F1はいま全22戦中13戦を終え、夏休みに入った。前半戦を終え、チャンピオンシップ争いをリードしているのはレッドブルのマックス・フェルスタッペン。昨年、ドライバーズ選手権を2013年以来、8年ぶりに奪還したレッドブルは、コンストラクターズ選手権でも2位以下に大差をつけて独走している。

 レッドブルが2つのチャンピオンシップをリードしている理由は、新王者となったフェルスタッペンに因るところが大きい。

 以前のフェルスタッペンは、どちらかといえばアグレッシブなドライバーとして存在感を示していた。バトル中に何度か進路を変更してセバスチャン・ベッテルやキミ・ライコネンといった元王者を怒らせたり、昨年もルイス・ハミルトンと2度接触事故を起こしている。勝負どころでは絶対引かないことがフェルスタッペンの良さでもあり、批判を受ける理由にもなっていた。

ハンガリーGPで会心の勝利を上げ喜ぶフェルスタッペン ©Getty Images / Red Bull Content Pool

チャンピオンという肩書がもたらす風格

 ところが、今年はここまでライバルと接触したり、物議を醸すような走りを見せていない。そのことを物語るのが予選と決勝レースの成績だ。昨年は夏休み前までの11戦で4回ポールポジションを獲得し、5回優勝していたが、今年はポールポジションが3回と1回減ったのに対して、優勝は8回と3勝増えている。つまり、今年のフェルスタッペンは逆転優勝が増えた。

 元々、速さがありながら、なかなかそれを結果につなげられなかったフェルスタッペン。しかし、昨年7冠王者のハミルトンとの激闘を制したことで、さらに成長し、逞しくなった。

 ただし、現在のリードは決してフェルスタッペンだけで築いたものではない。そのフェルスタッペンの速さを信用してレースの戦略を立てている、レッドブルというチームの総合力によって実現していることを忘れてはならない。

 逆に速さがありながら、それを前半戦の結果につなげられなかったのが、フェラーリとシャルル・ルクレールだった。フェラーリ・ドライバーとして2010年以来となる開幕戦でのポール・トゥ・ウィン、ファステストラップ、そして全周リードとなる「グランドスラム」を達成したルクレール。3戦を終えた段階でルクレールがフェルスタッペンに46点差をつけたときには、ルクレールが初のチャンピオンへ向けて大きくリードしたかに見えた。

 その後、フェルスタッペンに逆転されたひとつの要因は、パワーユニットの信頼性不足だ。フェラーリのパワーユニットのトラブルはルクレールだけでもすでに2回起きており、いずれもトップ走行中の出来事だった。ただし、マシンを使って戦うモータースポーツにはトラブルはつきもので、レッドブルにもトラブルは起きている。

「イケメン」の呼び声高いルクレールだが、前半戦はその表情が陰ることが多かった ©Getty Images

ルクレールとフェラーリに漂う不協和音

 もうひとつ、フェラーリが速さを成績に結び付けられていない理由に、ドライバーとチームの信頼関係がある。第12戦フランスGPではトップ走行中にルクレールがドライビングミスでクラッシュ。逆にモナコGPとイギリスGPでは、フェラーリの戦略ミスでルクレールが優勝を逃した。ドライバーとチームとの間に、目には見えない綻びが生じていたとしても不思議はない。

 夏休み前、最後の一戦となったハンガリーGPは、今年のレッドブルとフェラーリの前半戦を象徴するようなレースとなった。

 レッドブルは、予選のQ3に入ってからパワーユニットのトラブルに見舞われ、フェルスタッペンが最後のアタックが行えずに予選10位に終わる。

 一方、ルクレールは3番手からのスタート。ハンガリーGPの舞台となるハンガロリンクは抜きどころがほとんどない。10番手からスタートするフェルスタッペンに勝ち目はなく、ルクレールはできれば優勝、最低でもフェルスタッペンに先着し、ポイント差を縮めるチャンスだと誰もが思った。

 ところが、レースはある選択を巡って、レッドブルとフェラーリが異なる判断を下したことで形勢が逆転する。その選択とはタイヤだ。日曜日のハンガロリンクは涼しく、タイヤに関するデータを収集した金曜日とは異なるコンディションとなっていた。

 スターティンググリッドへ向かう走行で、路面が冷えてタイヤがなかなかグリップしないと訴えたフェルスタッペンの声に耳を傾け、レース直前にタイヤ戦略を大きく変えたレッドブル。

レース戦略で別れた明暗

 一方のフェラーリは、肝心の最後のピットストップのタイミングを巡ってチームとドライバーの意見が合わず、チームがルクレールを早めにピットインさせる。さらにフェラーリは誤ったタイヤを選択してしまった。これによりルクレールは6位に終わり、フェルスタッペンは逆転優勝を遂げた。

ルクレールはレース後、チームの判断に対し疑問を呈した ©Getty Images

「レースで下す決断はいつだって難しい。でも、僕のチームにはたくさんの素晴らしいスタッフがいる。今回は彼らが本当に良い仕事をしてくれた」とフェルスタッペン。

 一方、ルクレールは「(最後のピットストップは)あそこでフェルスタッペンに反応してピットインするべきじゃなかった。僕はできるだけ長くミディアムで走り続けたいって明確に伝えていたのに予定よりも早くピットインさせられ、しかもハードに履き替えることになった。なぜなのか理解する必要がある」とチームへの不信感を募らせた。

 勝利に勝る良薬はない——しかし、勝利から学べないものを敗北から学ぶことができる。

 8月下旬から始まる後半戦で、どちらのチームにどちらの言葉があてはまるのか。それはまだ、だれにもわからない。

文=尾張正博

photograph by Getty Images / Red Bull Content Pool