現地時間8月7日、全英女子オープンゴルフ最終日。渋野日向子は18番でパーパットを沈め、9アンダーの3位タイで大会を終えた。

 首位との差は、優勝まであと一歩に迫る1打差。試合直後のインタビューでは「すごく悔しい」と涙を流したものの、「本当に最近の自分のゴルフの内容だったりを考えると、よく頑張ったなと言いたい」と笑顔に切り替わった。

 渋野は5月上旬から前週までの日米8試合で予選落ち6回、中でも2週間前のエビアン選手権は出場131人のうち126位で、表情も沈みがちだった。そうした悪い流れがつづく中で迎えた全英女子で優勝争いに加われたことは、本人にとっても自信を与えたのだろう。

 今大会をWOWOWの中継レポーターとして現地で取材した、元世界アマチュアランキング1位)の片平光紀は「あの状態から、よく立て直した」と感心する。

首位ブハイとの差を詰めるもあと1打及ばず ©︎Shizuka Minami

「恐れず振ることを意識しよう」

「エビアン選手権で予選落ちした翌日、『スイングを気にしすぎて(クラブを)振れてないから、恐れず振ることを意識しよう』と、田谷(美香子)マネージャーと話し合いをしたようです」(片平)

 その日から“振る”ことを意識した練習を始めた渋野は、次週に行われたスコットランド女子オープンで復調の兆しを見せる。

「結果は予選落ちでしたが、2日目の残り3ホールはショットもパットもすごく良かったです。アグレッシブにプレーしてて、自信が戻ってきたのかなと」(片平)

 全英女子オープンの初日、渋野は2週連続でジェニファー・カプチョ(米国)と同組となったが、前週はカプチョより下回っていたドライバーの飛距離が、今大会では上回ることが何度かあった。片平は「ドライバーの芯にボールが当たるようになったんじゃないか」と推測する。

©︎Shizuka Minami

 ドライバーに加えてショットやパットも冴え渡り、初日を終え6アンダー、2位に1打差の単独首位発進となった。

 ここ最近の不調を踏まえて「自分が自分じゃないみたい」と自身の結果に驚いていたが、今回の舞台となったミュアフィールド・リンクスは勢いだけで攻略できるほど甘くない。片平が説明する。

「ミュアフィールド・リンクスは、男子のメジャー大会が何度も開催される名門リンクスコース。特に後半が難しく、13番は追い風なのに、14番は向かい風に変わります。しかも、ティーショットの落下地点あたりにポットバンカーが点在し、強烈な海風が吹く。13番ではいかに風を計算するか、14番は風に耐えられるか、が攻略の焦点となります。もちろん他のホールも難しく、最後の最後まですごく神経を使うコースです」

 そんな難しい13番は4日間全てパーで乗り切り、14番では3日目にバーディーを奪った。同日でバーディーを奪ったのは渋野の他にたった1人だけ。

「これまでの積み重ねでしょうね。渋野選手の3日目のゴルフは、(4月の)ロッテ選手権最終日で優勝争いしたゴルフを彷彿させました。番手が3つ変わるほどの強風が吹いてる中、ショットの縦距離が一日中しっかりとあってた感じ。今会前、渋野選手が『風とお友だちになりたい』と言ってましたが、まさに風に負けないプレーをしていたと思います。スイングやパットの際に風で身体がぐらつかないのは、19年の秋から取り組んでいるトレーニングの成果もあると思います」(片平)

 考えすぎずにプレーできたことで、試合中に表情には自然と笑みが溢れるようになっていた。

©︎Shizuka Minami

渋野の優勝に“バンザイ”したブハイ

 渋野が一躍、“時の人”となったのは3年前の同大会だ。観客の声援に応えてブンブン手を振り、カメラ目線でお菓子を食べ、終始楽しそうにプレーする姿が話題を集めた。そんな3年前の自分を、2022年の渋野は「子供だったな。まだいろんなことが分かってなかった」と振り返るが、天真爛漫なその笑顔に世界中のゴルフファンが魅了されたのも事実である。

渋野の優勝を祝うブハイ(2019年全英女子オープン)©︎Getty Images

 今大会を制したアシュリー・ブハイ(南アフリカ)は、そんな渋野の全英女子制覇を一番間近で目撃している。最終18番で渋野がウイニングパットを決めると、なぜか一緒にバンザイ……目の前で優勝をさらわれたにもかかわらずである。ブハイは懐かしそうに3年前の記憶を振り返る。

「試合後に他人から指摘されるまで(バンザイしたことに)気づかなかったんですよ。やっぱり自分が優勝できないならプロゴルファーとして、他の選手の活躍を喜ぶのがマナーだと思います。

 彼女の優勝は、自分が20歳の頃を思い出しましたね。なにも恐れることなく、イケイケに攻め続ける姿勢。私もすごく良いゴルフをしていたんですが、決まって欲しいパットがことごとく入らず、15番ぐらいで“今日は自分の日じゃないなー”と。あの優勝の瞬間を見ることができて光栄でしたよ」

 そんな2人は不思議な縁で結ばれているのだろうか。今大会で、ブハイと渋野は再び“最終日最終組”を共にすることになる。

 単独首位で最終日を迎えたブハイを、2位タイの渋野が5打差で追う展開。最終日15番でブハイがトリプルボギーを叩き、17番で渋野がバーディーを決めたことで一時はその差が1打差までに縮まるも、最後はブハイが逃げ切り、チョン・インジ(韓国)のプレーオフを制した。

全英女子オープンを制したアシュリー・ブハイ。ツアー初優勝がメジャー制覇という点も渋野と通ずる ©︎Shizuka Minami

ブハイの勝利を見届けた渋野

 プレーオフは4ホールで決着したため、試合が終了したのは現地時間21時すぎ。渋野はホールアウトしてから1時間以上経過してもゴルフ場に残り、ブハイのツアー初優勝をしっかり見届けた。

「試合中もブハイ選手と渋野選手は、お互いの良いプレーに『ナイス!』と声を掛け合っていました。しっかり相手を応援してるんですよ。渋野選手はグリーン上でもリアクションしていましたね(笑)」(片平)

 結果こそ変わったものの、互いにリスペクトを送る姿勢は3年前と変わっていなかった。

会場に残ってブハイの勝利を見届けた渋野 ©︎Shizuka Minami

 これで今季のメジャー大会は終了。だが、ツアーは11月まで続く。片平は最後に今後の期待を語った。

「渋野選手は3年前に全英女子オープンを勝ったことで、ガラッと人生が変わりました。メディア、ファンの注目度が上がり、スポンサーが増え、自分自身にも過度の期待やプレッシャーかけてしまったこともあったでしょう。いろんなことを乗り越えて、再び全英女子オープンでトップ5に入ったことは、すごく自信になったんじゃないでしょうか。今後が楽しみです」

文=南しずか

photograph by Shizuka Minami