2022年の上半期(対象:4月〜8月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ総合部門の第3位は、こちら!(初公開日 2022年6月3日/肩書などはすべて当時)。

TV番組『元祖!大食い王決定戦』で大活躍し、近年はバラエティ等でも人気の“大食い魔女”菅原初代(58)。大食い界のレジェンドに、ギャル曽根との対決の思い出や大会までの独自の調整法、女性の大食いに対する偏見や風潮などについて聞いた。《全3回の特別インタビュー第2回/第3回へ続く》  菅原にとって、大食いキャリアの出発点となったのが、2006年、地元・盛岡で開催された『第21回 全日本わんこそば選手権』での準優勝だ(女性としては1位)。この時すでに42歳。フードファイターとしてはかなり遅いスタートとなる。

 短大を卒業後、図書館司書やメガネ店の販売員、事務員などの仕事を転々とし、結婚。長男を出産し、主婦として生活していた。

「食べる量は子供の頃から多かったと思います。

 私は覚えていないんですが、1歳の頃に、小学校1年生のいとこのお弁当をたいらげたらしくて。あと、2歳から保育園に通っていたんですが、初めて登園した日、『給食おかわりできないんだって』とショックを受けていたらしいんです。家では普通におかわりしていたので、それができないのが不満だった、と。

 でも、まさか自分がフードファイターになるなんて思ってもみなかったし、大食いの番組だって特に見ていたわけでもなかったんですよ」

菅原の敗退で、あのギャル曽根も涙

 わんこそば選手権での準優勝を機に、2007年に『元祖!大食い王決定戦』に初参戦。予選を突破して本選に出場し、その爆食ぶりを見せつけたが、2回戦で敗退している。

 この大会で優勝し、女王戦2連覇を達成したのが、当時フードファイターとして人気を誇っていたギャル曽根だ。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったギャル曽根は、菅原の敗退を目にして「私のライバルになるのは、菅原さんだと思っていた」と涙を流した。

「あの時の曽根さんは、やっぱり強かった。みんな翻弄されている感じがしましたね。

 1回戦は30分間、生のきゅうりを食べ続けるというものだったんですが、会場が青果市場の倉庫だったので、すごく寒くて。身体が冷え切ってしまいました。

 2回戦はおしるこ。そのおしるこがやけどするぐらい熱くて。当然、みんなかき混ぜたりして冷まして食べるんですが、なぜか私、さまさずに熱いまま食べちゃったんです。今考えても、なぜそんなことをしたのか分からない。初出場だったから、ナメられまいって思ったんですかね(笑)。それで、だんだん気持ち悪くなってきちゃって。ドクターストップがかかってしまった。もう限界でした」

 初参戦した『元祖!大食い王決定戦』では涙を飲んだが、翌年の大会で、菅原は3連覇のかかったギャル曽根を破り、優勝。以降は菅原自身が3連覇を成し遂げ、殿堂入りを果たした。

 その大食い力は年を重ねても衰えることを知らない。昨年には、『最強大食い女王決定戦』でレジェンドの名に恥じない豪快な食べっぷりを見せ、新世代のフードファイターらを撃破。史上初となる4回目の女王の座に輝いている。

素人と大食い選手の“大きな違い”とは?

 大食い大会で優勝するまでには、過酷な道のりがある。いくらフードファイターといっても、なんの準備もなく大会に挑めば、あっけなく敗退するのが必至。良い成績を残すには、入念な準備が欠かせない。

「最近では、突然出場のオファーが来ることが多いんですが、理想をいえば、大会まで3カ月くらい準備期間が欲しいんです。

 具体的にやるべきことが『胃を大きくすること』。胃袋を大きくすれば食欲は増える。これは大食い仲間のあいだでも共通の認識で、みんな『容量を大きくする』って言い方をしています。ただ、やみくもにいっぱい食べればいいというものでもなくて、『今日はいっぱい食べたから胃が大きくなった』というのは、初心者にありがちな勘違い。

 私も、大食い大会に出始めたころは、勘違いをしていました。

 たとえば、お米を1合炊くと、何グラムになるか知ってますか? だいたい320〜340グラムです。でも、私は最初、何も考えないで、4合炊きの炊飯器で炊いたご飯をなぜか10キロあると思っていて。量っていないのに、直感でそう思い込んでいたんです。

 だから、大食いの番組に出た時に、自信満々で『私はご飯10キロ食べられます!』なんて言っていたんだけど、本当は1.5キロにも満たない(笑)。今思うと、本当にバカですよね。でも、大食いの素人ってそんな感じなんですよ」

「増えた体重を目安にして、食べた分量を量るんです」

 自分の勘違いに気づいた菅原は、数字を計算しながら食べることを意識するようになったという。

「ご飯一合なら330グラム、肉ならパックに重さが書いてあるし、大きめの玉ねぎなら300グラムとか。私は料理も計算も好きなので、最初は苦にならなかったんですよ。この食材を全部使って作ったから6キロのチャーハンになってるな、とか。

 でも、毎日となるとさすがに面倒になってきちゃって。それで、食べる前と食べた後に体重を測れば楽だって気づいた。

 大食いの先輩たちに聞くと、この方法を昔から実践している人が多かった。増えた体重を目安にして、食べた分量を量るんです」

「太ってて大食いが強い人って見たことがない」

 食べる量を徐々に増やして胃の容量を広げていく一方で、太らないことも重要だという。実際、かつて急激に太った際に、食べられる量が減ってしまったことがあるそうだ。

「太って脂肪が腰回りにつくと、脂肪が胃を圧迫して、食べたときに胃が大きく広がらない。それで、苦しくなって食べられないんです。脂肪がコルセットみたいな役割を果たしてしまうというわけです。だから、太ってて大食いが強い人って見たことがないですね。

 私自身、最近中年太りしちゃってるから、食べられなくなって。中年太りって腰回りに脂肪がつくんですよ。それに、重力でどんどん脂肪が下がってくるのも、食べられなくなる理由の一つかもしれません」

 菅原は還暦間近。現役で活躍するフードファイターとしてはかなり高齢の部類に入る。

「現役で大食いやっている人で私より年上の人はいませんよ。世界的に見てもそうでしょうね」と笑う。

「やはり大食いは若い方が有利だと思う。胃袋は筋肉だから。スポーツでもそうですが、筋肉をハードに使う競技は、やはり若いほうが有利ですよね。

 一方で、大食いは経験も大切。大会で食べるものは、事前に教えてもらえないことが多い。だから、食べたことがないものが出てきた時、どのように対処するのか、その引き出しがどれだけあるかが勝敗を分ける。たとえば、この料理には、こういった調味料をかけたほうが食べやすいとか、そういった知識の蓄積が重要なんです」

「大食いはスポーツに近い」

 根性論で語られがちな大食いだが、「気持ちだけで食べるのはムリ」だと菅原は断言する。

「だって考えてみてください。運動神経が悪い子が『気持ちだけは負けない!』といったところで、野球のリトルリーグで活躍したり、その後甲子園に行けるかといったら、厳しいですよね。やはり才能と努力が必要なわけで、やる気だけあっても難しいことはたくさんある。

 大食いもそれと同じ。もともと持っている身体のつくり――つまり身体的な能力に加えて努力と経験が必要です。そう考えると、大食いはスポーツに近い。ある意味、アスリートといえるかもしれません」

 身体に大きな負担がかかるという点でも、大食いはスポーツと共通している。それでもなお、大食いを続けるのはなぜだろうか。

「食べることは好きだから、それ自体はストレスになりません。たとえば、ボクサーだって、ボクシングに興味がない人から見たら、『なんで好き好んで痛い目に遭うの?』と思うかもしれない。でも、ボクサーにとっては他の競技にはない面白さがあるわけです。私にとっては、大食いはそれと同じなんですよ」

「女性の大食い」への偏見が変わっていった理由

 今でこそ、大食い大会で多くの女性フードファイターが火花を散らすのは当たり前だが、その裏には、菅原をはじめ、ブームを牽引してきた女性たちの存在がある。その草分けといえるのが、1990年代〜2000年代前半にかけて活躍した赤阪尊子だ。

「私は、女なのに大食いなんて恥ずかしいと感じたことは一度もない。でも、世間的には『女性がたくさん食べるのははしたない』という風潮って、あったと思いますよ。『デートの時はわざと少なめに食べた方がいい』とか、『スリムであるべき女性が、そもそも大食いなんてありえない』みたいな考え方ですよね。

 そんな偏見を、赤阪さんがまず打ち破った。そして、ギャル曽根さんが出てきたことで、女性の大食いに対する世間の目がガラッと変わったと思う。

 それまでは女王戦って出場者を集めるのが大変だったらしいんですよ。やっぱり女性で大食いって恥ずかしいというイメージがあって、出たい人がなかなか見つからなかったんでしょうね。でも、曽根さんが活躍したことで『こういうサクセスストーリーもあるのか』と認知されて、出場希望者が一気に増えた。もえのあずきちゃんもその一人ですよね」

「一概に男性の方が強いって、私は思いたくない」

 一般的に、男性のほうが女性よりも食事の量は多いとされている。しかし、大食いに関しては、性差は関係ないのではないかと菅原は分析する。

「男女差よりも個人差が大きいんじゃないでしょうか。私は、今もジャイアント白田さんに絶対勝てないだろうなと思っているんですが、それは白田さんが男性だからではなく、体が大きいから。体が大きい分、胃が広がるスペースがあるわけですよね。白田さんは、その天性の才能に加えて知性もあるから、正しい方向性の努力をして、結果を出してきたわけです。そういう人には勝てる気がしない。

 ただ私が勝てないだけで、白田さんに勝てる女性もいるかもしれない。だから一概に男性の方が強いって私は思いたくないんですよ」

《第3回に続く》

文=音部美穂

photograph by 本人提供