日本代表がカタールW杯グループステージ第2戦で戦うコスタリカ。中米の強国で長年にわたって守護神として君臨するケイロル・ナバスへの独占取材に、8月中旬に成功した。ワールドクラスで居続ける秘訣や日本人選手への率直な印象を聞いた<翻訳:木崎伸也>(全2回の1回目/#2も読む)

 コスタリカ代表のケイロル・ナバスほど、過酷な生存競争を経験してきたGKは現代サッカーで他にいないだろう。

レアル・マドリー時代、クラシコでのナバスのセーブ ©Getty Images

 2014年W杯で活躍してレアル・マドリーへ移籍したが、スペイン代表のイケル・カシージャスの控えになった。2015年夏から正GKの座を掴んでCL3連覇に貢献したものの、2018年夏にベルギー代表のティボ・クルトゥワが加入して再び控えになった。

 2019年9月にパリ・サンジェルマン(PSG)へ移籍すると正GKになったが、昨季イタリア代表のジャンルイジ・ドンナルンマが加入したことで再び厳しい競争にさらされている。

 なぜナバスは厳しい競争に挑み続けられるのか? 8月中旬、PSGのクラブハウスで話を聞いた。

PSGの新監督は“食事中は携帯NG”なんだ

――PSGに加入して約3年が経ちました。パリの生活はどうですか?

「パリにはたくさんの歴史的な建物があり、そのロマンチックな雰囲気を感じながら暮らしているよ。ただ、チームのスケジュールがタイトなので、まだまだ行けていない場所も多いんだけどね」

――あなたはレアル時代、マドリードの街への愛着をよく口にしていましたね。パリとマドリードの違いは?

「食事の時間かな。スペインで暮らしたことがある人なら知っていると思うが、マドリードの方が夕飯の時間が遅いんだ。ただ、両方ともサッカーの熱狂度という点では似ていて、道を歩けばどちらの街でもすぐに気づかれてしまうよ」

――今季、PSGの新監督にクリストフ・ガルティエが就任しました。チームはどう変わりましたか?

「全員が同じ方向を向くようになった。監督は規律を重んじており、誠実さ、信頼性に価値を置いている。たとえば食事中は携帯を使ってはいけなかったり、1分でも遅刻したらクラブハウスに入れないといったことだ。全員が新監督に魅了されている」

PSGジャパンツアーでのナバス ©Sports Graphic Number

ギブアップは自分の哲学に反する

――ポチェッティーノ前監督がGKをローテーションさせたのに対して、ガルティエ監督は正GKを固定する方針を打ち出しました。現時点でドンナルンマが第1GKで、あなたは第2GKという位置付けです。この状況をどうみていますか?

「これまで何度も言ってきたように、私はベンチではなく常にゴールマウスに立つことを強く望んでいる。ただし、競争がプロサッカーの一部だということは理解している」

――移籍の噂もありますが、もしPSGに残った場合、第1GKになることを諦めませんか?(※その後残留が決定)

「当然だ。ギブアップは自分の哲学に反する。私は常に全力を尽くし、目標を達成しようとする。今季もそれは例外ではない」

各国メガクラブでチーム内競争を繰り広げるナバス。気づけばゴールマウスを守っている印象だ ©Sports Graphic Number

――レアル時代にも厳しい競争にさらされながらもあなたは生き残り、CL3連覇に貢献しました。GKが競争に勝つのに大事なことは?

「強いメンタリティ、そして限界を突破しようとする渇望だ。それらを持ったうえで大事なのは、競争相手とフェアに接することだ。競争相手とギスギスしてしまったら、日々の練習の土台が崩れてしまう。特にGKというポジションはね」

――厳しい競争の日々の中、どうやってメンタルヘルスを保っているのでしょう?

「私の場合、ヨガだね。ほぼ毎日、ヨガをやっているよ。ときには家族と一緒にヨガをやって、頭をサッカーから切り離して気持ちをリセットするんだ」

――コスタリカ出身というルーツは、ヨーロッパのサッカーシーンで戦っていくうえでハンデになりますか?

「私自身の経験からはっきり言えるのは、サッカーにおいて国籍は重要な役割を担わないということだ。最も重要なのは、個人としてのパフォーマンスだ。もし芝生の上で素晴らしいパフォーマンスを発揮できれば、どんな国籍の選手でも注目される」

W杯は一晩で名前を売ることができる

――あなたのキャリアにおいて最大の分岐点は?

「やはり2014年W杯だろう。コスタリカは初戦でウルグアイに3対1で勝利して勢いに乗り、第2戦でイタリアに勝利し、第3戦でイングランドと引き分けて“死の組”と言われたD組を首位通過した。準々決勝のオランダ戦でPK戦の末に敗れたが、私たちは世界的に有名になった。

 W杯は世界中が注目する舞台であり、一晩で名前を売ることができる。私はプレッシャーに打ち勝ち、ブラジルの地でそれを実現した」

――先ほど触れたように、あなたは15-16シーズンからCL3連覇を成し遂げました。CLで勝つには何が重要ですか?

「自分を信じ切ることだ。最初から最後までね。それをできなければ、CLという大会では勝ち上がっていけない。

 もちろんサッカーは1人ではできない。チームの団結も非常に大事だ。そのために選手数は多すぎず少なすぎず、適切な規模が保たれていなければならない。日々みんなで一緒にごはんを食べたり、おしゃべりしたりすることが、ロッカールームの雰囲気に影響するんだ。

 あとは運が大きな役割を演じる。怪我人、出場停止、組み合わせは運の部分があるからね。審判の判定も、過小評価してはいけない」

2016年クラブW杯 ©Takuya Sugiyama

アンチェロッティやジダンら名将の人心掌握術とは

――まだPSGはCLで優勝したことがありません。あなたの1年目の19-20シーズンは準優勝、20-21シーズンはマンチェスター・シティに敗れてベスト4、21-22シーズンはレアルに敗れてベスト16でした。CL3連覇時のレアルと比較すると、何が足りないのでしょうか。

「経験だ。ただし、ここ数年間、PSGが味わってきたCLでの苦い経験は、次のステップへ進む助けになるだろう。大きな悔しさがチームに足りないものを気づかせてくれる。実際、CL王者の多くが、過去の屈辱をバネにして優勝を掴み取ってきた。

 たとえば、バイエルンは11-12シーズンのCL決勝をホームで戦いながら、チェルシーにPK戦で敗れてしまった。しかしその1年後、バイエルンはウェンブリーで行われたCL決勝でドルトムントに勝利し、5回目の優勝を果たした。彼らは敗戦の悔しさを無駄にしなかった」

――あなたはレアル時代にアンチェロッティやジダン、コスタリカ代表でコロンビア人のホルヘ・ルイス・ピントなど多くの名将のもとでプレーしてきました。最も印象に残っている監督は誰ですか?

「その3人全員だね。3人とも自分なりの手法を持っていた。カルロは一言でいえば選手の父親のような存在だ。選手に多くのことを委任し、1対1の話し合いをたくさんする。

 ジズーは同僚とボスをミックスしたような存在だ。ホルヘ・ルイス・ピントは戦術家で、選手に多くのことを要求し、能力の最大値を引き出そうとする監督だった」

マドリー時代のジダン監督とナバス ©Getty Images

――PSGやレアルのようなスター軍団を率いるうえで、監督にはどんな資質が必要だと思いますか?

「CLは誰しもモチベーションが高まるので、監督が特別なメンタルトリックを持ってる必要はないと思う。

 PSGやレアルのようなチームの監督に求められるのは、高いレベルで戦った経験だ。監督として過去にCL決勝や準決勝の経験があれば、大一番に向けてうまく準備をできる」

 第2回ではW杯で同組になった日本代表や、PSG日本ツアーで対戦したJリーグ各クラブ、そして一緒にプレー経験のある久保建英など日本サッカーへの印象などについても聞いた。

 <#2につづく>

文=アレクシス・メヌーゲ

photograph by Christian Hofer/Getty Images