武藤敬司を筆頭に、唯一無二のレパートリーで不動の地位を築いたものまね芸人の神奈月(56歳)。プライベートでも親交のあるプロレスラー武藤の引退発表を、神奈月はいかに受け止めたのか。“武藤ものまね”へのこだわりや本人から掛けられた言葉、そしてあふれ出した武藤への思いとは――。《全3回の特別インタビュー中編/#3につづく》

「テレビでウケるまでに10年近くかかった」

――武藤さんのものまねを始めたとき、自分を代表するようなものまねになると思いました?

神奈月 思わないですよ。だって、テレビでウケるようになるまで10年近くかかりましたからね(笑)。2000年大晦日に武藤さんが初めてスキンヘッドにした後、僕は武藤さんのものまねを始めたんですけど。あの頃って新日本プロレスのテレビ放送も深夜の遅い時間だったし、武藤さんが頭を剃ったこと自体、プロレスファン以外知られてなかった。だから『アメトーーク!』でやらせてもらったときも、観覧客はシーンとしてて、ひな壇の芸人しかウケてませんでしたから。

――でも、神奈月さんが武藤さんのモノマネを続けたことによって、ものまねで武藤さんを知った人も多いですよね。

神奈月 それは多いかもしれないですね。僕が試合を観に行ったとき、武藤さんが「イヤー!」ってプロレスLOVEポーズをやったら、僕の3列くらい前の人が「神奈月じゃねーんだから!」ってつっこんでたんですよ。「いやいや、向こうのほうが先だよ!」って(笑)。

――神奈月さんのイメージが強すぎて、僕ですら武藤さんの入場シーン観ながら、「ホントに神奈月さんに似てるな〜」って思うことがありますからね(笑)。

神奈月 逆に「神奈月のマネしながら出てきたよ!」みたいな(笑)。

初対面はものまね番組での「ご本人登場」

――あと神奈月さんのものまねがすごいのは、本物を知らない人が見ても面白いってことですよね。

神奈月 馳さんのものまねもそういうところがありますから。僕がやってるのは90年代の馳さんですからね。黄色いパンツ穿いて出てきて、甲高い声で「元気出せよー!」って言われても「誰なんだよ」みたいな(笑)。

――元ネタ知ってるのは40代以上の男性ばかりという(笑)。それでも面白いのはやっぱりすごいです。武藤さんと親しくなるきっかけはなんだったんですか?

神奈月 ものまね番組での「ご本人登場」ですね。その時、初めてお会いして、「うわー、すげー! カッコイイなあ」と思ったんですけど、申し訳ない気持ちも半分あったんですよ。こっちはハゲヅラをかぶっちゃってるんで(笑)。

“ひげのフェルト”の色は年代によって変えている

――一歩間違えたら「バカにしてんのか」っていう(笑)。

神奈月 でも、こう見えてものまねは愛情と敬意を持ってやってますから。変装の小道具もパーティーグッズ屋さんで買ってきたりしたものを自分で改造して作ってますからね。

――自作なんですね。ヒゲは画用紙ですか?

神奈月 あれは縫製用のフェルトですね。武藤さんってモノマネをやり始めた頃はヒゲが真っ黒だったんですよ。だから「カールおじさん」みたいな感じだったんですけど、だんだん白髪が増えてきたんで、僕も自分で黒のフェルトに白のマジックで白髪を描くようになって。いまはもうシルバーっぽいヒゲにしてるんで。

――ひげのフェルトも年代によって変えてるんですね。

神奈月 だから前に番組のロケでご一緒した中邑真輔選手に言われたことがあるんですよ。「あっ、ちゃんとヒゲの色も変えてるんだ。ディテールがすげえな」って(笑)。だから知らない人はモノマネってけっこうディスっているようにも見えるから、「バカにしてるでしょ」って思われがちなんですけど。ホントに好きだから、フェルト1枚にもこだわってやってるんですよ。

武藤本人から褒められた「似てるじゃん。歩き方とか」

――武藤さんから神奈月さんのモノマネについてなにか言われたことってありますか?

神奈月 武藤さんがサムライTVでやられてた『プロレスの砦』というトーク番組に呼んでいただいた時、「いやー、似てるね」ってすごく言ってもらいましたね。アシスタントの方は「えっ、そうですか? 似てます?」とか言ってたんですけど、武藤さんは「似てるじゃん。歩き方とか」って言ってて。おそらくその時に「これは神奈月を使ったら商売になるな」って思ってたんでしょうね(笑)。

――お金の匂いを嗅ぎつけた(笑)。

神奈月 でも、それからずっと武藤さんはものまね番組もチェックしてくれていて。「あれ、面白かったな!」とか「やっぱカンちゃんは即効性があるっていうか、旬な奴をどんどん引っ張ってくるからおもしれーなー」とかっていうことをよく言ってくれて。あとは「ものまね界はどうなの?」って、こっちの業界の事情を聞いてきたので答えたら、「あっ、プロレス界と一緒だね。似てるな」なんて言って。

神奈月をラクにした武藤の一言

――武藤さんってプロレスを熟知しているからこそ、他の業界のこともプロレスに置き換えてすぐ理解したりしますよね。

神奈月 そうなんです。それで一番すごいなと思ったことがあって。『ものまねグランプリ』って年間3回あるんですけど、僕は2018年にすべてMVPと1位を獲ったんですよ。

――年間グランドスラムを達成したわけですね。

神奈月 プロレスで言えばチャンピオンベルトを獲った状態なので、この地位をどう維持するかっていうアドバイスをしてくれるのかと思ったら、武藤さんは「チャンピオンなんてあとは噛ませられるだけなんだから、これからはどう負けるかだよ」って言ってて、すげえ考えだなって思いましたね。

――チャンピオンになったら、次は負けてベルトを明け渡す瞬間こそが最大の見せ場になる、と。

神奈月 それを聞いて、「べつに保持しようとしなくていいんだな。噛まされてベルトを明け渡せば、それがまた次の展開を生むんだな」と思ったら、すごくラクになりましたね。でも、実際そうなんですよ。普通の人はとにかくベルトを守り続けようとするじゃないですか。モノマネの世界でも、優勝したら「次も優勝、その次も優勝」と死守したがる人が多い。僕は「それってどうなんだろう?」「でも、自分がその立場になってみないとわからないな」と思ってたんですけど、いざ優勝した時、武藤さんに言われた言葉で目から鱗が落ちましたね。

 武藤さんは、「一度頂点に立ったら、もう優勝しなくても確立してるんだから、あとはどうやって価値観を表現していくかっていう話だからさ」って言ってて、この人やっぱりすごいな、と。要するに、優勝したことですでに地位は築いたわけだから、負けを恐れずに実験的なネタにチャレンジすることもできるし、自分が負けることで番組自体を盛り上げることもできる。そういう考えに自分も変わっていったんで、エンターテインメントとしてすごくプラスになるアドバイスをしていただきましたね。

――武藤さん自身、昨年58歳にしてGHCヘビー級王者になったのもインパクトがありましたけど、丸藤正道選手に負けて王座陥落したときは、ムーンサルトプレスを解禁しながら負けることで、勝つこと以上のインパクトを残しましたからね。

神奈月 そういうことなんだろうと思いますね。それに武藤さんクラスになると、ベルトがあろうがなかろうがその地位は揺るがないじゃないですか。だからこそ、いろんなことができる。そういう武藤さんを見習って、僕もモノマネの世界で自分の存在感を維持しながら、いろいろ新しいことにチャレンジして、何年かしたらまたベルトを獲りに行くのも面白いかなって。それですべてをやりきったら、僕も武藤さんみたいに引退宣言しようかなって(笑)。

引退発表を聞いて「ついにその日が来てしまったか」

――武藤さんが2023年春の引退を発表したことについてはどう感じましたか?

神奈月 引退発表を聞いたときは、「ついにその日が来てしまったか」と思いましたけど、僕は武藤さんがヒザの人工関節手術から復活する姿も見てきたし、その前に長年ヒザの怪我がキツかったのも見てきてるじゃないですか。だから逆に、よくここまでやってきたな、武藤さんやっぱりすげえなって思いましたね。

 今年の1・8横浜アリーナでも引退の直接の原因となった股関節のケガを抱えながら、新日本との対抗戦のメインイベントでやってるわけじゃないですか。パートナーが清宮海斗選手で、対戦相手はオカダ・カズチカ選手、棚橋弘至選手という、自分より2世代、3世代下のトップ選手たちとやって、そこでまた存在感を示しているのが恐ろしいな、と。その武藤さん自身が決断したことだから、それは尊重して。あとはどんなラストランを見せてくれるか楽しみですよね。

“白髪のフェルト”で武藤敬司との2ショット(2022年撮影) ©Takuya Sugiyama

「これまでにない引退試合になるんじゃないかな」

――ラストマッチはどんな試合が観たいですか?

神奈月 武藤さんの全盛期のライバルって、もうほとんどリングに上がってないんですよね。だからもっと下の世代とプロレスLOVE継承のような試合になるのかなって思いますけど、関係性でいえば、やっぱり同じ闘魂三銃士の蝶野さんにはセコンドについてほしいですよ。

 あとレスラーの引退式は、過去に闘った名レスラーがひとりひとりテーマ曲に乗って登場して花束を渡したりしますけど、それが10人、20人続くと武藤さんの場合、「なげーよ! みんなまとめて登場してくれよ」って言いそうじゃないですか(笑)。

――「こっちはヒザ悪くて、立ってるのがつれえんだから」とか言って(笑)。

神奈月 「イス用意してくれよ」って絶対に言いますよ(笑)。そこらへんが武藤さんは読めないので、これまでにないような引退試合になるんじゃないかな。そこら辺も含めて楽しみですね。《つづく》

(撮影=三宅史郎)

文=堀江ガンツ

photograph by Shiro Miyake