沢村栄治賞(沢村賞)はNPBで年間通して最も優秀な先発投手に与えられる賞だ。MLBのサイ・ヤング賞と比較されるが、サイ・ヤング賞はア・ナ両リーグで1人ずつ選ばれるのに対し、沢村賞は両リーグで1人だけである。

 またサイ・ヤング賞は救援投手も選考の対象となるが沢村賞は先発投手だけ。ともに大投手の名前にちなんだ賞だが、沢村賞は1947年に制定され、1956年に制定されたサイ・ヤング賞よりも古い。

沢村賞7つの指標+QS率を含めて徹底比較

 今季の沢村賞候補の成績を見ていこう(※成績は9月20日時点)。

 沢村賞には登板数、完投試合数、勝利数、勝率、投球回数、奪三振数、防御率という7つの指標がある。また近年はQS数(Quality Start)も参考にされるが、MLBのQS(6回以上投げて自責点3以下)とは異なり沢村賞の基準としてのQS数は7回以上投げて自責点3以下となっている。

<登板数 25試合以上>
1森下暢仁(広)25
2高橋光成(西)25
3山本由伸(オ)24
3伊藤大海(日)24
5西勇輝(神)23
5青柳晃洋(神)23
5戸郷翔征(巨)23
5小川泰弘(ヤ)23
5宮城大弥(オ)23
5田中将大(楽)23

 基準をクリアしているのは現時点では広島の森下だけ。ただ山本、伊藤はあと1回は登板機会があると思われるのでクリアしそうだ。

<完投試合数 - 10試合以上>
1伊藤将司(神)6
2山本由伸(オ)4
2青柳晃洋(神)4
2大野雄大(中)4
5森下暢仁(広)3
5戸郷翔征(巨)3
5柳裕也(中)3
5加藤貴之(日)3
5今永昇太(De)3
5大瀬良大地(広)3

 先発、救援の分業が進んだ現在では、この数字をクリアするのは難しい。近年では2020年の中日・大野、2018年の巨人・菅野が10完投し、ともに沢村賞を受賞している。

<勝利数 - 15勝以上>
1山本由伸(オ)14
2青柳晃洋(神)12
2戸郷翔征(巨)12
4宮城大弥(オ)11
4大貫晋一(De)11
4高橋光成(西)11

 オリックスの山本はこの数字をクリアしそうだが、残り試合数を踏まえると青柳以下は難しそうだ。

前半戦に勝利数を伸ばした青柳だが、後半戦に入ってややペースが落ちた ©JIJI PRESS

山本由伸や青柳、佐々木朗希らがクリアした項目は何個?

<勝率 - 6割以上>
1青柳晃洋(神).750(12勝4敗)
2山本由伸(オ).737(14勝5敗)
3戸郷翔征(巨).667(12勝6敗)
4宮城大弥(オ).611(11勝7敗)
4大貫晋一(De).611(11勝7敗)

 NPBで表彰対象となる「勝率」は「13勝以上」となっている。タイトルとしては実質的に青柳、山本、戸郷の3人だけに獲得の可能性がある。沢村賞の基準としては、山本はあと1勝すれば青柳に追いつく計算になる。

<投球回数 - 200イニング以上>
1山本由伸(オ)179
2高橋光成(西)168.2
3森下暢仁(広)168
3戸郷翔征(巨)160.2
5伊藤大海(日)153.2

 この基準をクリアしたのは2018年の巨人・菅野の202回が最後だ。今後、クリアする投手が出てくるかどうか。

<奪三振 - 150個以上>
1山本由伸(オ)188
2佐々木朗希(ロ)168
3千賀滉大(SB)142
4戸郷翔征(巨)141
5青柳晃洋(神)128

 規定投球回数未達がほぼ確定したロッテの佐々木が2位につけている。今年の異能の活躍を象徴する数字だ。巨人の戸郷も150個をクリアする可能性がある。

佐々木朗希©Kiichi Matsumoto

 <防御率 - 2.50以下>
 1山本由伸(オ)1.71
 2加藤貴之(日)2.00
 3青柳晃洋(神)2.07
 4西 勇輝(神)2.18
 5高橋光成(西)2.24
 6大野雄大(中)2.49

 この基準は現時点で6人がクリアしている。山本由伸は9月17日のソフトバンクとの首位攻防戦で完封勝利。パ・リーグのエースであることを見せつけた。

 <QS数 %はQS率(QS試合数÷先発試合数)>
 1山本由伸(オ)19 / 24登板 79.2%
 2戸郷翔征(巨)15 / 23登板 65.2%
 3森下暢仁(広)14 / 25登板 56.0%
 4大野雄大(中) 13 / 22登板 59.1%
 5田中将大(楽)13 / 23登板 56.5%

 投手の安定感を示すQS数、QS%両方で山本が群を抜いている。

 <沢村賞の7つの指標をクリアした数>※勝率は暫定的に12勝以上
 山本由伸(オ)3(勝率・奪三振数・防御率)
 青柳晃洋(神)2(勝率・防御率)
 高橋光成(西)2(防御率、登板数)
 森下暢仁(広)1(登板数)
 戸郷翔征(巨)1(勝率)
 大野雄大(中) 1(防御率)
 加藤貴之(日)1(防御率)
 西 勇輝(神)1(防御率)
 佐々木朗希(ロ)1 (奪三振数)

沢村賞の「昭和の価値観」は時代に合っていない?

 クリアした数がこれだけ少ないことを問題視するよりも、沢村賞の指標が、現在のNPBの投手起用の実態から乖離しているとみるべきだろう。

 今季の沢村賞は山本由伸の連続受賞が当確か。シーズンを通してエースとして活躍し、投球内容も抜群だった。昨年はポストシーズンやオリンピックも通して3500球以上を投げて投球過多が懸念されたが、今季も健在だった。ただ現時点では投球数は2713球であり、最終的に昨年よりやや少なくなりそうだ。

 2年連続の受賞となれば2017、18年の菅野以来。史上6人目、パ・リーグでは史上初となる。

菅野©Hideki Sugiyama

 その一方で――先発完投型の投手を良しとする沢村賞の「昭和の価値観」は、いよいよ時代にそぐわなくなっている。

 今季両リーグで優勝争いを繰り広げているヤクルト、DeNA、ソフトバンクの投手は誰も沢村賞の基準に引っ掛かっていない。

 サイ・ヤング賞がそうしたように、沢村賞も時代に合わせて基準を改定するべきだろう。

 さらに言えば両リーグの環境が異なるのだから、両リーグで1人ずつ選出すべきだとも思う。

ヤクルト村上は本塁打こそ出ているが当たりが止まった?

 <NPB第25週の成績 2022年9月12日〜9月19日>
 〇セ・リーグ
 巨 人4試3勝1敗0分 率.750
 広 島4試3勝1敗0分 率.750
 中 日5試2勝2敗1分 率.500
 DeNA7試3勝4敗0分 率.429
 阪 神5試2勝3敗0分 率.400
 ヤクルト5試1勝3敗1分 率.250

 ヤクルトが失速したがDeNAも追撃態勢にはなく、ゲーム差は7.0と縮まらなかった。一方で阪神、広島、巨人のCS争いが熾烈になってきた。

 ・個人打撃成績10傑 ※RCは安打、本塁打、盗塁、三振、四死球など打撃の総合指標
 西川龍馬(広)17打10安1本3点 率.588 RC7.312
 岡本和真(巨)15打6安3本3点 率.400 RC6.17
 村上宗隆(ヤ)15打4安2本4点 率.267 RC5.91
 マクブルーム(広)14打8安1本6点 率.571 RC5.55
 ポランコ(巨)13打5安2本2点 率.385 RC5.11
 小園海斗(広)17打8安1点1盗 率.471 RC4.68
 桑原将志(De)30打9安1点2盗 率.300 RC4.31
 佐藤輝明(神)18打6安1本2点 率.333 RC4.19
 木下拓哉(中)19打7安3点 率.368 RC3.91
 岡林勇希(中)19打7安3点 率.368 RC3.88

 広島の西川が週間10安打と量産。ヤクルト村上は13日に2本塁打を打ってから3試合で1安打と当たりが止まっている。本塁打は巨人・岡本、中田翔の3本、打点は広島マクブルームの6、盗塁はDeNA桑原の2がそれぞれ最多だった。

55本塁打に到達した村上だが、ここにきて打率がやや下がっている ©︎Hideki Sugiyama

 ・個人投手成績10傑 ※PRはリーグ防御率に基づく総合指標
 小川泰弘(ヤ)1登1勝7.1回 責0率0.00 PR2.84
 大野雄大(中)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.71
 ガゼルマン(De)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.71
 藤浪晋太郎(神)1登1敗6回 責0率0.00 PR2.32
 サイスニード(ヤ)1登7回 責1率1.29 PR1.71
 小笠原慎之介(中)1登7回 責1率1.29 PR1.71
 高橋宏斗(中)1登1敗7回 責1率1.29 PR1.71
 木澤尚文(ヤ)4登1H3.9回 責0率0.00 PR1.42
 菅野智之(巨)2登2勝14回 責4率2.57 PR1.41
 大貫晋一(De)1登1勝6回 責1率1.50 PR1.32

 ヤクルトの小川は9月18日のDeNA戦で8回1死まで零封し勝利、中日の大野は16日のヤクルト戦で7回零封勝ち。DeNAのガゼルマンは初先発の13日中日戦で7回零封勝ち。救援では広島栗林良吏、DeNA山崎康晃、巨人大勢が2セーブ。阪神の湯浅京己ら8投手が2ホールドを挙げている。

オリックスは吉田正尚の打棒が爆発している

 〇パ・リーグ
 オリックス7試4勝2敗1分 率.667
 楽 天7試4勝2敗1分 率.667
 ソフトバンク8試5勝3敗0分 率.625
 ロッテ7試4勝3敗0分 率.571
 日本ハム8試4勝4敗0分 率.500
 西 武7試0勝7敗0分 率.000

 オリックスとソフトバンクが熾烈な首位争い。これを楽天が追う図式。ソフトバンクは過酷な11連戦を乗り切った。逆に西武は9月12日から7連敗と失速した。

 ・個人打撃成績10傑
 吉田正尚(オ)25打12安4本10点 率.480 RC10.97
 清宮幸太郎(日)28打10安4本10点1盗 率.357 RC8.46
 浅村栄斗(楽)25打10安2本5点 率.400 RC8.22
 辰己涼介(楽)26打9安1本4点1盗 率.346 RC6.549
 荻野貴司(ロ)23打10安2盗 率.435 RC6.546
 近藤健介(日)22打7安1点 率.318 RC6.518
 牧原大成(SB)32打13安2点3盗 率.406 RC6.00
 今宮健太(SB)25打9安6点 率.360 RC5.94
 デスパイネ(SB)22打5安2本7点 率.227 RC5.34
 高部瑛斗(ロ)27打9安3点5盗 率.333 RC5.31

 オリックスの吉田正尚は打率.480、12安打に加えてリーグ最多の4本塁打と大当たり。チームをけん引している。日ハムの清宮も4本塁打を放った。打点はロッテ安田尚憲の11、盗塁はロッテ高部の5が最多だった。

終盤戦に入って好調の吉田正尚。大逆転での3年連続首位打者なるか ©Nanae Suzuki

 ・個人投手成績10傑
 山本由伸(オ)1登1勝9回 責0率0.00 PR3.35
 加藤貴之(日)2登1勝1敗17回 責3率1.59 PR3.33
 美馬学(ロ)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.61
 田中将大(楽)1登1勝7回 責0率0.00 PR2.61
 宮城大弥(オ)2登1勝1敗11回 責2率1.64 PR2.10
 西口直人(楽)5登4H5回 責0率0.00 PR1.86
 松本裕樹(SB)5登2H5回 責0率0.00 PR1.86
 和田毅(SB)1登1勝5回 責0率0.00 PR1.86
 宇田川優希(オ)4登3H4.1回 責0率0.00 PR1.614
 森唯斗(SB)3登1勝7回 責1率1.29 PR1.611

 オリックスの山本は9月17日のソフトバンク戦で4安打完封。首位争いに勢いをつけた。日本ハム加藤は12日のロッテ戦は8回自責点3で負け投手になるも19日の同じカードで完封。救援ではロッテのオスナ、楽天松井裕樹が2セーブ。楽天・西口、ソフトバンク嘉弥真新也が4ホールドを挙げた。

 <達成記録>
 打者
 ・宮崎敏郎(De)1000安打

 9月17日広島戦 史上315人目

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama