甲子園球場では夏の高校野球がたけなわだが、プロ野球のペナントレースは100試合を超えて、ヤクルト・村上宗隆選手の「三冠王獲得」が、ジワジワと現実味を帯びてきた。

 8月17日現在、打率.320(3位)、42本塁打(ダントツ1位)、打点は104打点(やはりダントツ1位)に達し、「厘差」の攻防を繰り広げる「打率」以外は、大きな故障さえしなければ、まず安泰。

 あとは、横浜DeNA・佐野恵太、中日・大島洋平を抑えて、首位打者を獲得すれば……。プロ5年目、史上最年少の「三冠王」が誕生する。

5年前、7球団が清宮を1位指名した

 今季は、同期の清宮幸太郎選手(日本ハム)も、新庄剛志監督に辛抱強く起用されて、ここまで96試合で13本塁打をマーク。ようやく、素質の片鱗を見せ始めている。

 2017年のプロ野球ドラフト会議。

 その早稲田実業高・清宮幸太郎内野手を7球団がこぞって1位指名。抽選の結果、日本ハムが交渉権を獲得。

 清宮を逸したヤクルト、巨人、楽天の3球団が、「繰り上げ1位」で九州学院高・村上宗隆捕手を指名し、ヤクルトが抽選で「村上宗隆」を引き当てた。

 プロ入団後は、逆に村上が年々水を空ける活躍。今月2日にはプロ野球史上初の5打席連続ホームランまで達成し、今や球界を代表するスラッガーとして君臨する。

プロ野球スカウトの証言「今だから言うわけじゃないけど…」

 高校生スラッガーの両横綱が相並び立った「2017ドラフト」。

 当時の様子をスカウトの方たちに訊いてみると、各球団の思惑や、現場のスカウトたちの思いは、微妙に錯綜していたようだ。ここからは今夏、各球団のスカウトの方々に聞いた証言である。

「あの年は、私たちスカウトが清宮を熱心に推したというよりは、会社(球団)のほうが熱心だった。かなり上のほうから圧がかかっていたっていうか……やっぱり、人気が欲しかったんだろうね。早実、甲子園のスター、お父さんもスポーツマンで有名人。彼自身のキャラもね……太陽って言ったらおおげさだけど、いろんな意味でキラキラした存在だった」

「球界全体っていうか、ドラフトの雰囲気において、清宮幸太郎っていう存在が支配的でした。今年は、清宮でいくしかしょうがないだろ……みたいなムードがあったのは確かですね。マスコミが作ったのか、清宮君自身の活躍がそうさせたのかはわかりませんけどね」

 そんな「回顧」が、複数のスカウトから聞かれた。今だから言うわけじゃないけど……と前置きをして、こんな話をしてくれたスカウトもいた。

「バッター出身のスカウトの間では、かかと体重の清宮のスイングスタイルをちょっと心配もしていたんです」

 投球に対して踏み込んでいく時、若干、つま先体重ぐらいで踏み込んでいかないと、プロの150キロ前後が当たり前の速球にはインパクト負けするし、外のスライダー系を捉えるのにバットが届かない。

「ホームランの数はすごかったけど(高校通算111本)、打球方向がライトに偏っていることに疑問を持っていたスカウトは、何人もいました。かかと体重だから、体がめくれるのが早くなって、内側にたぐり込むような打ち方になる。高校1年の春からレギュラーなら、真ん中から内寄りのおいしいボールだけ引っ張っても……パワーあるからね、あれぐらいの数にはなるでしょっていうことですよ」

「九州担当のスカウトは“絶対、村上”でした」

 ではどうして、7球団という過半数の球団が「1位清宮」でいったのか?

「そりゃあ簡単ですよ、清宮を外しても、村上と安田(尚憲・内野手・履正社高)がいたからですよ。ドラフト直前、清宮には5球団から6球団はいく……と読んでいた。指名が少なくても、5分の1。外れる可能性のほうがずっと高い。私たちの心境としても、外れたら村上や安田にいけるっていうことで、妙な余裕があったぐらいだったから。球団とケンカしてまで、村上や安田にいかなくても、静観してれば、清宮は外れる……待ってればいい」

 そして、清宮を外したロッテ、阪神、ソフトバンクは「履正社高・安田尚憲」に、ヤクルト、巨人、楽天は「九州学院高・村上宗隆」にそれぞれ舵をきり、1位清宮から安田、村上以外に繰り上げ1位を求めた球団はなかった。

「何かに、村上は甲子園で活躍してなかったから清宮より評価が低かったみたいなことが書いてあったけど、1位クラスの選手にそれはあり得ない。予選でも、部長クラスに何度も見せてるし、スカウト間の評価は、清宮以上で固まってました」

 村上宗隆上位説をもっとはっきりと言いきった球団もあった。

「九州担当のスカウトが、終始徹底して“絶対、村上”でした。清宮の2倍練習して、ケガもしない、へこたれることもない……心身の強さが違う、あんなに練習できる高校生はいないって、すごい勢いでした」

 ならば、どうして「清宮」だったのか?

「うーん。やっぱり、あの年は、清宮でしょうがない……みたいな、雰囲気がありましたね。野球界全体にとってのアイドル的存在っていうんですかねぇ」

 と、語り口にもなかなかエッジが立たない。

「村上や安田は、左中間方向にも放物線で飛距離を出していた。そこが、清宮との違い。あとはポジションの融通性」

写真は2016年撮影。九州学院時代の村上宗隆(高2) ©BUNGEISHUNJU

「キャッチャーとしても高い評価をした球団があった」

 村上宗隆については、守備面でも、プロ側が再評価した時期があったという。

「1年でファーストで甲子園に出てきて、体つき見たら、やっぱりファーストだけかなぁ……と思ったら、そのあとキャッチャーやったでしょう。それが、さまになってるんですよ。今考えると、去年の松川(虎生、市立和歌山高→ロッテ)みたいにドッシリとして、キャッチングもスローイングも、立派に“キャッチャー”なんですよ」

 この分なら、サードだって大丈夫だろう、ということになった。

「どこかに、捕手としても高い評価をした球団があったっていう記事が出てましたけど、あの当時、村上自身は捕手を続ける気はないってことは、広く伝わってましたから」

2016年、九州学院時代の村上宗隆(高2) ©BUNGEISHUNJU

 そういえば、当時の村上捕手を私が取材した時に、見事なディフェンスぶりをこちらが一生懸命誉めているのに、

「スライダーとかフォークのショートバウンド、怖いっす。当たると痛いじゃないですか……プロでキャッチャーですか? いやいや、絶対、ムリっす」

 ユニフォームの中に鎧(よろい)でもまとっているような屈強そうな体で、そんなかわいげのあることを話していた。

塩見、高橋礼、周東、平良…2017年ドラフトの“その後”

「結局、あの年は、どうしても左ピッチャーが欲しかったオリックスと西武が田嶋(大樹・JR東日本)、横浜DeNAが東(克樹・投手・立命館大)にいって、広島と中日が中村奨成(捕手・広陵高)。それ以外の7球団が清宮って、図式がすごくはっきりしていた。長いことスカウトやってると、何年がどんなドラフトだったか、いちいち覚えていられないけど、2017年だけは、すごくすっきりしたドラフトだった。清宮外したとこは、みんな、村上か安田だったしね」

 3球団が重複した「繰り上げ1位・村上宗隆」を獲得したヤクルトは、4位で塩見泰隆外野手(JX-ENEOS)を指名して、長打も打てる強力リードオフマンに育て、清宮を逸し、繰り上げ1位に挙げた安田尚憲、馬場皐輔投手(仙台大→阪神)まで外したソフトバンクは、2位でプロ2年目に12勝をあげた大型アンダーハンド・高橋礼投手(専修大)を指名した上に、育成ドラフトで尾形崇斗投手(学法石川高)、周東佑京内野手(東農大北海道オホーツク)、砂川リチャード内野手(沖縄尚学高)、大竹耕太郎投手(早稲田大)……なんと、4人の「一軍戦力」を獲得して、「1位」に恵まれなかったドラフトに「おつり」がくるほどの成果を挙げている。

 同様に、1位・田嶋大樹を外して獲得した、同じ左腕の斉藤大将(明治大)が伸び悩んだ西武だが、この年の4位が絶対的守護神に台頭した平良海馬投手(八重山商工高)だったし、5位與座海人投手(岐阜経済大)はアンダーハンドからのクセ球で、今季すでに9勝を挙げて首位争いの推進力になっている。

 ドラフトの人間ドラマは語り尽きない。

文=安倍昌彦

photograph by Sankei Shimbun