2022年の上半期(対象:4月〜8月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。MLB部門の第4位は、こちら!(初公開日 2022年5月9日/肩書などはすべて当時)。

「ロウキ・ササキ」

 4月10日。20歳の佐々木朗希が完全試合を達成した衝撃は、瞬く間に全米に広がった。

 エンゼルスの大谷翔平も「(周囲の)みんなが知っていたりする。アメリカのニュースでも流れている。もっともっと頑張ってもらいたいし、自分も励みにしたい」とコメント。佐々木の偉業は、今や「メジャーの顔」になった男をも刺激した。

あるメジャー球団のGMは「現時点で世界のベスト5」

 日本にも自身のルーツを持ち、日本野球に精通しているロサンゼルス・タイムスのディラン・ヘルナンデス記者のもとには、すぐに大リーグの球団関係者やスカウトから連絡が入ったという。

「彼が完全試合をした後、大リーグのアジア担当のスカウト何人かと話をした。あの試合の直後、スカウトはビデオでチェックして、自分のチームに詳細なレポートを提出したみたい。みんな言っているのは、『投手としての能力は大谷より上』だと。どうやったら彼に近づけるか、聞いてくる代理人もいた。チームの幹部も知っているし、彼のマネジメント会社や周囲の環境など、調べ尽くしていると思う」

すでに「投手・大谷」よりも高い評価を与えている球団もあるという ©Nanae Suzuki

 さらにヘルナンデス記者は「名前は言えないけど……」と言って続けた。

「ある球団のGMは『今の時点で、世界のベスト5には入るんじゃないか』と言っていた。もちろん、真顔でね」

 2019年、ヘルナンデス記者は日本への出張中にプライベートで、高校時代の佐々木が投げた夏の地方大会に足を運んだという。その時のプレーは今でも鮮明に思い出せる。

ヘルナンデス記者が目にした高校3年時の佐々木朗希 ©Asami Enomoto

「バランスがすごかった。あれだけ足を上げるのに、投球フォームが毎回同じ。もう、才能だけでメジャーにいけるんじゃないかって。その時、そう思った」

 あれから3年近くが経った。今回、プロでパーフェクトを達成した佐々木の映像を見てどう感じたのか。

「持っているものだけなら、メッツのジェイコブ・デグロム(2018、19年のサイ・ヤング賞投手)みたいな感じ。大谷は少し制球がアバウトだけど、佐々木は制球力もすごい。日本のプロ野球の世界で、高校のドラフト候補の選手が、地元の県大会2、3回戦でやっているような雰囲気でプレーしている。体力的に日本の選手が誰もついていけていない。早くこっちでやってほしい」

「あれで20歳というのは、ちょっと考えられない」

 佐々木の名が米国に広まって、すぐにYouTubeやTwitterで動画をチェックしたというのは、MLB公式サイトのレット・ボリンジャー記者だ。

「今まで見たことのない、完成された投手だった。あれで20歳というのは、ちょっと考えられない。平均101マイルのストレート、90マイルを超えるスプリット。投球フォームも滑らか。かなり印象的だった」

 ボリンジャー記者は、エンゼルス担当として大谷の姿を日々追いかけている。2人が共に岩手県出身だという点にも着目していた。

「大谷と同じところの出身だと聞いた。ブルージェイズの(菊池)雄星もそうみたいだね。大きな都市ではない場所だと聞いているし、そういう地域からこんなに突出した才能が何人も出るのはかなり驚きだ。アメリカでも、ノーラン・ライアンやエンゼルスのノア・シンダーガードを輩出したテキサス州のように“本格派がよく出る地域”はあるけど、(テキサスは)街も大きいしね」

“8回パーフェクト降板”を米記者はどう見る?

 完全試合から1週間ほど、ふたたび佐々木の快投が米国で話題になった。8回102球、パーフェクトでの降板劇。折しも、その数日前にドジャースのクレイトン・カーショウが7回パーフェクト(80球)でマウンドを降りていた。

現地時間4月13日のツインズ戦。パーフェクト投球を続けていたドジャースのカーショウは7回80球で降板した ©Getty Images

 ロッテの井口資仁監督や首脳陣の判断を米記者はどう思うのか。

 ジ・アスレチックのサム・ブラム記者はその決断に理解を示す。

「今の野球界は、チームや監督が若い選手をどう扱うかの議論が増えている。もちろん、ファンや子供たちが2試合連続完全試合という歴史的な偉業を見たいという気持ちは理解できるけど、彼はすでに102球を投げていた。チームの方針も理解できる。事情をすべて知っているわけではないから、どちらかに肩入れするのは難しい。ただ、素晴らしい議論だと思う。若く才能あふれる選手だからね」

 前出のヘルナンデス記者やボリンジャー記者も「若い選手は健康が一番大事」という視点で一致した。ヘルナンデス記者はこう語る。

「チームがよく管理しているなと思った。日本のプロ野球界も、投手をつぶすという評判は嫌でしょう。もし怪我でもしてしまったら、今度、佐々木のような選手が出てきたときに高校からすぐにメジャーに行ってもおかしくない。いい判断だったと思う」

白井球審の一件は「理解できない」「少し奇妙」

 もう一つ、日本で議論を呼んだ佐々木と白井一行球審の“ひと悶着”についても聞いてみた。これに関しては、3名の記者ともに「(審判の行動が)理解できない」という反応だった。

「なぜ審判が怒って近づくのか。少し奇妙。何か言ったのならわかるけど……。審判は試合をマネジメントして、感情をうまく扱うように、試合を進めないといけないのに。米国ではこういうケースは見たことない」(ブラム記者)

「若い選手に、こういう態度はだめだと言っているのかもしれないけど……。(佐々木の挙動は)そんなに悪いことではないと思う」(ボリンジャー記者)

佐々木に詰め寄る白井球審 ©KYODO

 完全試合から始まった“佐々木狂騒曲”。ポスティングシステムや「25歳ルール」など、佐々木が海を渡るにはいくつかの障壁がある。もちろん本人の意向もわからないが、既に「ササキ」の名は米国に広がり、いつメジャーに来るのかという話題も熱を帯びている。

 ボリンジャー記者はそのプレーを間近で見ることを熱望する。

「ポスティングなど、彼がすぐメジャーに来るにはいろいろと難しい問題があるのは知っている。だが、今すぐにでもここで見たい。それだけ楽しみな選手だ」

 ヘルナンデス記者はベストなタイミングを「来年」と位置づけ、こう続けた。

「来年メジャーに来れば、最短6年でFAになれる。最初は大型の契約ができなくても、あとで貰える金額が……。大谷も23歳で来て、29歳でFA。(大谷は今)400、500、600億円出ても、おかしくないような状況になっている。佐々木も、そういった夢がある選手だ」

文=阿部太郎

photograph by Hideki Sugiyama