学校部活動での体罰やパワハラが問題になる一方で、新たな指導の取り組み方で強さを手に入れているチームがある。全国高校サッカー選手権に出場するまで成長した高校を追った『「毎日の部活が高校生活一番の宝物」堀越高校サッカー部のボトムアップ物語』(竹書房)の一部を転載する(全3回の2回目/#1,#3も) 『「毎日の部活が高校生活一番の宝物」 堀越高校サッカー部のボトムアップ物語』(竹書房)(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

人として素晴らしい選手が試合に出られる

 畑は2011年に安芸南高校へ異動すると、デジャヴのように広島観音高校時代をなぞった。

「安芸南でも、最初はサッカー部がお荷物扱いされていました。体育祭の要綱を見ると、サッカー部員だけは誰も役職がついていない。先生方は『彼らには何も任せられないよ』と言っていました。部室を見ても、まるでごみ箱のように汚れていましたね」

 再び畑は自身が率先して掃除をしたり、整理整頓が行き届いた学校との交流を図ったりしながら「ウチも何かやってみようや」と投げかけ続けた。

「サッカーをするにも、まずは人間力という土台が要る。ケーキならスポンジの部分ですよね。そこがしっかりすると、トレーニングもゲームもしっかりしてくる。当たり前のことだけど、ボールを奪われたら追いかける。みんなで協力する。相手をリスペクトする……。技術や戦術は、その上に乗せるデコレーション (イチゴ)になります」

 メンバー選考まで全てを選手に任せてしまうと往々にして選手同士での苛めや諍いが起こりがちだが、防止策も整っている。

「まず僕が選手たちと話し合って、メンバー選考の優先順位を決めたんです」

(1)社会性(2)賢さ(3)上手さ(4)強さ(5)速さ

 要するに、どんなに上手い選手でも学校で問題を起こせば出番がない。

「強豪校では、あり得ないルールかもしれませんね。でも結局学校生活や練習でキチンとやっていない選手が試合に出ると、不満が出てくるものです。人として素晴らしい選手が試合に出る。裏返せば試合に出るためには、規律を守り勉強も頑張らなければならない。それが明確になると結果も出始めました」

全部員と交流を持つための「2冊のノート」

 自主性は重んじても、完全に放任してしまうわけではない。常に2冊のノートを通じて、全部員と交流を続けた。

 1冊は「サッカーノート」で、試合や練習メニューなどを書き込む。もう1冊は「トレーニングノート」だが、別名「コミュニケーションノート」とも呼ばれ、選手たちがオフの日の予定や何をしたのかを記していく。

 広島観音高校時代の畑は、月、水、金曜日の朝8時に120冊のノートを受け取ると、全て返答を記して午後4時には戻した。 遠征に出た時でも、深夜の1〜2時までに書いて、翌朝には選手たちに手渡していた。

「選手たちは自分たちで考えて時間をコーディネートしていく。週に2度の全体練習なら、試合日を除いても自由に考えて過ごす4日間がある。オフの日に自主トレが必要だと思えば、メニューを考えて取り組む。フィジカルを強化したい選手はウエイトトレーニングをするし、走れないと感じているなら走力を鍛えても良い。

 あるいは故障をしていれば休むし、リラックスするためにデートをするのも良い。僕が『やれ!』と言うより、自分でやるべきことを見つけて取り組む方が2〜3倍は速く身につく。またノートにメニュー等も書き込むから『ここは少しこうした方が……』などとアドバイスも出来る。分け隔てなく隠しごともしないでみんなとの距離を縮めているから、いざという時に選手たちの心にスッと入っていけるんです」

※写真はイメージです ©Sports Graphic Number

指導者はファシリテイターであるべき

 安芸南に赴任してからは全員リーダー制を導入した。チーム全員が、必ず何らかのリーダーになる。1年生のビブスリーダーが「みんなここに置いてください」と指示すれば、3年生も黙って従う。場面ごとにリーダーが変わり一人一人が「チームに必要なんだ」という意識を持つから、陰湿な縦関係も薄れ体罰や苛めの入り込む余地がなくなった。

 全体練習は週に2度だけなので、徹底して質にはこだわる。人、ボール、ゴール、スペースがあるというサッカーの基本を踏まえ、技術、戦術を織り込み、広島観音高校時代は脈拍を180〜200まで上げるメニューを20分×6本実践して来た。

 それでも旧来の量に頼るトレーニングに慣れてきた選手たちは、当初半信半疑だった。そこで畑は当時最も長い時間走り込んでいた強豪校に練習試合を申し込む。結果は走り勝って快勝。敗れた強豪校は、その後数週間続けて再戦を申し込んできたが、ことごとく跳ね返してしまった。また柏木陽介、槙野智章、森脇良太ら、後のJリーガー10人を擁したエリート集団のサンフレッチェ広島ユースにも2-1で勝利している。

勝利至上ではない“魅力的なチーム作り”

 勝利至上ではなく、魅力的なチーム作りを最優先しながら、しっかりと結果も残して来た。

「何より練習が週に2回なので、故障者も出ないんですよ」と笑う。

 畑は、家の建築ではなく石の彫刻を創るように、育成指導をしていきたいと考えた。

「家の建築は、土台から始めて少しずつ上へと進む。一方彫刻は、全体を削りながら完成に近づけていくんです。例えばインサイドキックやトラップが出来ないと次に進めないのが家の建築方法。逆に多面的に進めていくのが彫刻です。守備が良くないからと、守備だけのトレーニングをするのではなく、守備が改善されるように戦術も組織作りも同時進行で全体像を追いかけていく」

部員に「今やろうと思ったのに…」と思わせてはいけない

 練習中にも試合中にも自主的にミーティングが入り、ピッチ上でも活発に声をかけ合う。畑は、いつ、いかに質の高いヒントを、そこに投げ込むかを絶えず思考してきた。

「一番気をつけたのは、選手たちが動き出す瞬間を待つことです。彼らに『今やろうと思ったのに…』と思わせてはいけない。彼らが自分で気づいてやり出すのを待てるかどうか。それは指導者の重要な資質になります。サッカーは閃きが凄く大切なスポーツです。だから彼らの発想に制限をかけてはいけない」

 指導者が「お〜い、逆サイド」と叫べば、ボールを持つ選手の選択肢を奪ってしまう。逆サイドが見えていないと思ったら、あとから「今、どうしたら良かったのかな? 逆サイドはどうだったかね」と少しずつヒントを与えながら可能性を広げてあげるのが肝要だ。

「花の栽培と一緒。水をあげ過ぎても、あげなくても枯れてしまう。言わずに我慢する時と、アドバイスを送る時を見極めるのが僕らの仕事です」

 指導者はファシリテイターであるべきだと主張する。

「世話人、まとめ役」と訳され、自ら上に立って牽引するのではなく、偏ることなく全員の意見を引き出し、合理的に相互理解を促し物事を円滑に進めていく。

「自分と違う意見が出ても、まずは認める。その中から善後策を探っていく。こうして進めて行けば、ミーティングは多ければ多いほど組織力が上がっていきます」

公の場で言い合う分、見えない所での体罰や暴力が消える

 広島観音高校時代から、ピッチ上では腹蔵なく自由に言い合う習慣づけをして来た。その分、練習中に取っ組み合いにまで発展してしまうこともあった。

 ちょうどテレビクルーの撮影中に勃発し「畑先生、この場面、流さないほうがいいですか?」と忖度して来たが、畑は仲裁に入ることもなく「どうぞ、どうぞ。すべて流してください」と答えた。ようやく両者が落ち着くと握手をさせて「今のはどうだった?話し合ってみようか」と促すのだった。

「最初は何か言われる側が嫌そうな顔をしていましたが、だんだん指摘し合うのが普通になっていく。ボクシングをリングの上では殴り合うけれど、降りたらもう許されない。そのけじめを理解させる必要がある。全員が平等なピッチ上では、どんどん言い合う。でも寮で『おまえら、1年生集まれ!』と呼び出して説教をするのは許されません。逆に公の場で言い合うから、見えない所での体罰や暴力が消えていくんです」

練習試合の対戦相手と一緒にミーティングをすることも

 時には練習試合をした対戦相手と一緒にミーティングをすることもある。

「ハーフタイムに、まず自分たちでミーティング、次は互いに相手のチームがどう見えていたかを指摘しあう。そして再び自分のチームでミーティング。話し合ったことを意識して後半戦に臨みます」

第88回高校サッカー選手権時の広島観音 ©Kenzaburo Matsuoka/AFLO

 合同ミーティングでは、敢えて相手への批判も含めて忌憚のない意見を交わし合う。

「こちらはハイプレスをかけて前から奪いに行きました」

「いいえ、全然圧力を感じませんでした」

「右サイドバックの戻りが遅いので、そこを突くようにしました」

 相手の見解を踏まえ、再度チームに戻り反省する。

「まだまだプレスが足りていないぞ!」

「右サイド、どう改善しようか」

 ある強豪校との試合では、終了後に「どうやって勝ったの?」と聞かれ、広島観音高校の選手がパワーポイントを駆使して解説したこともあった。<#3につづく>

文=加部究

photograph by Sports Graphic Number