り返す。2019年、パルチザン(セルビア)へ完全移籍。2020-21シーズンは国内リーグで18得点をあげたが、昨年5月、給料未払いを理由に退団。ドイツ1部ボーフムに入団し、現在に至る。

 日本代表では36試合に出場して7得点で、今年のW杯出場を目指す。現在の推定市場価格は300万ユーロ(約4億2000万円)。

<板倉滉(25):川崎フロンターレ→2019〜22年マンチェスター・シティ(0試合0得点)>
 川崎Fのアカデミー育ちで、2016年8月、19歳でトップチームで初出場。ベガルタ仙台への期限付き移籍を経て、2019年1月、22歳になる直前にシティへ完全移籍(推定移籍金は110万ユーロ=約1億5000万円)する。

 しかし、すぐにオランダのクラブへ期限付き移籍。2019−20年から2季、レギュラーとして活躍。2019年5月、日本代表に初招集され、2022年ワールドカップアジア最終予選で活躍した。今年7月、ドイツの古豪ボルシアMGへ完全移籍(推定移籍金は500万ユーロ=約6億9000万円)。日本代表では12試合に出場して1得点で、今年のカタールW杯出場を狙う。

<FW食野亮太郎(24):ガンバ大阪→2019〜22年マンチェスター・シティ(0試合0得点)>
 ガンバ大阪のアカデミー育ち。2018年4月、19歳でトップチームで初出場。2季プレーし、34試合に出場して6得点を挙げた。

 2019年8月、21歳でシティへ完全移籍(推定移籍金は100万ユーロ=約1億4000万円)したが、すぐにスコットランドのクラブへ9カ月間の期限付き移籍(22試合に出場して3得点)。その後、ポルトガルの複数のクラブへ期限付き移籍したが、2季で計31試合に出場して5得点。今年7月、ガンバ大阪へ復帰した。日本代表への招集歴はない。

板倉と久保は期限付き移籍先で出場機会を得た

 久保を含む7人のうち、移籍直後のシーズンに公式戦に出場したのは稲本と宇佐美だけ。他の5人はすぐに期限付き移籍へ出され、その後、宮市だけが復帰した。しかし、この3人にしてもクラブにとって重要な戦力となることはできなかった。浅野、久保、板倉、食野は、欧州ビッグクラブへ入団しながらもプレーできないまま退団している。

 とはいえ、板倉は期限付き移籍したクラブで活躍したからこそ、ドイツ中堅クラブへ移籍できた。市場価格も、シティへ入団した時点の70万ユーロ(約9000万円)から500万ユーロ(約6億9000万円)へ上がっている。

シャルケでも主力を張った板倉 ©Getty Images

 久保もスペインの中堅クラブに迎え入れられた。市場価格は、レアル・マドリーへ入団した時点が200万ユーロ(約2億8000万円)で、2020年には3000万ユーロ(約41億6000万円)まで高騰したが、現在は750万ユーロ(約10億4000万円)。とはいえ出場試合は増やしており、この3年間は決して無駄ではなかった。

では中田、長友、香川、冨安らはどんな感じ?

 それでは過去、日本から欧州中小クラブを経て欧州ビッグクラブに入団した選手はどうだったか。該当するのは、以下の6人である。

<MF中田英寿:ベルマーレ平塚→ペルージャ→2000〜01年ローマ(40試合6得点)>
 日本代表で77試合に出場して11得点。W杯は1998年から3大会連続で出場した。

ローマ時代の中田 ©Sports Graphic Number

<SB長友佑都(35):FC東京→チェゼーナ→2011〜18年インテル(210試合11得点)>
 日本代表で歴代2位の136試合に出場して4得点。W杯は2010年から3大会連続出場中で、今年のカタール大会出場を狙う。

<MF香川真司(33):セレッソ大阪→ドルトムント→2012〜14年マンチェスター・ユナイテッド(57試合6得点)>
 日本代表では、97試合に出場して31得点。W杯は2014年から2大会連続で出場。

ドルトムント時代の香川 ©Takuya Sugiyama

<MF本田圭佑(36):名古屋グランパス→フェンロ→CSKAモスクワ→2014〜17年ACミラン(92試合11得点)>
 日本代表では98試合に出場して37得点。W杯は2010年から3大会連続で出場。

<CB冨安健洋(23):アビスパ福岡→シント・トロイデン→ボローニャ→2021年〜アーセナル(22試合0得点)>
 日本代表では28試合に出場して1得点で、現チームの主力の1人。現在の市場価値は、日本人最高の2500万ユーロ(約34億7000万円)。

<FW南野拓実(27):セレッソ大阪→ザルツブルク→2020〜22年リバプール(55試合14得点)>
 日本代表では42試合に出場して17得点で、現チームの主力の1人。現在の市場価値は1200万ユーロ(約16億6000万円)。

最大の成功例を挙げるとすると……

 このうち、最大の成功例は長友だろう。

 明治大学中からFC東京の試合に出場し、2008年2月、21歳で正式契約。すぐにレギュラーとなり、3カ月後、日本代表に初招集されて2010年W杯に出場した。

 この年7月、23歳でイタリア1部チェゼーナへ期限付き移籍。すぐにポジションを獲得し、わずか半年で完全移籍を勝ち取ると(推定移籍金は160万ユーロ=約2億2000万円)、チェゼーナはすぐに名門インテルへ貸し出す。

 インテルでもすぐにレギュラーとなり、欧州チャンピオンズリーグにも出場した。2011年7月、インテルへ完全移籍(推定移籍金は450万ユーロ=約6億2000万円)。以後、7季にわたってプレーした。その後、トルコ、フランスのクラブを経て昨年9月、FC東京へ復帰した。

 インテルでポジションを失いかけた時期はあったものの、不屈の闘志で定位置を奪い返した。これほど長い間、欧州ビッグクラブでコンスタントに出場した日本人選手は彼だけだ。

インテル時代の長友 ©Takuya Sugiyama

 冨安は昨年8月、セリエA(イタリア)のボローニャから推定移籍金1860万ユーロ(約25億8000万円)でアーセナルへ。すぐに右SBのレギュラーポジションをつかんだ。昨年末以降、故障で欠場が増えたが、これまで日本人選手がはね返されてきた名門で健闘している。故障さえなければ、日本代表でも絶対的なレギュラーだ。

ハイレベルなレギュラー争いに苦しんだ過去

 中田、香川、本田、南野は欧州の複数クラブで経験と実績を積み、満を持してビッグクラブの門を叩いた。しかし、ハイレベルのレギュラー争いに苦しんだ。一概に失敗とは決めつけられないだろうが、大きな成功を収めたとも言い難い。

 つまり、日本から欧州ビッグクラブへ直接移籍した7選手は誰一人として欧州ビッグクラブの戦力になれなかったが、欧州の中小クラブを経由して欧州ビッグクラブへたどり着いた6選手のうち長友と冨安は確かな戦力となりえた(資料1参照)。

資料1

 ただし、日本人選手だけではサンプル数が少ない。そこで、世界で最も多くの選手を欧州クラブへ送り出し、なおかつ欧州ビッグクラブで最も多くの選手が成功を収めているフットボール大国ブラジル人選手のケースを検証してみたいと考えた。第2、3回で深掘りしていこう。<#2、#3につづく>

文=沢田啓明

photograph by Sports Graphic Number(L,C)/Getty Images