第104回夏の甲子園で焦点となるのは「大阪桐蔭の秋春夏連覇」なるか。高校レベルを超越した5人の選手、さらに対戦相手と攻略するためのヒントをプロスカウトに聞いた。
(全2回の1回目/#2)も

 春夏連覇を果たせるのか、それとも絶対王者を倒すチームが現れるのか。8月6日に開幕した夏の甲子園で、最大の注目は10日に初戦を迎える大阪桐蔭だろう。

センバツ決勝の先発メンバー ©Nanae Suzuki

 圧倒的な強さで春のセンバツを制した大阪桐蔭は、横綱らしい戦いで夏の甲子園切符も掴んだ。履正社との決勝は7-0で快勝。大阪大会は計7試合で54得点。失点は、わずか1と全く危なげなかった。

 プロ野球スカウトの1人は「大阪桐蔭が負ける姿を想像できない」と春夏連覇を予想する。その根拠に「切れ目のない打線」、「投手陣の充実」、「隙のないプレー」などを挙げ、中でも5人の選手は高校生の中で群を抜いているという。

1)前田悠伍投手(2年)/179cm75kg、左投左打

前田悠伍投手(2年)/179cm75kg、左投左打

 まだ2年生ですが、今秋のドラフトでも上位指名されるレベルの投手です。これまで粗削りながら潜在能力の高さを感じさせ、ドラフト1位で指名された高校生左腕はいましたが、前田投手は素材の素晴らしさに加えて高校生では考えられない完成度です。しなやかさがありながら力強い。ゆったりした投球フォームから、しなりを利かせて腕を振るので、直球に伸びがあります。大阪大会決勝でも、履正社の打者は直球を待っていても差し込まれていました。

 しかも、変化球も含めてコントロールが良い。変化球を投げる時も腕が緩まないため、打者は見極めやタイミングの取り方に苦労します。けん制やフィールディングが上手いのも長所で、完成度、総合力の高さとして評価できる部分です。

 春からの成長も感じました。まずは、ギアの切り替え。先発した履正社戦では8回を投げて7安打を許しましたが、得点は与えませんでした。走者を背負うと力の入れ方を変えて、外野に打球を飛ばさせない意志を感じました。

 春は気持ちが先行して制球が乱れる場面がありましたが、力まずに力を入れる感覚が磨かれています。マウンド上での変化は、間の取り方にも表れていました。前田投手はテンポ良く投球するタイプですが、単調になりそうな時に自らひと呼吸置いたり、走者を背負うとボールを持つ長さを変えたりしていました。

 技術的にも精神的にも成長し、これまで以上に走者を出しても簡単には得点を与えない投手、大崩れせず計算できる投手になっています。

2)松尾汐恩捕手(3年)/178cm76kg、右投右打

松尾汐恩捕手(3年)/178cm76kg、右投右打

 強肩強打の捕手は、プロ野球のどの球団も求めています。間違いなく、今秋のドラフトで指名される選手です。昨夏の甲子園では下級生で唯一スタメンに名を連ねて、ホームランも記録しています。

 今春のセンバツでも大会が進むにつれて調子を上げて一発を放っています。今夏の大阪大会もチームトップのホームラン3本と長打力があり、特にボールをバットに乗せる技術は高校生レベルを超えています。

 春と比べると、下半身を使える打撃フォームになっています。元々、上半身の力で打球を飛ばすタイプなので、力むとトップが入りやすくなってしまいます。センバツでは力が入りすぎて甘い球を打ち損じる場面が目立ちましたが、大阪大会の打撃を見ると、下半身から上半身に力を伝えられるようになっていました。今の打ち方が徹底できると、長打力に加えて、粘り強さや確実性が増すと思います。

 捕手としては肩の強さが魅力です。フットワークを鍛えれば、二塁送球のスピードと精度が今以上に上がり、より相手に脅威を与える捕手になれます。リード面では、内角の使い方がセンバツの時よりも上手くなっていました。

 大阪桐蔭の投手陣は球威がありますが、外角一辺倒になれば相手打者も対応します。履正社戦では、打者に内角を意識させて外角への反応を遅らせている配球もありました。大阪大会を1失点で勝ち抜いたのは、投手陣をけん引した松尾選手の存在も大きかったはずです。

3)海老根優大外野手(3年)/182cm86kg、右投右打

海老根優大外野手(3年)/182cm86kg、右投右打

 海老根選手の魅力は、足と肩です。特に、スピードはプロで通用するレベルにあると思います。50メートル走のタイムといったシンプルな足の速さ以上に、瞬発力と加速するまでの速さを感じさせます。守備では打球の落下点に入るのが早いですし、背走して打球を追う時もスピードがあります。チームの戦術があるので自分の判断だけで盗塁はできないかもしれませんが、身体能力、潜在能力を考えれば、もっと盗塁数を増やせます。

 足に加えて武器としている肩は、いわゆる地肩の強さがあります。イチローさんのレーザービームのように低く伸びる送球ではなく、力を爆発させる強い送球です。どちらが良い悪いではなく、タイプが違います。

 海老根選手は、体勢やフォームのバランスが多少崩れていても、体の強さで送球できます。より無駄のない投げ方を身に付ければ、捕球してから送球するまでのスピードやコントロールが上がると思います。

 打撃は大阪桐蔭の5番に座るだけあって、スイングに強さや速さがあります。大阪大会ではホームランを打っていますが、長距離打者ではないと自覚していると思います。足を生かして外野手の間を抜く打撃や、走者を確実に還す打撃を意識しているように見えます。自分の長所や役割を把握しているのでしょう。走攻守が高いレベルでそろっている選手です。

4)川原嗣貴投手(3年)/188cm85kg、右投左打

松尾汐恩捕手(3年)/178cm76kg、右投右打

 エースナンバーを背負い、大阪大会優勝を決める最後のイニングを締めた姿は自信に満ち溢れていました。川原投手は間違いなく、センバツ優勝の経験が成長につながっています。恵まれた体格から投じる力強い直球は、高校生でもトップレベルです。

 ただ、今春のセンバツ前までは、どこか自信のなさや脆さを感じさせました。カウントが悪くなったり、走者を背負ったりするとリズムが悪くなり、コースを狙いすぎてストライクが取れない悪循環に陥るケースがありました。多少コースが甘くなっても力勝負できる直球があるだけに、もったいないと思う時がありました。

 しかし、今夏の大阪大会では相手を見下ろすような風格がありました。打たれるかもしれないという不安や、相手打者への過剰な警戒心がないため、自分の投球に集中していた印象です。常時140キロを超えるスピードに加えて、ボールの強さが一番の武器です。

 直球を待っている打者からファウルを奪ったり、詰まらせたりする球威があります。特に、投手の原点ともいえる右打者への外角直球は、制球も安定していて質が高いです。前田投手、別所投手といったハイレベルなチームメートと切磋琢磨して技術を上げ、その中でエースナンバーを手にした自信が投球に表れています。

5)丸山一喜内野手(3年)/180cm93kg、右投左打

松尾汐恩捕手(3年)/178cm76kg、右投右打

 派手さはありませんが、今年の大阪桐蔭打線を象徴する4番打者です。

 大阪桐蔭の4番と言えば、西武の中村剛也選手、中日の平田良介選手、巨人の中田翔選手ら豪快なスイングでホームランを量産するタイプを思い浮かべる人も多いと思います。丸山選手は今夏の大阪大会でホームランを打っていますが、長距離打者ではありません。

 持ち味はスイングスピードとバットコントロール。タイミングの取り方が上手いですし、タイミングを崩されても体とバットを後ろに残せるので、高校生の投手では、なかなか打ち取れません。内角の直球は強く引っ張り、外角へ逃げる変化球や落ちる変化球は逆方向へ運ぶため、バッテリーは苦労します。

 今年の大阪桐蔭は下位打線まで抜け目なく、つなぐ意識を強く持っています。犠打や盗塁を絡めたり、相手のミスを突いたりしてスコアリングポジションにランナーを進め、ヒット1本で得点する考え方がチームに浸透しています。その1本を打つ力を一番持っているのが、丸山選手です。

 チャンスで結果を出せる勝負強さ、「大阪桐蔭の4番」というイメージに捉われず自分の特徴を生かして役割に徹する思考。技術もメンタルも高校生離れしています。チームメートや西谷監督からの信頼は絶大でしょう。

5人以外も他の高校に行けばエース、主軸レベル

西谷監督は豪華な陣容をどう生かしていくのか ©Nanae Suzuki

 西谷浩一監督も星子天真主将も「今年のチームは突出した選手がいないので、束になって戦う」と繰り返している。だが、プロ野球スカウトが挙げた5人以外にも、他の高校に行けばエースや主軸を任されるレベルの選手が多い。夏の甲子園で優勝候補の大本命とされる大阪桐蔭。頂点に立ったセンバツから4カ月で、さらに成長した姿を聖地で披露する。

 第2回では、それだけの陣容をそろえる大阪桐蔭にどう戦えばいいかを、スカウトに聞いた。

 <#2/「大阪桐蔭にスキはあるか?」につづく>

文=間淳

photograph by Nanae Suzuki