7月25日、TBS『世界陸上オレゴン』中継の最終日。織田裕二さんによる“ラストスピーチ”が始まった。

「僕たちは今回で終わりますが、世界陸上はまだまだ続きますよ。来年はブダペスト、そして3年後は東京です。無観客だった東京オリンピック。3年後にコロナも戦争もなく、満員の国立競技場、そこに立つ超人たち。ぜひ、その目で見てください……」

 1997年から25年間にわたって務めてきた世界陸上のメインMCを卒業する。その最後の最後に、両拳を突き上げて、まさかの言葉を叫んだ。

「地球に生まれてよかったぁー!」

 2007年大阪大会で生まれた伝説の“織田裕二語録”。15年ぶりの復活はすぐさま話題となり、Twitterのトレンド1位になった。そしてこれに誰よりも驚いたのが、モノマネ芸人・山本高広さんだ。

©Wataru Sato

「キター!」「ずっちーな」「地球に生まれてよかったぁー!」

 数々の織田裕二モノマネで大ブレイクを果たし、一時期は織田さんの所属事務所との確執も噂されてきた男は、あのラストメッセージを聞いたとき、何を思ったか――。(全3回の1回目/#2、#3へ)

知人から「見た?」「やったよ!」ってLINEが届いて

――織田裕二さんの「地球に生まれてよかったぁー!」というラストメッセージは、オンタイムで見ていましたか?

山本 録画をしていて、後から見ようと思っていたんです。そうしたら、知人から「見た?」「やったよ!」ってLINEが届いて。訳も分からないまま慌てて録画していた世界陸上を再生したら、最後の最後に織田さんが「地球に生まれてよかったぁー!」と叫んでいた。えーっ!って、本当にびっくりして。Twitterのトレンド1位になっていましたからね。シビれましたよ。

©Wataru Sato

――そもそも山本さんが「地球に生まれてよかったぁー!」のモノマネをやり始めたきっかけは?

山本 2007年の世界陸上大阪大会に向けた事前告知CMを見たことでした。深夜にテレビをザッピングしていたら、たまたまCMで織田さんが「地球に生まれてよかったぁー!」と叫んでいた。一瞬の出来事でしたけど、すごいコメントだなと衝撃を受けて。僕、高校時代に一度だけ、女の子から「織田裕二に似てる」と言われたことがありまして(笑)。2001年頃から織田さんのモノマネ自体はレパートリーに入っていました。だから当時、オーディションを受けていたフジテレビの『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』で、さっそくやってみたんです。「大阪世界陸上の事前のCMで、つい規模が大きいコメントを言ってしまったときの織田裕二」というネタで。

織田さんの世陸ワードは「センゴ」「タメ」だけでなく…

――スタジオでの反応は、いかがでしたか。

山本 関根勤さんや石橋貴明さんがドハマりしてくれたんですよ。「たしかに織田くん、言ってた!」って。『細かすぎて』のオーディションは第7次審査まであって、2次審査まではフジテレビの軽部真一アナウンサーのマネをしていたんです。そこでスタッフから「もし他にもネタがあれば、とりあえず見せてください」と伝えられて。3次審査で織田さんのネタを12個くらい持って行きました。当時は世界陸上開催中で、スタッフも「タイムリーでいいね」となって。織田さんネタのおかげで、初出場で決勝戦に進出できたんです。

――織田さんは1997年大会から世界陸上のMCとなりました。山本さんは大会期間中、ずっと録画して見ているんですか?

山本 僕の中では、2年に一度のお祭りですからね。失礼ながら最初の頃は、競技ではなく織田さんにしか興味がありませんでした。それまでのスポーツ番組のMCではあり得ないような発言がどんどん飛び出すので。織田さんはとにかく熱心に取材して、陸上を勉強しているからこそ、感情が爆発して「何やってんだよ、タメ!」とか、印象的なフレーズが出てくる。1500m走を「センゴ」、為末大選手を「タメ」、末続慎吾選手を「スエ」、サニブラウン・アブデル・ハキーム選手を「サニ」って、何でも略しちゃうのも特徴ですよね。あまり知られていませんけど、「メインディッシュ」という言葉も隠れた織田さんの世界陸上ワードなんです。今年の大会でも、次の競技の中継に移るときに「この後は、メインディッシュです」と言っていましたからね。そんな織田さんの熱さに触発されて、僕の大会の見方も変わってきて。

織田さんを通して、徐々に陸上競技にも興味を持つようになった山本 ©Wataru Sato

織田さんに紹介されると気になってくる

――陸上にも興味を持つようになった?

山本 そうなんです。織田さんの熱い語り口を聞くと、僕みたいな陸上の素人でも入りやすいんですよね。選手の特徴や背景を前のめりで伝えてくれるから、自然と応援したくなる。日本人選手ならば、2000年代前半は室伏広治さんの全盛期でしたし、最近では、田中希実選手。どんな結果でもお辞儀をしてからトラックを去る姿を見ると、人間性に惹かれますよね。外国人選手でも、それまで知らなかったのに、織田さんに紹介されると気になってくる。棒高跳びの(エレーナ・)イシンバエワ選手も好きになりましたし、織田さんイチオシのジャマイカ選手が登場すると「キター!」って、注目しちゃいます。僕に限らず、織田さんをきっかけにして陸上を見ることが好きになった視聴者はたくさんいると思いますね。

――今年の大会で織田さんと中井美穂さんが世界陸上のMCを卒業すると知ったときは、どんな気持ちでしたか。

山本 そりゃ寂しいですよ。本音を言えば、2025年の東京大会まで続けてほしかった。でも、25年間って、ものすごく長い時間ですからね。織田さんと中井さんが自分で決めたことですから、僕らも受け入れるしかない。だからこそ、最後の最後に織田さんがあの言葉を言ったときは、僕の方が「地球に生まれてよかったぁー!」と思いましたよ。まだ織田さん本人にお会いしたことはないので、その真意はわからないんですけどね。

「地球に生まれてよかったぁ!」 ©Wataru Sato

(「ものまね芸人としての原点&ご本人とのやりとり編」に続く)

文=松本宣昭

photograph by Wataru Sato