村上宗隆(ヤクルト)は、これまで数々の史上最年少記録を塗り替えてきた。清原和博(西武)が持っていた10代でのシーズン本塁打記録。中西太(西鉄)の高卒2年以内のシーズン打点記録。清原の最年少通算150本塁打。そして、極めつきが史上最年少での三冠王だ。

 清原、中西ともに、高卒1年目から活躍した早熟の大打者だが、この二人を凌駕し、王貞治(巨人)、落合博満(ロッテ他)といった伝説的三冠王たちに22歳にして肩を並べた村上は、このまま成長して日本プロ野球史上最高の打者になりえるのか。その可能性を、過去の三冠打者と比較して探ってみよう。

王、野村、落合、松中…レジェンドたちと比較

 過去に三冠を達成した打者は村上のほかに、中島治康(巨人/1938年)、野村克也(南海/1965年)、王貞治(巨人/1973、74年)、落合博満(ロッテ/1982、85、86年)、ブーマー・ウェルズ(阪急/1984年)、ランディ・バース(阪神/1985、86年)、松中信彦(ダイエー/2004年)。戦前にわずか10本で本塁打王になった中島、外国人助っ人のブーマーとバースは条件が異なるので除外し、野村、王、落合、松中の4人と村上を比較してみよう。当然ながら、“ライバル”たちはみな錚々たる大打者である。

【三冠王獲得シーズンの成績】

●1965年の野村克也 30歳/175cm・85kg
プロ12年目 本塁打42 打点110 打率.320 安打数156 三振57 四死球66 出塁率.401 長打率.637 OPS1.038

●1973年の王貞治 33歳/177cm・79kg
プロ15年目 本塁打51 打点114 打率.355 安打数152 三振41 四死球128 出塁率.500 長打率.755 OPS1.255

●1974年の王貞治 34歳
プロ16年目 本塁打49 打点107 打率.332 安打数128 三振44 四死球166 出塁率.532 長打率.761 OPS1.293

●1982年の落合博満 28歳/178cm・82kg
プロ4年目 本塁打32 打点99 打率.325 安打数150 三振58 四死球86 出塁率.431 長打率.606 OPS1.037

●1985年の落合博満 31歳
プロ7年目 本塁打52 打点146 打率.367 安打数169 三振40 四死球104 出塁率.481 長打率.763 OPS1.244

●1986年の落合博満 32歳
プロ8年目 本塁打50 打点116 打率.360 安打数150 三振59 四死球104 出塁率.487 長打率.746 OPS1.233

●2004年の松中信彦 30歳/183cm・97kg
プロ8年目 本塁打44 打点120 打率.358 安打数171 三振67 四死球96 出塁率.464 長打率.715 OPS1.179

●2022年の村上宗隆 22歳/188cm・97kg
プロ5年目 本塁打56 打点134 打率.318 安打数155 三振128 四死球125 出塁率.458 長打率.710 OPS1.168

 まず村上の際立った特徴に挙げられるのが“若さ”だ。村上の22歳に対して、他の4人で最年少は落合の28歳。その落合にしてもベストシーズンは31歳だった。このデータからも打者としてのピークは30歳前後に訪れるといえる。

 王が自己最高の55本塁打を記録したのは入団6年目の24歳だが、初の三冠王獲得は33歳。これについて王は「55本塁打の頃がパワーのピークであり、多少芯を外してもフェンスを越える感覚があった。三冠王を獲った頃は心技体のバランスがピークだった」と語っている(『もっと遠くへ』王貞治、日本経済新聞出版)。

 そう考えると村上も、30歳前後で打者としての円熟期を迎える可能性が高いのではないか。

 次に比較表を見て気づくのが、村上の体格である。野村、王、落合は170センチ台で、当時のプロ野球選手としても平均的なサイズである。松中のみ180センチを超えているが、村上の188センチ、97キロという体格は、頭一つ抜けている。

 野球界、特に打撃のパワーという点に関しては、体格が大きい方が明らかに有利だ。ボクシングで言えば、ヘビー級のパンチはミドル級のパンチを確実に凌駕するので、階級に分けられている。その点、体格差関係なく同じフィールドでプレイする野球では、ことパンチ力、すなわち長打力に関しては体格が大きい方が確実に有利である。

 ストライクゾーンも同様だ。身長が高くなればストライクゾーンの縦幅は広くなるが、ホームベースの長さは決められている。それゆえストライクゾーンの横幅は相対的に狭くなり、アウトコースの球にもバットが届きやすくなる。実際、188センチの村上が打席に立つと、インコースもアウトコースもバットが出しやすい幅の中に収まっているように見えて、対戦する投手には大きなプレッシャーになるだろう。

 体格に勝ることで、パンチ力で上回り、ストライクゾーンの横幅が相対的に狭くなる。村上は、この利を活かして他の三冠王とは異なる打法をとっている。それが、逆方向にも打ち分けられる「広角打法」と、構えた位置から体を動かさずにバットを振る「コンパクト打法」である。

村上は落合タイプ? 打ち方の「違い」

 まず広角打法について。今シーズンの56本塁打を見ると、右方向25本、中堅方向13本、左方向18本と、見事に打ち分けている。広角に打てる理由には、もちろん技術もあるが、引っ張るよりも体の力を使いにくい、流し打ちでもスタンドに届くパワーがあるということだ。

 また、村上はパワーを活かして、構えた位置からほとんど身体の反動を使わずに(右足を軽く上げるだけで)、来た球に向けてバットを一直線に出す。この2つの打法が村上の特徴といえる。では、他の三冠王はどうか。

 は、有名な一本足打法で、大きく右足を上げて体重を左足一本に乗せ、そこから右足を踏み込んでいくことで体重移動を利用した大きな力を球にぶつけている。

 落合は、スイング前に左足を大きく外に踏み出し、下半身と上半身の捻転差を利用した回転力でバットを加速させている。

 松中は、王ほどではないが右足を高く上げる“半一本足打法”であり、振った後に上体が投手側、あるいは一塁側に大きく傾くほど体重移動を使っている。

 野村は引っ張り専門のプルヒッターであり、松中はセンター方向にも打つが、基本はプルヒッター。体重移動の力で打たない落合のみ広角打法といえる。

 カットボールのように、わずかにボールを変化させることでバットの芯を外す球(投手)が多くなった現代では、この落合流の打法の方が、球を呼び込めるので対応しやすい。その点、村上も体重移動に頼らない打ち方であり、22歳にしてすでにこの打法を身につけている。

史上No.1打者になるために…何が必要?

 村上は、過去の三冠打者に比べて、若さ、体格、パワーで勝っている。しかし、だからといって、数年後にプロ野球史上最高の打者になれるかといえば、ことはそう簡単ではない。

 王には、有名な天井からぶら下げた短冊を真剣で両断するという鬼気迫る特訓から生まれた「球にバットをぶつけて終わりではなく、バットで球を真っ二つに切り裂くイメージで振り抜く」という達人の技と集中力があった。

 野村には「不器用な自分が打つには、相手の配球を徹底的に研究して、次にどんな球が来るか、予測するしかなかった」という頭脳と研究心があった。

 松中には「インコースを引っ張った打球がファールにならないよう、腕を畳んで内側からバットを出し、球に右から左に曲がっていくように回転をかける打法を身につけてから打てるようになった」という、当時のダイエー王監督も「現代の打者にしては珍しく型を持っている」と唸った技術があった。

 落合には、天才としか言えないほどのミート力、バットコントロール力があった。

 過去の三冠王の数字を見ると、特に王と落合の成績が群を抜いているのがわかる。この二人に比べて、村上は、打率、三振数、出塁率、長打率、OPSで、差をつけられている。これからは持ち味の長打力を殺すことなく、いかにミート力を上げていけるかがカギになるだろう。

村上だから目指せる「打者の最終理想形」

 では長打力とミート力を両立させる「型」とは――。

 メジャーでは、エンゼルスのマイク・トラウトや、ヤンキースのジャンカルロ・スタントンが、「腕を畳んだまま、球にバットをゴンと当てるだけで、フォロースルーもあまりとらない」という日本ではあまり見ない打法で本塁打を量産している。体幹の強さによる桁外れのスイングスピードがあってこそ成り立つ打法だろうが、村上なら“ゴンとバットを当てるだけで本塁打”という、小さな動作で長打力とミート力を両立させる理想形に迫れるかもしれない。

 さらにもうひとつ、村上が成し遂げなければならないのが、怪我なく野球人生をまっとうする鍛錬と節制である。過去の三冠王たちは、いずれも長く現役を続けた。それぞれの引退年齢は、野村=実働26年・45歳、王=実働22年・40歳、落合=実働20年・44歳、松中=実働19年・42歳で、全員が40歳を超えるまでプレイしている。長く現役を続けなければ、通算成績で彼らを凌駕することはできないだろう。

 才能と体格に恵まれた村上が、武器となる型を身につけ、40歳を超えるまで活躍し続けられれば、“史上最高打者”の称号は自然とついてくるに違いない。大いに期待しよう。

文=太田俊明

photograph by L)BUNGEISHUNJU、R)Naoya Sanuki