スターダム恒例のシングルリーグ戦『5★STAR GP』が7月30日、31日の大田区総合体育館2days大会で開幕した。参加選手は史上最多の26人。2ブロックに分かれての闘いは、10月1日の決勝大会まで続く。丸2カ月、1人あたり公式戦12試合の長丁場だ。

 8月7日の段階では4大会が開催されたところ。まだまだ序盤戦で、星取り状況から優勝戦線を占うのは不可能に近い。ただ、そんな中で好スタートを切ったと言えるのがひめかだ。

7月30日、5★STAR GP開幕戦に登場したひめか

2年前、決勝で負けた林下に勝利

 ここまで2勝1敗。中野たむに敗れているが、7.30大田区の開幕戦で林下詩美に勝利したのは大きかった。林下は一昨年の優勝者であり前ワールド・オブ・スターダム王者。女子プロレス大賞も受賞している。

 林下が優勝した時、決勝で対戦したのが初エントリーのひめかだった。優勝した林下はその勢いで“アイコン”岩谷麻優からベルトを奪取し団体トップの座に。一方、ひめかはタッグ、6人タッグのチャンピオンになったものの、シングルで結果を出すという課題が残った。命運は2年前の決勝で分かれたのかもしれなかった。だからこそ、今回の勝利は大きい。キャリアの流れを変えるきっかけにもなりうる。

一昨年の5★STAR GP決勝戦で敗れた林下詩美を相手に

「初めて出た5★STARの決勝で負けて、やっとその借りが返せた」

 試合後のひめかのコメントだ。実はリベンジの準備、リーグ戦優勝のための経験値作りは上半期にしっかりできていた。

「まだまだ私はあんなもんじゃない」の理由

 4月29日、朱里が持つワールド王座に初挑戦。シングルプレイヤーとしての自分を確立するための闘いだった。所属ユニットDonna del Mondo(DDM)に貢献することを第一に考えてきたが、やはり“個”としての主張もないと埋もれてしまう。朱里戦は「間違いなくキャリア最大の分岐点」であり「ベルトを狙うだけじゃなく、何かを残さなきゃいけない」という決意を持っての挑戦だった。

朱里相手に

 結果として敗れたが、ひめかは確かに爪痕を残した。大きな体で場外に飛び、得意のジャンピングニーアタックもコーナーからダイブして放つ。身長172cm、元アイドルにしてパワーファイターの大器がついに“覚醒”した。そんな試合だった。ただひめか本人はこう言っている。

「あの試合で覚醒したとか一皮むけたと言ってくれる人も多いんですけど、まだまだ私はあんなもんじゃない」

ジャンピングニーを決めると鶴田ばりの「オー!」

 6月15日には、後楽園ホールでの『Fortune Dream 7』に参戦。小橋建太がプロデュースするイベントで、同じスターダムのレディ・Cと対戦した。なぜこのカードなのか、もちろん理由があった。

 ひめかはアイドル時代、全日本プロレスの応援大使だった。そこでプロレスと出会い、グループ解散後にレスラーとなる。アイドルの時から、体が大きいのでニックネームはジャンボ。レスラー修行中に秋山準からジャンピングニーアタックを教わった。ジャンボ鶴田の代名詞でもあった技だ。

レディ・Cを豪快なラリアットで吹き飛ばす

 一方のレディ・Cは日本現役女子プロレスラー最長身の177cm。得意技はフロントキックにチョップ、河津落としなど。つまりジャイアント馬場の技である。身長を活かすために研究し「大切に使ってきました」。

 全日本から生まれたジャンピングニーが得意技の「ジャンボ」と、馬場さんの技を使う女子レスラーの対戦、つまりは“令和の女子版馬場vs鶴田”だ。過去にも対戦はあったが、小橋建太プロデュースの大会で闘うことに大きな意味があった。

ジャイアント馬場ばりのフロントキックを繰り出すレディ・C

 レディ・Cは“ジャイアント殺法”に加え、小橋ばりにコーナーでのマシンガンチョップも。ひめかはそれを受け切った上でジャンピングニーを決めると鶴田ばりの「オー!」で拳を突き上げる。最後は自身の最高のフィニッシュ技であるランニングパワーボムで3カウント。「オー!」はこの日だけの特別なパフォーマンスだったが、それ以外はいつも通りだった。

「“どうせ見た目だけだろ”みたいな。でも実際には…」

 ひめかにとって『Fortune Dream』出場は目標であると同時に「夢のまた夢」だった。

「プロレスを始めるか始めないかの頃、秋山さんに相談したら小橋さんを紹介してくれたんです。小橋さんは“プロレスをやるなら『Fortune Dream』に出るような選手になってほしい”と言ってくださって。だからカードが発表された時は信じられなかった」

ジャンピングニー

 自分たちの試合を担当してくれた和田京平レフェリー、木原文人リングアナも「ファンとして見てきた方たち。“胸熱”でした」。特別な上にも特別な舞台で、だからこそ彼女は「いつもと同じ“スターダムのひめか”を見てほしかった」と言う。

「カードを組んでいただけたのは、スターダムでの試合が認めてもらえたからだと思うんです。しかもお客さんは小橋さんのファン、男子のプロレスを見ている人たちじゃないですか。そういう人たちに女子プロレス、スターダムのプロレスを伝えたくて。

 以前は私もそうだったから分かるんですけど、女子プロレスに偏見を持ってる人もいるんですよ。今は可愛い選手も増えたから、余計に“どうせ見た目だけだろ”みたいな。でも実際には女子だって熱い試合をしている。普段は男子しか見ない人たちに“女子も面白いな”と思ってほしいし、会場にも来てほしい。そのためにはいつも通りの試合をするのが一番いいなって」

「誰よりも迫力を出してやろうって」

 2人の試合ぶりは、他ならぬ小橋が「体も大きいし、ダイナミックな試合でした」と評価していた。いつもと同じで、しかし他の選手には経験できない試合だった。

 ひめかが志向するパワフルで迫力があり、熱い試合。その意味でも林下は最高の相手だった。以前から、ひめかと林下のタックル合戦、ラリアットの打ち合いはスターダム名物になっている。今回の5★STAR GP開幕戦でも、ひめかと林下は何度となく正面衝突して観客を沸かせた。ひめかの腕には朱里とのタイトルマッチ、小橋興行で得た自信も乗っていた。コーナーの林下にラリアットを打ち込み、やはり最後はランニングパワーボム。真骨頂とも言える勝ちっぷりだった。

林下とのラリアット合戦

「自分としては詩美とのタックル合戦、ラリアット合戦は凄く楽しくて。それはお客さんも思ってるはず。詩美との試合では、そこで誰よりも迫力を出してやろうっていう気持ちがありますね。詩美もそれは思ってるんじゃないかな」

父の死…悲しみを乗り越えて

 7月11日、ひめかは父親を亡くしている。悲しみの中、北海道ツアーを欠場したことを批判する、もはやファンとも呼べない人間からの声もあったという。そうしたことを乗り越えてのリーグ戦でもあった。

「今年はここまで、自分自身を見つめ直す機会がたくさんありましたね。今はもうクヨクヨしてられないです。父だって喜ばないだろうし、家族も心配してしまうので。優勝に向けて突き進むだけですね」

現在リーグ戦は2勝1敗。

 林下戦の勝利だけで満足はしていない。勝利を重ね、その先に見ているのはリーグ最終戦、同じDDMのタッグパートナー・舞華との対戦だ。この試合が決勝進出をかけたものになる可能性も十分にある。それまでの闘いで、今年のひめかは一味違うことがどんどん証明されていくだろう。本格的な“覚醒”は、むしろこれからだ。

文=橋本宗洋

photograph by Norihiro Hashimoto