明治大学体育会系サッカー部主将のDF林幸多郎(4年)が、J1昇格を狙う横浜FCへの来季加入内定を発表した。

 プロサッカー選手という夢を叶えた大学生には、もう1つ大きな夢がある。それは弁護士バッジをつけることだ。

「法学部で勉強したことで、この世の中はあらゆる法律で成り立っていることを知ることができた。最初は司法試験を目指そうなんて思っていませんでしたが、一生懸命、勉強をしたら将来何かにつながると感じたので弁護士を目指すことにしました」

 今年5月の司法試験は、予備試験の最初の関門となる短答式試験で不合格に終わったものの、「来年以降もチャレンジしていきたい」と継続して挑む覚悟を固めた。

 ただ、これから林が挑戦するのは「プロアスリート」としての生活との両立だ。果たしてそんなことは本当に可能なのだろうか。

問題を解く“爽快感”はサッカーと同じ

 出身は佐賀県嬉野市。小3で始めたサッカーにのめり込んでいく一方で「学校の授業で問題を解いた時の爽快感は、サッカーをしている時間と同じくらい楽しかった」と小さい頃から物事を論理立てて考える性格だった。

 地元のサガン鳥栖U-15のセレクションで合格を勝ち取ると同時に、中学受験にもチャレンジ。同県トップクラスの偏差値を誇る中高一貫校の県立香楠中学に合格する、まさに文武両道を体現するスーパー少年だった。

 メキメキと上達した林は鳥栖U-18への昇格を決める。ただ、活動拠点が鳥栖市から佐賀市に移ったことで、香楠中からのエスカレーター式に上がれる鳥栖高校への進学を断念し、こちらも進学校である佐賀北高校を受験し直した。

 高校でも成績は常に学年10位以内。サッカーでは近年躍進が目覚ましい鳥栖U-18でも高1から出番を掴み、3年時はキャプテンとしてチームを牽引している。

「サッカーは将来の夢を叶える大切なもので、勉強は達成感を得ることができる大事な趣味。サッカーする時間、勉強する時間をうまくマネジメントしていることが楽しかった。どんなに上手い選手でも24時間ずっとサッカーをやっているわけではないし、サッカーをやっていない時間を僕はただ勉強に割いているに過ぎなくて、それ以上でもそれ以下でもない。(すごいと言われることが多いですが)別に何も犠牲にしているわけでないんです」

 学生時代から身についたこの習慣は、毎年のように多くのJリーガーを輩出している名門・明治大に入学してからも当たり前のように続いた。

「中学、高校は、どちらかというと『やらないといけない勉強』。ただテストの点を上げよう、学年上位を死守しようという気持ちの方が強かった。でも大学は自分から率先して学びに行っているわけですし、純粋に新たな知識がついていくことが楽しかった」

 1年時は授業をフルに詰め込んで、サッカー部の朝練が終わった朝9時から授業開始。空きコマや休み時間も隙間なく勉強に打ち込んだ。1年の秋に医者を目指して佐賀大医学部に進んだ兄の影響を受けて「兄が医者なら、俺は弁護士だ」と本格的に司法試験を目指すことを決め、六法全書や参考書を買い揃えた。大学2年の夏にはオンライン予備校にも通い始めたという。

 サッカー部では分厚い選手層に苦しんだが、「周りと比べるより、昨日の自分と比較していた」と左サイドバックとしてコツコツと努力を重ねて3年時に出番を掴んだ。さらに就職活動をしなかったのも「大卒でプロに行けなかったらサッカーをやめて大学院に進み、より法律を深く勉強する」と決めていたからだ。腹を括って2つのチャレンジに臨むことが出来たという。

 最高学年になるとキャプテンを託された。栗田大輔監督には「司法試験で試合や練習を休んでしまうことがあるかもしれません」と伝えたが、「絶対にどっちも中途半端にやるなよ。頑張れ」と背中を押されたことも励みになったと林は振り返る。

司法試験のためにベンチを外れたが…

 Jリーガーという夢が大きく動き出したのは、不合格に終わった今年5月の短答式試験の頃。関東大学リーグ1部・第6節の早稲田大戦と試験の日程が被ったことで、林はベンチを外れた。翌日はリーグ戦に出ていないメンバーを中心に臨んだ横浜FCとのトレーニングマッチ。本来は出場することがない試合だったが、そこでのプレーが横浜FC首脳陣の目に留まり、練習参加を経て正式オファーを勝ち取った。

「運命ですよね、本当に。練習参加をさせてもらったこと、オファーをいただけたこと、横浜FCには全てに感謝をしています。でも短答式試験を突破できなかったことがすごく悔しかった。自分の中では初めて長い間勉強をして受けた試験なのに結果を出せなかった。勉強において初の挫折ですね(笑)」

 晴れてJリーガーとなる林だが、ここからプロアスリートとして厳しい競争に身を置く。弁護士を目指すためのハードな勉強時間を確保できるのか。

「いや、Jリーガーになったら、今以上に自由な時間が増えると思っています。もちろん試合に出るための練習や体づくり、ケア、休息など、プロアスリートとして高い意識を持って取り組むことは多いですが、メリハリをつければ勉強に打ち込める時間も多いと思うんです」

 Jリーガーの時間割を簡単に説明すると、試合のない平日は午前中または午後の練習を終えたら基本的に自由時間となる。試合当日も、ベンチ入りメンバー以外は午前中に練習をこなし、そこから試合を観戦するのみ。

 実際に高卒選手が大学の通信課程に進む例は多く、そのほかにもアスリートフードマイスターなどの体づくりに役立つ資格を取得する選手や、将来の海外移籍を見据えて言語習得に励むなど、大成する選手はそれぞれ時間を有効活用しているケースが目立つ。サッカー以外の時間をどう過ごすかは、プロとしてのキャリアを歩む上でとても重要な選択になる。林にとってのそれが司法試験の勉強にあたるのだという。

現役時代からセカンドキャリアを形成する

「先日まで『オールドルーキー』というドラマが放映されていたり、アスリートのセカンドキャリアに注目が集まっていますが、そのためには引退後ではなく、現役中から動いておくべきだと思うんです。Jリーガーと弁護士を目指す道の両立は難しいかもしれませんが、新しいJリーガー像というか、生き方を示すことができるし、サッカー選手の価値を上げていけるんじゃないかと。自分がモデルケースになって、サッカー界に貢献していきたいとも思っています」

 もちろん、プロである以上、結果が全てだ。調子を落とせば否定的な声が耳に入ることもあるかもしれない。それでも、24時間、365日をデザインしながら生きてきた林には勝算がある。

「こうして取材に答えている以上、いい意味でも、悪い意味でも注目されるかもしれない。今回のインタビューをきっかけにどちらかを諦めるという選択肢はなくなったと思っています。自分へのプレッシャーというか、どちらも中途半端には終わらせないぞという覚悟、決意表明でもあるんです」

 9月30日時点で横浜FCはJ2リーグで2位につける。来季のステージがJ1となれば、ルーキーにとってはいきなり試練のシーズンになるだろう。司法試験では本試験の受験資格を得るために、1年をかけて予備試験(短答式試験、論文式試験、口述試験の3つ)を突破しないといけない。しかも予備試験に合格した場合、5年以内に本試験の合格が求められる。どちらの挑戦も険しい道が待ち受けていることは間違いない。

「まずはこれまで通り勉強しながら、明治大サッカー部のキャプテンとして先頭に立って、リーグ優勝、インカレ優勝を果たす。そして来年はより高い次元での両立を実現して、将来的には弁護士バッジを持つJリーガーとして活躍したいです」

 実に自信に満ち溢れている言葉の数々。でもそこには積み重ねてきた自負が窺える。

「僕は刑法が好きなんです。誰々の罪責を論じなさい、という問題に対して、法律の知識を使って論拠を組み立てて結論に結び付けていくことが楽しい。自分の中では民法に比べて刑法は綺麗なんですよ。刑法も曖昧な部分はありますが、そもそも刑罰を与えるための法律なのできっちりとしている。だから、論理立てしながら結論を導き出すことができる。これってサッカーにも通ずる部分があって、いろいろなサッカー理論や再現性、アイデアを駆使して、ピッチ上で自らのプレーを構築することと似ています。どれも学習してきたことを、頭を使って組み立てる。本当に楽しいんです」

 ぶれない信念と覚悟を胸に、林は自身の挑戦を心から楽しむつもりだ。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando