フィリップ・トルシエから電話がかかってきたのは、日本対チュニジア戦(6月14日)が終了した直後だった。日本の予想外の完敗に終わったこの試合の後、リモートで記者会見が行われているなか、私はトルシエとSNSでやりとりをしていた。もしも彼が試合を見ていたら、感想を是非とも聞きたかったが、答えはノンで逆に何が起こったのか尋ねられた。

 ブラジル戦もそうだったように、W杯予選などの節目となる試合では、トルシエにテレビ観戦してもらい直後に話を聞くのが恒例となっている。だが、チュニジア戦は、その発想が端から抜け落ちていた。こんなことなら見てもらえばよかったと思ったが後の祭りである。会見そっちのけでチャットを続けていると、もどかしくなったのかトルシエが電話で直接話しかけてきた。

「いったい何が起こったのか。信じられない結果だ。ボールの支配率を見たが、日本は60%を上回っていた。あり得ない結果だ」

――吉田麻也が多くのミスを犯しました。最初のPKとなったタックルと2点目のボールロスト。3点目も彼のパスからボールを奪われての失点でした。

「吉田なのか?」

――そうです。それに遠藤航も数多くボールを失い、パスでもミスを犯しました。日本の攻撃は、チュニジアの守備に粉砕されました。

チュニジア戦で致命的なミスを重ねた吉田は、ゲーム後「試合を壊してしまった」と語った ©Takuya Kaneko/JMPA

日本は簡単に勝つと思っていた

「0対3というのは信じられない結果だ。みんな驚いているだろう。昨日のフランスも最悪だった。日本同様に4試合をこなしたが、結果は2分2敗だった。だから注意は必要だ。試合を見られなかったのは残念だったが……。

――あなたのコメントが必要なときに……。

「君も日本が簡単に勝つと思っていたのだろう」

――そうです。だからあなたの意見を求めるまでもないと。

「これは日本にとって嬉しい警鐘だ。支配することと勝つことはイコールではない。より良い明日を迎えるために、どうしてミスが生じたのかを突き詰めることだ」

 プレスルームでこれ以上話を続けるわけにいかず、トルシエとの短いやりとりはここで終わった。

 その1週間前、トルシエは国立競技場で日本対ブラジル戦を観戦した。2002年日韓W杯から20周年を記念しての、日本サッカー協会の招待。試合前にはスタジアムで当時の選手たちも集まってレセプションも開かれた。そして彼らとともに日本対ブラジル戦を観戦した。

 電話で話を聞いたのは、ブラジル戦の翌日と翌々日だった。トルシエのロングインタビューを3回に分けて掲載する。まずはその第1回から。(全3回の1回目/#2、#3へ続く)

■■■

――ブラジル戦に関しては、ポジティブな面とネガティブな面の両方が見られましたがどう分析しますか?

「結果は敗戦だが日本は引き分けに値した。プレーの内容も満足のいくもので、昨日の日本は守備的によく組織されていた。ブラジル相手に守備はとても重要だ。

 だが、同時にフラストレーションも感じたのは、守備的戦略として奪ったボールを簡単に相手に渡さないやり方もできたのに、日本がそれをしなかったからだ。選手がテクニックを発揮して、コレクティブにボールをキープしようとはしなかった。

 もともとブラジルは守備が好きではない。そして日本にはボールを支配してキープする力がある。とりわけ相手を走らせることができる。それができるのに、選んだのはボールを奪うや即座にカウンターアタックを仕掛けることだった。

ブラジル相手によく守り抜いた日本だが、ネイマールのPKによる1点に泣いた ©Kiichi Matsumoto/JMPA

活かされなかった日本の力

 たしかにスピードある選手たちがいるからカウンターは有効だが、攻撃は後方から始まり、十分な人数をかけられなかった。アタッカーは孤立し、相手DFと1対1の状況に直面した。日本の選手はフィジカルが強く、スピードもあるが力強さには欠ける。日本が持てるすべての力を有効に活用したとは思えない。

 よく守ったのは悪くないが、攻撃がよかったかと言えば……。何かを加えるとしたら相手を走らせるべきだった。ボールを危険なゾーンから早く持ち出して相手を走らせる。しかもホームゲームなのだから、日本はもっとボールを支配して相手を走らせることができたはずだ。それが昨日足りなかったことだ。

 アタッカーたちはゴールにばかり向かっていた。一直線にゴールに向かっても、相手の守備網に簡単に引っかかるだけだ。それでは彼らのバランスを崩せない。バランスを崩すにはもっと別の動きも必要だ。しかしブラジル守備陣にほころびは生じず、伊東も満足のいくプレーはできなかった。ドリブルを仕掛けようとしたがうまくはいかなかった。彼にはサポートが必要だったし仕掛けも必要だった。

 日本はよりコレクティブかつ忍耐強くプレーすべきだった。攻撃の際の判断が速く、仕掛けるのが早すぎた。縦に速い攻撃で一直線にゴールを目指すから、守る側は対処しやすい。予測も容易で、ブラジルに脅威を与えることはなかった。

 たしかに日本はよく戦ったし、戦えることも示した。気持ちの強さも感じられた。しかしそれはすでに知られていることだ。日本人が100%のメンタルで戦うことは。

 ところが戦術面で主導権を取れず、若く経験に乏しいチームが攻め急ぎ、常に同じリズム、同じテンポでプレーしているようだった。繰り返すが日本はブラジルを走らせることもできた。ブラジルは守備が好きではない。とりわけネイマールやパケタ、ラフィーニャの攻撃陣は守備が嫌いだ。だが日本は攻め急いで、あまりに簡単に多くのボールを相手に奪われた」

――もっとパスを多用すべきだったと。

「もちろんバランスをとることは必要だが、実際にはバランスを欠いて……、私は守備の基準をもうひとつ加えるべきだったと思う。それは相手にボールを簡単に奪われないことだ。そのためにはボールを後ろに下げて、相手にボールを追わせることをためらわない。相手のバランスを崩し、彼らを走らせる。それが守備で重要な点だった。日本がボールを保持していれば守る必要はないからだ。

 これはドイツが相手でも重要なことだ。相手を走らせてプレーさせる。そうすれば守備のバランスも崩せる。相手を走らせて、自分たちも同時に動く。こちらが動けば相手ブロックに亀裂が生じる。そのときに日本は、伊東や三笘、前田らのスピードを活用できる。

「もっとプレーできたはず」と語ったがトルシエの伊東への評価は高い ©Takuya Nakachi/JMPA

できるという確信はあった

 しかしスペースがなければスピードも生かせない。ボールを持っても相手に前に立たれればスペースは生まれないし、自由にドリブルさせてもくれない。日本の攻撃陣がよい出来でなかったのは、彼らにスペースがなかったからだった。彼らは孤立し、1対1の状況を打開する必要に迫られた。数的優位を作れなかったのは、攻撃が速すぎたからだ。もっとしっかりと構築するべきだったし、スピーディな攻撃と遅攻のバランスに気を配るべきだった。昨日はスピーディな攻撃ばかりで、いくつかは効果的だったが、相手ブロックに亀裂を生じさせ、彼らを走らせて動かす攻撃も同時に仕掛けるべきで、そうすれば伊東や三笘のスピードも生きる。とりわけ伊東はもっとプレーができた」

――そうなってしまったのは戦術的な過ちなのか、それともブラジル相手にじっくりと攻撃を仕掛ける自信がなかったのか、どちらでしょうか?

「自信の欠如ではない。昨日の日本がその手段を持っていなかったからだ。コーチにそのつもりがなかったのかも知れない。

 私がこのオプションを語ったのは、彼らにそれができるという確信があるからだ。日本の技術レベルは高く、同時にコレクティブでもある。全員で目標に向かって力を合わせられるし、個のテクニックをコレクティブにも高度なレベルで発揮できる。自信を持って実行できるのに、昨日の日本はその武器を使わなかった。ただそれだけのことだ。

 そうした方向でプレーすべきだったし、トレーニングも積むべきだった。コーナーキックやフリーキックの練習と同じように。監督がセットプレーの練習を意図的におこなうように、ボールを簡単に奪われない練習や相手のプレスに対応する練習、どうやってプレスをかわして相手を走らせるか――ボールを回して相手を右往左往させられるかを練習すべきだった。それは今の日本が活用していない武器だ」

勝負を分けたブラジルとの違い

――あなたの時代に雨のサンドニでフランスに0対5と大敗し(2001年3月24日、スタッド・ド・フランス。アジアチャンピオンとして世界チャンピオンのフランスに挑んだが完敗を喫した)、攻守のバランスを再考しなければならなかったのと同じではないのですね。

名波浩、中田英寿、中村俊輔、稲本潤一ら錚々たるメンバーでフランスに挑んだ日本だったが… ©Getty Images

「私は選手の入れ替えを含めてチームバランスの再考を余儀なくされた。フィジカルも個の強さもアグレッシブさもデュエルも十分ではなかったし、濡れたピッチで戦えるスパイクも持っていなかった。われわれは相手のレベルからは程遠かった。

 だが昨日の日本は、フィジカル面でも技術面でもアグレッシブさでもブラジルと同じレベルにあった。持っている要素はブラジルと変わりがなかった。違いは武器をどう使うかという戦略面の違いだけだった。日本はブラジルに対抗できるだけの準備ができなかった。

 ブラジルは最高のコンディションで試合に臨んだ。彼らはただ待ち構えて、日本に渡ったボールを奪い返した。日本の攻撃は予測が容易で、速すぎる判断が墓穴を掘った。ブラジルとしてはボールを追いかけずに済んだことに満足しているだろう。日本はあまりに早くボールを相手に与えた。彼らにしてみれば守備のロジックの範囲内のことで、ボールを奪い返すために多大な努力をせずに済んだ。

 だから私のときとは比較できない。昨日の試合の違いはディテールの違いにすぎなかった。W杯に向けて容易に修正できることだ。日本はもっとボールを支配できたし、相手を走らせることができた。何故なら日本には自信にあふれた優れた選手たちがいたからだ。彼らはボールをもっと保持することができた」

――あなたがアジア最終予選を通じて言っていたのは、この日本代表はいいチームだが小さなチームで、個の強さはなく中田や本田のようなカリスマ性のある選手も、中村や小野、香川のような想像力のある選手もいないということでした。それでも昨日のブラジル戦のクオリティを見れば、日本はW杯でドイツやスペインと戦えるのでしょうか?

「それは間違いない。このチームは試合を重ねながら構築された。最終予選のスタートは最悪だったが、そこから日本は立ち直った。チームは強いキャラクターを見せて本大会出場を決めた。このチームはチャレンジを続けるなかで生まれた。

 そして昨日は世界最高のチームと戦った。W杯の大本命との試合だった。試合内容をふり返ると――私は日本サッカーも日本の選手たちもよく知っているが、そうであるからこそちょっと不満が募った。日本が持てる武器のすべてを繰り出したのではなかったからだ。

 フィジカル面では十分に戦い、アグレッシブさも負けてはいなかった。メンタリティも強固で日本は確かに存在した。とてもアグレッシブだったといえる。世界最高の攻撃陣に対しても震えることはなかった。守備は申し分なかった。板倉や吉田は素晴らしかったし中山や権田もそうだった。驚いたのは長友だ。彼はとてもフレッシュで、攻撃では3度にわたり攻め上がった。

 だから私が不満を感じ批判したいのは、日本はボールを保持して相手を走らせることができたのにしなかったことだ。ボールを支配しなかったのは、トランジションにばかり気を取られていたからだ。ボールを保持するや否や即座に前方にフィードする。練習でもそればかり繰り返していたのだろう。

問題は戦略と練習にあった

 日本が示したのは優れた連帯感でありよく組織された守備だった。アグレッシブでもあり、唯一欠けていたのが相手を走らせることで、相手に簡単にボールを渡さないことだった。これはとても大事なことだ。というのもブラジルがボールを奪わなければ、日本は右左に展開できたし、高い位置でも低い位置でもボールをコントロールできた。守備のゾーンですらそれは可能だっただろう。そうすればブラジルは動かざるをえなかった。それはブラジルにとっては戦術的な動きではなく、またボールを奪う動きでもなかった。

 彼らは自分たちの欠点に気づいていない。彼らを走らせれば、そこに必ずミスが生まれる。日本はフォワードがより良い形でボールを持てただろうし中盤も攻撃に加われた。サイドバックも攻撃参加できた。日本はそれができたにもかかわらずやろうとしなかった。

 日本にはボールを保持できるテクニックを持った選手が揃っていたし、ブラジルへのコンプレックスはまったくなかった。海外でプレーする彼らは自信に溢れていた。コンプレックスの問題ではなく戦略の問題であり、それに伴う練習の問題だった。オートマティズムを作り出せなかった。そういうことだ」

<#2に続く>

文=田村修一

photograph by Takuya Sugiyama