フィリップ・トルシエインタビューの最終回(第3回)である。
4カ月後に迫ったカタールW杯における日本の目標はグループリーグを突破してベスト8に駒を進めることである。だが、その目標は、ドイツ、スペインという対戦相手を前にしたとき、あまりにも高いと言わざるをえない。そうであるならば最少得点差で敗れたブラジル戦は、W杯に向けての可能性を何か示したのだろうか。日本は何を拠り所に、どの方向に向けて準備を進めていけばいいのか……。トルシエの言葉は示唆に富んでいる。(全3回の3回目/#1、#2を読む)

――それではカタールW杯に向けてですが。

「日本はブラジル戦で、ドイツやスペインのようなチームとも戦えることを示した。その意味でこのブラジル戦は貴重だった。もちろん結果に関しては、勝ちたかったというのはある。しかしこの種の試合は、監督や選手にもっとよくできることを気づかせる機会でもある」

総仕上げでやるべきこと

――つまりW杯に向けては、方向性を変える必要はないということですね。あなたが述べたディテールを詰めていけばいいと。

「そうだ。だがいずれにせよ監督に選択の余地はない。グループはすでに存在する。これから加わる選手は少ないだろう。それぞれの選手はスピーディなクオリティを持っている。三笘や伊東、原口らを替える必要はない。グループは出来あがっている。

 これからすべきは、すべての武器を揃えることだ。日本代表の武器庫を完璧なものにする。そのために選手もトレーニングを積む。オートマティズムと試合をコントロールできる状況をコレクティブに作り出すために。その点に関して日本はまだまだ改善の余地がある。攻撃の判断が速すぎるからだ。攻撃そのものが同じリズムになっていて、テンポを変えることができない。スピードばかりに特化しようとして、プレーの堅実性に目を向けるのを忘れている。相手にとって日本の攻撃を予測するのは容易だ。日本は同じやり方でしか攻撃しないからだ」

――素早い攻撃では小さなミスが発生します。ブラジル戦ではそれが顕著でした。

「その通りだ。選手は常に100%を強いられるからミスは必然的に起こる。ネイマールやパケタがどうやってボールを受けていたかを見ればいい。彼らは余裕を持ってボールをキープしていたのに対し、日本は常に同じ方向にばかりボールを運ぼうとした。攻撃を準備する余裕がなく、人数も足りなかった。

 他にも指摘すべきことはある。前半の日本には2度の得点機があった。最初のフリーキックをヘディングで外したものともうひとつ。ディテールではあるが、日本が得点していてもおかしくはなかった。効率の問題がそこにはある。得点を決められるフィニッシャー、ゴールをこじ開けられるアタッカーが日本にはいない。最初のFKでは、ヘディングはゴールから逸れた。ブラジルだったら枠内に打っていただろう。

 いずれにせよ今後に向けてとても興味深い試合だった。

トルシエが日本代表を語るとき、三笘の名はよく登場する ©Kazuo Fukuchi/JMPA 

02年と22年の監督の役割の違い

 今日のチームも、本当の意味でのリーダーは選手のクオリティだ。ピッチの上でクオリティを実現する選手たちだ。森保は彼らの同伴者であり、彼は選手たちとともにある。彼が抱えているのは、より成熟し経験を積んだ選手であるからだ。森保と私とでは果たすべき役割も異なる。

 今の選手たちにはリーダーがいる。例えば吉田や長友、川島らがそうだ。私の時代には30歳を超えたスタメンの選手はおらず、若い選手ばかりだった。だが長友も吉田も30歳を超えている。吉田は何歳だ?」

――33歳です。

「今のチームには彼のような成熟した選手がいる。私の選手は20〜23歳が多く、軒並み20代の前半だった。中山と秋田はいたが、彼らはほぼプレーしなかった。

 だからもし今、当時のチームでトルコと再び戦うとしたら、もちろん異なるマネジメントで試合に臨む。同じマネジメントをおこなうのであれば、指揮するのは2002年のチームではなく今の日本代表だ。選手が自分たちの責任を引き受けられるからだ。

 2002年の選手はそうではなかった。彼らにはそこまでの経験はなかった。そこが大きな違いで、今の選手たちには経験があり責任感もある。自ら責任を引き受け、コンプレックスも感じてはいない。スター選手はいないが、チームをまとめるリーダーはいる。吉田も川島も性格的には大人しいが、グループをまとめる力は持っている。それが最も重要なことだ。というのもリーダーとはチームをまとめる存在であるからだ。分裂させては役割は務まらない。このチームの力のひとつがその一体感であり連帯感だ。経験豊かな吉田や川島、長友はそのために不可欠な存在だ。とてもよくバランスが取れている」

――あなたが指摘する日本の特徴である一体感や統一感は、日本がドイツやスペインと戦うにあたっても武器になるのでしょうか?

「戦術的により傲慢になれる限りにおいてそうだ」

――傲慢というと……。

「相手を躊躇うことなく走らせ、ドイツと同等のレベルにあることを忌憚なく示すことだ。彼ら相手に自信に溢れるプレーを披露し、まったく恐れていないことを存分に示す。日本はボールを保持して、25本のパスをつなげることができる。相手を走らせることもできる。日本はより挑発的で大胆なパーソナリティを見せるべきだ。それが可能であるのだから。

 繰り返すがすべての要素——フィジカルもテクニックも経験も、日本は世界のトップと同じレベルにあるし、世界のトップ20の中に入っている。W杯でベスト8に入る力を十分に持っている。準々決勝に進めるすべての要素を備えている。

 もちろんグループリーグ突破は簡単ではない。ドイツもスペインも難敵だ。しかし日本はこのW杯で、戦術的にも相手と同等に戦えること、相手を挑発できることを見せられる。それが私の考えた解決策だ。しっかり守って素早くカウンターを仕掛けるのが答えではない。戦う武器としては、それだけでは不十分だ。もっと別のものも見せるべきだ。

ブラジル戦後、森保監督は「我々は十分、世界に向かって戦っていける」と自信をのぞかせた ©Shinji Koyama/JMPA

足りないのは戦術

 ブラジル戦で明らかになったのは、日本はフィジカル面でもメンタル面でもブラジルと戦えることだ。しかし戦術面ではもっと忍耐強く戦うこともできたし、相手を不安に陥れることも、走らせることもできた。彼らを動かして組織に綻びを生じさせるために、そして伊東や三笘、浅野らのスピードを生かすために、より戦略的な戦い方をすべきだった。ブラジル戦の攻撃は簡単に予測ができるしナイーブだった。カウンターアタックだけではドイツには勝てない。たしかに1点は取れるだろう。しかし相手を不安に陥れるためにはもっとじっくりプレーする必要がある」

――最後の質問です。さきほど高原については今のチームで何ができるかあなたは語りましたが、中田英寿はどうでしょうか。当時の中田はカリスマ性でもパーソナリティでも個の力でもレベルを超えていました。個人主義者でもありましたが、彼のようなタイプは今のチームにはいません。中田は今の森保のチームにも有効な人材なのか、そして森保のチームでプレーができるのでしょうか?

「中田は遠藤や田中、もうひとりは……」

――守田でしょうか。

「彼はブラジル戦ではプレーしなかった」

――それならば原口です。

進化した選手像

「その中盤の3人より中田の方が強い。つまり中田はこのチームでもポジションを確保できる。ただ当時との大きな違いは、今のチームの選手は中田と同じカリスマ性を持っていることだ。誰もがヨーロッパのクラブでプレーしている。彼らにはカリスマ性があり成熟もしている。今のチームには20人の中田がいる。もちろん中田は優れた選手だから、田中や原口のポジションで容易にプレーができるだろう。

 私のチームに高原が必要だったのは、彼はボールを受けるタイプの選手だったからだ。だが森保は、ボールを受ける選手を必要としてはいない。もっぱらカウンターアタックばかりで、前に行くことだけに気を取られている。森保の戦略の中では、彼のようなポストプレイヤーは必要とされない」

――大迫が負傷しているので、たしかにポストプレイヤーはいません。

「大迫は本当に素晴らしい。だから高原はブラジル戦では有効で、彼がいれば効果的な攻撃を作り出すことができた。大迫もまたこの種の戦略においてはもの凄く重要な選手だ。高原が2002年W杯を欠場したのは大きなハンディキャップになった。トルコ戦でも彼は力になっただろう。あのとき柳沢には疲れが見え、西澤は初めての試合だった。鈴木も3試合を戦って疲労があった。だからこそ高原のような選手が必要だった」

Jリーグではすでに出場を重ねている大迫。再び招集されることはあるのか ©Getty Images

――メルシー、フィリップ。これで終わりです。

「これはここだけの話にしておいて欲しいが……」

――何でしょうか?

「ブラジル戦の後で、吉田が私にロッカールームに来るように求めた。そして選手たちに話して欲しいと言われた。だから私もロッカールームに入り、彼らと5分間話をした」

――彼らに何と言いましたか?

「まずはW杯出場おめでとうと言った。スタートの出遅れを取り返すために、あなた方はキャラクターの強さを見せた。私が思う日本の勝利は、毎回必ずW杯本大会に出場し続けていることだ。ふたつめの勝利は、多くの選手がヨーロッパでプレーしていることだ。そのふたつが、私が考える日本の勝利だ。

 そしてブラジル戦は、これがサッカーだった。あなた方は世界チャンピオンに対して十分な存在感を示した。この敗戦は、あなた方がドイツと戦えるすべての要素を持っていることを示した。そしてドイツとの初戦を常に頭の中で思い描く。それがこれからに向けて最も重要である。今日、あなた方は、世界最高のチームにも対抗できることを示した。だから最善の準備をしていいW杯にして欲しい。

日本代表の成熟

 そうしたことを選手に語りかけ、森保も満足していた。選手たちも感極まり、彼らの目の中に深い尊敬の念があるのを感じた。吉田や川島、長友らと言葉を交わし……。それがあったから彼らがチームをひとつにできるリーダーだと確信できた。

 その統一感は私の時代よりも強いように思えた。私の時代の統一感は戦術で、メカニカルな統一感だった。今の代表に感じるのは知的な統一感であり、感情的な統一感だ」

――より人間的であるわけですね。

「私の時代の選手たちは若く、中田はグループから超越していた。ヨーロッパで長くプレーする唯一の選手だったからだ。彼は統一感を作り出すタイプではなく、統一感を作り出したのは戦術だった。人間的な統一感を作るにはチームは若すぎた。私も作ろうとしたが時期尚早だった。

 このチームから感じるのは静かな力だ。吉田や川島、長友らはそうした静けさや平静さをチームにもたらしている。ロッカールームでそのことを強く感じた。

 同時に選手のフィジカルの強さにも驚いた。本当に驚くばかりで、ドイツやフランスと比べてもまったく遜色がない。だから戦術をちょっとだけ見直せば、チームはより大胆かつ挑発的になれる」

――そういうことを感じたのですね。メルシー、フィリップ。

<#1、#2から読む>

文=田村修一

photograph by Kiichi Matsumoto/JMPA