カタールW杯に向けたチームづくりは、すでに細部にも着手されている。

 1-0と日本のリードで迎えた後半33分、堂安律の右コーナーキックがアメリカ代表のGKにキャッチされると、町野修斗がGKの前に立ち、吉田麻也もさりげなくGKに体を寄せた。

 素早くスローされ、カウンターを食らわないためだ。

「長谷部さんにアドバイスを請うようなことも」

 思い起こすのは、“ロストフの悲劇”と呼ばれる18年ロシアW杯のラウンド16、ベルギー戦の決勝ゴールのシーンである。当事者の吉田が語る。

「このチームの監督は“ドーハの悲劇”を経験している人で、W杯に3回出ている(長友)佑都くんや(川島)永嗣さんもいて、いろいろな経験や失敗を糧にここまで来ているチーム。みんなで力を合わせてやっていて、(前キャプテンの)長谷部(誠)さんにも来てもらってアドバイスを請うようなこともしている。それは日本全員で、総力で戦おうということ。

 ベルギー戦の反省を生かすのは当たり前だし、ベルギー戦だけじゃなくて、ブラジルW杯など過去の大会で起きたことを経験値として伝えて、こういうことが起こり得る、そうならないようにしよう、そうなったらこうしよう、ということを事前に準備している段階。勝負を決めるのはああいうディテールだと思うので、そこを詰めていかなければいけない」

大きな変貌を象徴する4-2-3-1の再トライ

 カタールW杯まであと2カ月、残されたゲームは3試合――。

 その初戦であるアメリカ戦が9月23日に行われ、日本は鎌田大地と三笘薫のゴールで2-0と勝利した。シュート数は16対4、決定機数も8対1と、数字を見れば完勝だった。

 6月シリーズでブラジル、チュニジアに敗れたチームは、ここに来て大きな変貌を遂げ始めている。

 分かりやすい変化で言えば、まず形。アジア最終予選を勝ち抜いた4-3-3ではなく、4-2-3-1に再びトライしたのだ。

「対戦相手の力がアジア最終予選よりも格段に上がる中で、守備から攻撃にどれだけスムーズに移っていけるかという部分において、あるいは、我々がボールを握ったときに、トップ下がいることで前線での起点が増えるのではないか、いい守備からいい攻撃に移るバリエーションが増えるのではないかと」

 その狙いについて森保一監督は試合前日、こう語っていた。

 実際、アメリカ戦ではトップ下に入った鎌田がくさびのパスを受けたり、ゴール前に飛び出したりして、再三チャンスに絡む。また、左サイドハーフを務めた久保建英との関係性やポジションチェンジも悪くなかった。鎌田が振り返る。

「タケが中に入ってきたら自分はそのまま左に入るとか、ポジションをうまく入れ替わりながらできていた。タケがボールを持ったら僕はタケに寄るというよりも、自分はフィニッシャーとして裏に抜けることは意識していました」

守田が語る“2ボランチ回帰の効用”とは

 一方、2ボランチに戻した効用について語ったのは、その一角を務めた守田英正だ。

「僕は状況に応じて8番のように奥に入ろうかなと思っていました。相手の守備があまり追ってこないから、あそこのポジションはすごく空きやすかったので。僕が低い位置を取って、(遠藤)航くんがいい形で潰して前向きで奪っていたので、特に後半は、2ボランチの関係性で僕が締めてっていうのは、うまく整理できていたなと思います。

 航くんは僕と組んだとき、安心していると思うし、だからこそ前に行きやすいのかなと。僕も航くんが6番のポジションを取っているときは前に行きやすい。そこはうまく補完しながら、無意識のレベルでできてるんじゃないかと思います」

 その守田は攻守にわたって存在感を発揮し、この試合のマン・オブ・ザ・マッチと言ってもいいくらいの働きぶりだった。W杯本番でも日本の戦いのカギを握る存在になりそうだ。

 6月のキリンカップでチュニジアに0-3で敗れ、噴出した「共通認識の欠如」も改善されつつある。

 ミドルプレスからのハメ方は整理され、ショートカウンターを何度も繰り出した。最終ラインから攻撃を組み立てて、「縦に当てて、落として、裏」を狙う攻撃は前半18分の守田→前田大然→鎌田→伊東純也、11分の冨安健洋→鎌田→守田、30分の中山雄太→久保→鎌田→前田……と挙げればキリがないほど確認できた。

 サイドから突破した際のゴール前の入り方もそう。

 たとえば堂安や町野がゴール前に入らずにマイナスの位置で待ってボールを要求している。この日も左サイドを再三、突破した三笘薫が言う。

「練習でも入るところの確認はしていましたし、シチュエーションによって入れないときもあるんですけど、今日の狙いの部分も、ハメるところも、わかる人にはわかると思う。そういう狙いを共有した上で、スムーズに入れたと思います」

変容の背景に浮かんでくる、ふたつの要素

 こうしたチームの変容の背景にありそうなのは、ふたつの要素だ。

 ひとつは指揮官のアプローチである。鎌田が語る。

「今日に関しては事前に戦術練習やミーティングで、相手がこう来るから自分たちはどうするという明確なやり方があったし、選手自身がちゃんと理解して、チームとして動けていたと思うので、それが要因かなと思います。戦術トレーニングやミーティングが以前とは変わったと思う」

 これまで指揮官は選手の意見やアイデアに耳を傾け、選手にディスカッションをさせ、選手の個性を組み合わせ、選手たちが主体的にプレーできるように促してきた。その試みが最終局面に入り、これまでの経験や意見を集約させていくフェーズに入ったのかもしれない。

「緊張感のある中で話し合っていて……」

 もうひとつの要素として、選手たちのコミュニケーションもより深まっているようだ。長友が明かす。

「ミーティングもそうだし、すごくいいディスカッションが日々繰り広げられていて、こういうプレスを掛けたいとか、こういうプレーをしたいとか、若い選手たちからすごく意見が出るんですよ。緊張感のある中で話し合っていて、今までの代表でここまで意見を言い合える関係性はなかったんじゃないかなと。より繊細に詰めていけるんじゃないかと思っています」

 若い選手が積極的に自分の意見を言えるということは、現在の森保ジャパンでは“心理的安全性”が担保されている、あるいは、され始めたということだろう。チームビルディングは新たなステージに入ったと言える。

 アメリカ戦では、原口元気を投入して5バックにする逃げ切り策も試し、冨安の右サイドバック起用もテストした。前半に右サイドバックを務めた酒井宏樹が言う。

「たとえば、僕が試合に出て、中3日で今度はトミが出て、ということができたら、決勝トーナメントに行ってもフレッシュな選手が出られることになる。(ターンオーバーに限らず)すべてに関して準備をしていると思います。僕もトミも怪我が多いですから」

 ここでも、チーム作りが細部まで着手されてきたことが分かる。

課題は多々あるが、総仕上げの確認ができたのも事実

 もちろん、中盤のスライドはもっと早くしなければならないし、相手がシステムを変えてきた際の対応はもっと早く行わなければならない。課題は山ほどあるが、W杯に向けた総仕上げが至るところで確認できたのも事実だ。吉田が力説する。

「結果が付いてきたのは良かったですけど、今の時点で結果よりは、内容というか。やっていることが固まっているかどうかのほうが大事。今日に限って言えば、そこができた部分が多かった。ただ、今日は良かったけど次はできないとか、この間はできなかったけど、今日はなんとなくできたではなく、なぜできたのかを明確にして、それを意図的に次のゲームでも出していけるように、しっかり分析して、話し合って、磨き上げてカタールW杯を迎えられるようにしたい」

 その意味で言えば、残るテストマッチのエクアドル戦やカナダ戦はさらに課題が噴出するような、危機感を募らせるようなゲームであっていい。本番で戦うドイツ、コスタリカ、スペインの実力は、この日のアメリカの比ではないのだから。

 今回のW杯は欧州のシーズン中である冬に行われるため、準備期間が圧倒的に短い。それゆえ、11月17日のカナダ戦のみならず、アメリカ、エクアドルと対戦する9月シリーズから「事前合宿」(反町康治技術委員長)という位置付けとなっている。

 岡田武史監督に率いられた10年南アフリカW杯でも、西野朗監督のもとで戦った18年ロシアW杯でも、直前のラスト3試合でチームはまるで生き物のように大きく変化していった。

 森保ジャパンもメンバー選考や戦い方などを含めて、さらなる大きなうねりを見せるに違いない。どのようなメタモルフォーゼを経て、初戦のドイツ戦を迎えるのか――。それを見逃す手はない。

文=飯尾篤史

photograph by Kiichi Matsumoto