プロ野球の世界で実績を残し、全国各地の独立リーグで指導を続ける野球人も多い。阪急ブレーブスで活躍し、オリックス時代には若き日のイチローや田口壮をコーチとして見た弓岡敬二郎氏(64歳/愛媛マンダリンパイレーツ監督)に当時と今を聞いた。(全2回の2回目/#1も読む)

 弓岡はオリックスに入団した若き日の田口とイチロー(※入団当時の表記は「鈴木一朗」)について、このように振り返る。

©Koji Asakura

「田口はショートで入ってきて、守備範囲は日本一と言っていいほど広かったけど、スローイングが悪くてね。2年目から外野に転向したんです。

 イチローは1年目、2年目とファームで首位打者です。でも一軍と二軍を行ったり来たりしている。調子が良くて昇格したらボール球に手を出して“もう1回二軍行ってこい”というのが2回ぐらいあって。イチローはコーチに向かって“なんで僕が落ちるんですか、もっと悪い人いるじゃないですか”って言いました。気の強い奴おるなあと思って、それで彼に注目するようになった。

 イチローが入った2年目のオフに、ハワイでウィンターリーグがありました。僕は1か月くらい行きましたが、イチローが打ちまくって、それを聞きつけて翌年から監督に就任される仰木彬さんが視察に来られたんですが、イチローはハワイでは有名になって、現地テレビのコマーシャルにも出ていましたね」

イチローのすごかった「練習量」と「聞く耳」

 イチローは何がすごかったと思うか? という問いに弓岡は即座に答えた。

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「練習量ですね。当時、寮に居ましたが、ナイターが終わって夜中1時か2時ころまでカーン、カーンと打っている選手がいるんですよ。“ファームでも熱心な選手がおるなあ”と思ってひょっと見たらイチローやった。これではファームの選手と差がつくばっかりやなあと思いました。オフでも腹筋のトレーニングなら3000回くらいやりますからね、あいつは努力の人間なんですよ」

 同時にイチローはアドバイスを聞く耳も持っていた。

「2年目の秋、宮古島のキャンプで、イチローに足を椅子の上に置かせて筋肉や関節をチェックしたことがありました。触ってみると、ものすごく硬かった。硬い=強いではあるんですが“柔らかくせんと、怪我するぞ、柔軟体操、ストレッチをしっかりせなあかんぞ”とアドバイスしました。そこからあいつは自分で勉強して、鳥取のワールドウィングジムにも通って股関節を柔らかくしました。そして最後には普通の人では考えられないくらい柔らかい身体になった。

 あいつは指導者がアドバイスをすれば、それを上回る努力をするんですね。打撃でも河村健一郎さんや新井宏昌さんが指導しましたが、イチローはそれを上回る努力をしたんだと思いますよ。

 プロに入って成功するかしないかは、人が見ていないところで、どれだけ努力をするかで決まるんですね」

©Hideki Sugiyama

再び愛媛で指導……一貫して大事にしていることとは

 1991年に引退してから、弓岡敬二郎は一軍、二軍コーチ、フロント、二軍監督など様々な役職を務めた。阪急、オリックスでのキャリアは30年以上に及んだ。

 その後、四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツの監督に就任。1年目の前期は最下位、後期2位だったが、2年目の2015年後期にリーグ優勝すると、シーズン総合優勝。翌2016年は前後期優勝、そして2015年は、ルートインBCリーグの優勝チームとのグランドチャンピオンシップでも勝利して「独立リーグ日本一」に輝いた。

 愛媛は総合優勝も、日本一も球団史上初めてであり、その後も記録していない。

 弓岡は2016年オフに育成統括コーチとしてオリックスに復帰するが、愛媛マンダリンパイレーツは弓岡の背番号「77」を永久欠番にして、その業績をたたえた。

 そして2022年、弓岡は再び愛媛に帰ってきた。

©Kou Hiroo

「(独立リーグの選手は)やらされている感じやね。練習はここまで、言うたらそれだけしかしない。実はそれから後の時間の方が長い、そこで何をするかが大事なのに。

 メジャーリーガーの全体練習は少ないと言っても、そこから自分でやりますからね。練習では緩い球ばかり打っているけど、裏では160km/hのマシンを打っていると言いますからね。

 でも、うちにもNPBに行けそうな素質を持った選手は2〜3人はいるんですよ。スカウトからも声がかかっているし、調査書(NPB球団からドラフトの前に独立球団に送付される「身上調査書」)ももらうとは思うんですが、そこからが難しいんですね。独立リーグで一段抜けたレベルになったとしても、そこにもたくさんいい選手がいる。そこで抜けないと、ドラフトにはかからない」

自分で進化できないと、ドラフトにかからない

 弓岡が考える「抜けるための要素」とは何か?

「今の独立リーグには足の速い選手も、150km/h投げられる選手も普通にいます。そんな中で、上に行こうと思ったら、人に言われるのではなく、自分で練習をしなければ。それができる、自分で進化できる選手でないと、ドラフトにかからない。かかっても上には行けない。今季の愛媛は戦力的にはやや厳しいんですが、良い素材を持つ選手は何人かいる。僕としては、NPBの舞台に送り出してやりたいとは思っています」

©Kou Hiroo

イチローの努力を真横で見続けたコーチのまなざし

 筆者は2014年にも弓岡に話を聞いている。

 愛媛の監督になったばかりの弓岡は、NPBとの環境のギャップや選手の意識の違いに、ショックを受けていたような印象だった。イチローをはじめとする超一流の選手を見てきた指導者にとって、独立リーグの現実は厳しいものだと映ったのだろう。NPBから来た指導者の多くは同じような反応をする。

 しかし、弓岡はそこからが違った。愛媛は四国アイランドリーグplusでも強豪とは言えなかったが、わずか1年でチームをまとめ上げ、優勝へと導いたのだ。

 64歳、柔和な表情ながら、選手を見るまなざしは厳しい。愛媛の選手たちには、そのまなざしが「イチローの努力を真横で見続けたコーチのまなざしだ」ということに気が付いてほしい。

 名伯楽は四国の地で、どんな選手を育てるだろうか? <#1からつづく>

文=広尾晃

photograph by Kou Hiroo/Koji Asakura