今季のセ・リーグは、7月9日から違うフェイズに入った。

 それまではヤクルトの独走。7月2日にはマジック53が点灯したが、これは「点灯最速記録」だった。従来の記録は1965年の南海が持っていた7月6日だったが、これを塗り替えた。

 しかし7月9日に衝撃が走る。

 高津臣吾監督をはじめとして山田哲人、長岡秀樹、投手陣では清水昇、田口麗斗など合計14人の感染が分かり、阪神戦は中止に。その後も塩見泰隆らが離脱するなど、一気に戦力がダウンした。

 いわゆるコロナ禍の「第7波」。被害はヤクルトだけではなく、各球団へと広がっていった。つまり、7月9日からペナントレースはいつ主力選手が離脱するか分からないという不安のなかで進むこととなり、それは2カ月の間続き、今も不安が完全に払拭されてはいない。

 本稿では、7月9日から9月8日にいたるまでの2カ月をコロナによる特別期間と考え、各球団への影響を考察してみた(※本文中の成績は9月8日終了時点)。

 コロナ禍における2カ月間の勝敗と得失点差を並べてみたが、勝ち越しているのはDeNAと阪神で、現在首位のヤクルトも苦戦したことが分かる。

【1位】ヤクルト、得失点差マイナス30も…「苦しい2カ月間」

 5月から7月にかけ、ヤクルトは充実していた。同一カードの勝ち越し14を記録するなど、昨季の日本一球団は「盤石度」を増している印象だった。ところが――。

 7月9日に高津監督をはじめ主力選手が離脱すると、13日の中日戦から松本ユウイチ一軍作戦コーチが指揮を執る形で戦いを再開したが、オールスターを挟み、コロナ禍以降の7月の成績は4勝9敗、しかも得失点差がマイナス30。投手陣が打ち込まれ、大敗を喫するケースが目立ち始めた。

 振り返ってみると、ヤクルトにとってコロナ禍の影響は想像以上に甚大だった。ヤクルトの場合、主力選手が一気に離脱したため、それまでの勢いが止まり、選手たちが徐々に復帰した後も本調子に戻るまでかなりの時間を要した。

 選手は徐々に復帰してきたが、8月に入ってからも苦しい戦いは続き、8月5日の巨人戦から12日のDeNA戦まで7連敗となり、ひと月で別のチームになってしまった思いがした。

「村神様」の目玉が飛び出る数字

 それでも8月のヤクルトの成績は12勝11敗1分。7連敗があってもよくぞ勝ち越せたと思うが、これもひとえに「村神様」の存在があったからだ。

 8月の村上の打撃は、日本のプロ野球史に残る。

 7月から8月にかけての5打席連続本塁打はいまだに記憶に新しいが、8月の月間打撃成績がとんでもないことになっていた。

 打率   .440
 本塁打 12本
 打点  25
 出塁率 .588
 長打率 .987
 OPS 1.575

 目玉が飛び出る数字ばかりだ。

 打率.440もすごいが、出塁率と長打率がべらぼうにすごい。打席に立てば半分以上は出塁するわけだし、8月の33安打のうち16本は長打だ。.OPSが1.500を超える成績を目にしたことは、あまり記憶にない。

 この村上の成績はなにを意味するだろうか。

 山田(8月月間打率.205)、塩見(8月月間打率.183)らの主力が本調子ではない状況で、村上のバットでヤクルトはなんとか8月を勝ち越せたといえる。それだけ、村上はヤクルトを支えたのだ。もしも、村上の調子が悪かったら……。ペナントレースはより白熱していた可能性がある。

 現状、ヤクルトのリーグ優勝は動かないと見るが、コロナ禍によるダメージはくすぶっている気がする。山田は徐々に調子を取り戻しつつあるが、塩見のバットが湿ったままだ。

 ただし、8月26日からのDeNAとの3連戦では、久しぶりにスイッチの入ったヤクルトを見た。3連敗すればゲーム差1にまで追い上げられる状況のなか、相手を圧倒した。なにか選手たちが、久しぶりの「しびれる戦い」に飢えていたような印象を受けた。

 この連戦での集中力を再現できれば、クライマックスシリーズでも優位なことは間違いないだろう(昨季の奥川恭伸、高橋奎二のような絶対的な先発がいない不安はあるにせよ)。

 10月のクライマックスシリーズに向け、9月は高津監督の先発の整備、ブルペンの方程式の確立などなど、チームの「チューニング技術」に注目していきたい。

【2位】DeNA「唯一の誤算は…」

 コロナ禍でもっとも勝率が高かったのはDeNAだった。

 28勝16敗、得点156に対し、失点は148。12の貯金を作っているわりに得失点差が少ないのは大敗を喫した試合が2試合あるからだが、投打ともにバランスのいい戦いを見せている。

 実は、DeNAは4月に濵口遥大、山崎康晃、牧秀悟らが感染し、4月8日から10日にかけての中日戦が中止になっている。4月は台所事情が苦しく、7勝12敗と負けが込んでしまった。それに比べ、夏のコロナ禍の期間中は、他球団よりは被害が少なかったといえる。

 他球団が苦しむなか、8月の戦いは見事だった。特に16日からの巨人、広島、そして阪神を相手にしての8連勝は投打のバランスが噛み合った素晴らしい戦いぶりだった。投手では今永昇太、大貫晋一がローテーションの柱となり、ブルペンもエスコバー、伊勢大夢、山崎康晃の3人が締めくくる「方程式」も完成した。

 唯一、誤算だったのは8月26日からのヤクルト戦だっただろう。このカードに入るまで8勝2敗と好調を維持し、首位ヤクルトとのゲーム差は4。3連勝すればゲーム差は1に縮まる――という期待を集める状況で、3連敗を喫してしまった。得失点でも11―27、村上には11打数9安打、4本塁打、9打点を献上し、お手上げの状態だった。

 DeNAにとって厳しい現実を突きつけられたといえるが、9月に入ってからも失速気味なのが気になる。2勝5敗、9月2日からの広島戦では3連続完封負け。7日の巨人戦では3対18と大敗を喫している。

 16日からは10連戦が待ち構えるが、8月の勢いを取り戻せるかどうか、チームの真価が問われる。

【3位】阪神「痛かった近本&大山の離脱」

 阪神はコロナ禍の2カ月間で貯金3を作っている。8月9日から17日まで8連敗を喫しているにもかかわらず、貯金を作っているのは立派だ。しかし、より勝ち星を重ねることが出来たのではないか、と思わざるを得ない。

 痛かったのは近本光司、大山悠輔と中軸を打っていた打者がそろって離脱したことだった。

 大山が8月5日に登録抹消されると、近本は10日に抹消。ふたりが揃わなかったこの時期、阪神は9日からのDeNA戦、続く中日戦、ヤクルト戦で8連敗を喫してしまう。8連敗中の得点はわずか12で、完封負けが3度もあった。

 主軸打者が欠けたことによって打線のバランスが崩れ、得点生産力が落ちてしまったのである。たとえば8月12日に完封負けを喫した中日戦では3番ロドリゲス、4番佐藤輝明、5番が陽川尚将の3人。矢野燿大監督も苦心の打線を組んでいたが、近本の.400前後の出塁率と、大山の長打率を欠いた打線は持ちこたえられなかった。

 さて、9月に入って3位争いが激しくなっているが、阪神にとってのプラス材料は得失点のバランスが常にいいこと。それを支えているのは投手陣なのだが、9月のラストストレッチに得点の生産能力をいかにして上げていくかが勝負となる。

【4位】広島「阪神と4試合残している」

 広島もしぶとく3位をうかがっているが、7月から8月にコロナ禍の影響を長く受けた球団といえる。

 ベストメンバーが組めない状態が続いたが、コロナ禍の2カ月間を23勝25敗でしのいだ。

 振り返ってみると、夏休みの訪れが広島にとっては鬼門だった。7月下旬にマクブルーム、堂林翔太らがコロナで離脱。最大級の衝撃は、8月16日に佐々岡真司監督をはじめ、二遊間を守る菊池涼介、小園海斗、野間峻祥、ブルペンで活躍していた矢崎拓也らが離脱したことで、18日から6連敗を喫してしまう。

 23日には、シーズン途中から加入しチームを活性化させていた秋山翔吾も離脱。ようやく8月末になってメンバーが揃ってきたが、8月後半は5勝9敗の成績で、コロナ禍が大きく影響しているのが分かる。

 ただし、9月に入ってから状態は上向き。5勝2敗、得失点は20−13。得点生産力はお世辞にも上等とはいえないが、DeNAとの3連戦で3連続完封するなど、投手陣が上向き。阪神と4試合残しているのがCS進出に大きな意味を持ちそうだ。

【5位】巨人「試合中止がシーズンを救った?」

 7月下旬、巨人では合計で70人以上に及ぶ大規模なクラスターが発生した。

 この影響で7月22日からの中日戦、オールスター明けの29日からのDeNA戦の合計6試合が中止になった。

 7月、巨人の状態は最悪だった。7月9日以降、巨人は2勝9敗。7月13日、14日の阪神戦では0対13、0対3の完封負けが続き、15日からの広島戦でも3連敗。18日にはコロナ禍で連敗していたヤクルトにも敗れた。どん底の状態だったところで集団感染が起きたのである。

 しかし、6試合の中止によって、勝敗への影響は最小限に抑えられたと見る。もしも、中日とDeNAとの6試合が主力不在の中で開催されていたとしたら、巨人の劣勢は免れなかったはずだ。その意味で、この時期の試合中止は巨人のシーズンを救ったといえるのではないか。

 ただし、7月9日からの2カ月に及ぶコロナ期間中の巨人の勝率はセ・リーグ最下位。8月は得失点差マイナス2、月間借金は3つとなった。戦いぶりがどうもチグハグなのである。

 光明といえるのは、9月に入ってからチーム力が急に上向いていることだ。阪神戦、DeNA戦ともに勝ち越し。7日のDeNA戦で18対3と大勝したこともあるが、9月の得失点は36―13と投手陣の踏ん張りが目立つ。さらには4番に入った中田翔が7月以降は好調を維持しており、8日までの9月の月間打率は3割を超え、OPSは1.000を超えている。完全復活といっていいのではないか。これに岡本和真が調子を取り戻せば、巨人は危険な存在となる。

 ドーム球場を本拠地としていることで消化数が進んでいるのも好材料。14日から16日までは休みで、17日からの9連戦に向けて戦力も整えやすい。このところ、7回クロール、8回平内龍太、9回は大勢の方程式が完成しつつあり、勝負どころでの原辰徳監督の采配に注目したい。

【6位】中日「解消されない得点力不足」

 厳しい戦いが続く中日だが、大島洋平の離脱が痛かった。8月12日に感染が明らかになり登録抹消され、26日の阪神戦で復帰。この期間、中日は7勝5敗で切り抜けているが、この間に対戦した中で阪神、広島は主力選手が多く離脱していた時期だった。

 むしろ、数字を見て気になるのは、コロナ禍の8月そして9月の数字を見ていくと、得点が6球団の最下位であることだ。これは偶然ではない。常に指摘されていることだが、広いバンテリンドームを本拠地にしているとはいえ、慢性的な得点力不足は立浪和義監督になっても解消されていない。

 後半戦は、高卒2年目の高橋宏斗が素晴らしい投球を見せるなど好材料も多いが、チーム作りを見直さない限り、来季以降にも不安は残ってしまうだろう。

◆◆◆

 こうやってコロナ禍での戦いを振り返ってみると、感染症は誰の前でも平等だと思わざるを得ない。セ・リーグの6球団はそれぞれコロナ禍に苦しんだ。例外はない。

 この2カ月間で問われたのは、各球団の選手層であり、監督のマネージメント力である。

 コロナ禍の8月で台頭してきた選手もいる。9月、CS進出に向けての争いが激しくなるなか、忌々しいコロナ禍からポジティブな要素を見つけられた球団が生き残りそうな気がするのだ。

文=生島淳

photograph by Sankei Shimbun