英語も全然話せない、身長161cmの日本人がドイツで弱小チームを優勝させた“奇跡の1年”とは……。女子バスケットボール・安間志織(28歳)インタビュー。前シーズン7位に終わったフライブルクは安間の情熱で劇的に変わった。レギュラーシーズンを18勝7敗の2位で終え、いよいよプレーオフへと進む(全3回の3回目/#1、#2へ)。

優勝だけじゃなく、MVPにも選ばれた

 プレーオフは8チームが出場、準々決勝は危なげなく通過したが、準決勝のケルターン戦は大接戦に。初戦は3点差で勝ち、第2戦は第3Qを終わって8点のビハインドをひっくり返して決勝進出を決めた。

 決勝の相手はレギュラーシーズン1位のラインランドで、先に3勝すれば優勝。

 初戦は、第1Qに9対26と試合の入りに失敗し、星を落とした。しかし、第2戦からは安間がチームを引っ張った。第2戦は4点差、第3戦は6点差をものにして王手をかけると、第4戦は相手を圧倒。

 4月30日、ついにフライブルクが頂点に立ち、安間はMVPに選ばれた。

「勝ったんです。ドイツに来た時は、優勝できるだなんて1ミリも思っていませんでした。なんたって、どこで試合をしていたのか知らないくらいだったんですから(笑)。みんなが喜んでくれたのが本当にうれしかった。それに、MVPまで獲得できて――MVPが取れたのもみんなのおかげです。英語が話せない日本人によくついてきてくれたなって」

「シオリから学ぶことが多かった。ありがとう」

 バスケットボールに限らず、日本人が海外でプレーする時に直面するのが、国籍の違う選手たちとのモチベーションの濃淡だ。「もっと、こうしたらいいのに……」と日本人が思っても、それを伝える言語力が備わっていないことも多く、コミュニケーションを諦めてしまうのだ。そしてその「諦め」はパフォーマンスを徐々に蝕んでいく。

 今回、安間はフライブルクにとことんコミットした。1年だけだが、「自分のチーム」という意識が強烈に芽生えていた。

「フライブルクが日本人を受け入れたのは初めてのことで、それ自体がありがたかったですし、そのなかで私が窮屈にならないように最大限の配慮をしてくれました。たとえば、チームのトレーニングだけでは足りなかったので、いつでも使えるジムを用意して欲しいとリクエストを出したら、体育館のすぐ近くのジムを用意してくれたんですよ。これだけサポートしてくれてる分、絶対にチームのためにプレーしたいと思いました。だから、自分のため、チームのため、そしてチームメイトと勝つためにプレーしてました」

 優勝はチームメイトとの別れの時でもあった。

「みんな、私が1年でいなくなるのは分かってたと思います。私が離れることになり、“I will miss you.”と言ってくれたり、『来年もいてくれたっていいんだからね』と言ってくれる子もいたり。同じポジションの子は、『シオリから学ぶことが多かったし、本当に一緒にこのシーズンを過ごせて良かった。ありがとう』と言ってくれました。みんな、英語を話せない私についてきてくれたし、私だって、彼女たちと『いい時間』を過ごすことが出来たから感謝です。ドイツに行った時は、日本人としてインパクトを与えたいと思っていたんですが、最終的にはチームに入れ込んじゃってましたね(笑)」

イタリアから届いた来季のオファー

 ヨーロッパは陸続き。ドイツでの活躍は、各国のリーグ関係者に情報がすぐに伝わる。ドイツでMVPを獲得した安間は、来季のオファーを受けた。

 イタリアのヴェネツィアからである。

 2021-2022年のシーズン、セリエA1のレギュラーシーズンでは2位に入った強豪だ。

「イタリアのリーグはレベルがグッと上がりますし、ユーロリーグやユーロカップでプレーするチャンスも増えます。それに、ウクライナ情勢も関係してきて、これまではアメリカのWNBAで活躍した選手がロシアのリーグでプレーしていたんですが、それが出来なくなり、レベルの高い選手たちが続々とイタリアにやってきます。そうなると、より英語が課題になるでしょうね。ドイツではなんとかなりましたが、レベルが高くなる分、コーチが考えていることを私がしっかりと理解して、ガードとして指示を出さなければいけないケースが増えるはずです」

「日本のバスケットは、世界で通じます」

 ドイツでインパクトを与えたことがイタリアへとつながったが、いま、安間は9月にオーストラリアで開幕する女子ワールドカップの代表入りを目指し、日本代表の第四次合宿に参加している。

「いまは、W杯のメンバーに入ることにフォーカスしています。日本でバスケットをやると、めっちゃ楽しいです。海外では個人が基本ですけど、日本だとお互いがやりたいことを理解して、すぐに対応してくれます。日本は小さい分、チームで守らなければならないけれど、一人ひとりがフロアバランスを考えてプレー出来る。誰かがオフェンスで相手を崩せば、すぐに対応もしてくれる。とにかく気が利いてるんですよ、日本は」

 海外でプレーすることで、いかに日本のWリーグが恵まれた環境なのかも理解できたという。

「ドイツ、イタリアともに、サラリーが支払われるのはシーズン中だけなんです。でも、Wリーグのチームはシーズンオフもサラリーを保証してくれますし、設備も申し分ないです。それが分かっただけでも考え方に幅が出来ました」

 東京オリンピックから1年。安間の人生は大きく変わった。

「自分の人生、充実していると思います。20代後半に入ってから一年、一年がすぎるのが早くて、楽しいです。もちろん、オリンピックには出られなかったということもありました。でも、それを含めてポジティブに捉えられるようになりましたし、気落ちにすごく余裕が出てきました」

 次の停泊地はヴェネツィア。希望は膨らんでいる。

「身長が低くても、自分がやり続けることは変わらないと思います。自分としては楽しみながら、やっていけたらいいですね。それに日本の将来のある選手たちには、こんな小さくても海外でプレーできるんだってことを分かってもらえたらうれしいですね。日本のバスケットは、世界で通じます。私自身、まだまだ上手くなりたいですが、ドイツで過ごした時間は、自分の人生でも大きな経験になりました。ちょっと前までは、いろいろと完璧にやらなきゃと思ってた自分が、マイナスの部分までひっくるめて楽しめるようになりましたから」

 失意は、次の行動を生んだ。

 安間志織の「これから」が楽しみだ。

<#1、#2から続く>

文=生島淳

photograph by Eisvögel USC Freiburg