学習塾の経営をする傍ら、日本サッカー協会登録仲介人としても活躍する“異色の代理人”富永雄輔氏が、今年8月に『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)を出版した。少子化の影響で現在のひとりっ子の割合は20%と言われているが、「ひとりっ子は不利」とされてきたサッカー界は今後この課題にどう向き合っていくべきなのだろうか。学習塾のアプローチからヒントを探る。全2回の2回目(#1から読む)

 時代が移ろい選手の価値観が変われば、指導する側も変わらなければならない――。

 頭ではわかっていても、それを実行するのは簡単ではないだろう。育成現場だけでなく、Jリーグでも多くの監督が適応に苦しんでいるという話をよく聞く。

 そういう新たな時代に参考になりそうなのが学習塾の視点だ。

『進学塾VAMOS』の経営と、大手代理人事務所『CAA Base』の日本担当という“二刀流”を実践する富永雄輔はこう語る。

「サッカーの指導と、塾の指導にはたくさんの共通点があると思います。トップの子どもたちに求められる資質も、どんどん近くなっている印象です」

 現在、『CAA Base』は吉田麻也、シュミット・ダニエル、板倉滉、田中碧といった日本代表選手を抱えており、藤本寛也、町田浩樹、田川亨介、荒木遼太郎、齊藤未月、半田陸などカタールW杯後に日本代表の主軸になりそうな選手たちも多く所属している。

 教育のエキスパートである富永に、新時代の指導法を聞いた。

根性論は、今の子どもには“絶対NG”

――子どもたちの価値観が大きく変化する中、教える側は何に気をつけなければならないと思いますか?

「絶対やってはいけないのは、ハングリーさの押しつけでしょうね。ハングリーさを植えつけようとしたり、負けず嫌いであるという前提で接したりすることは最大のNGです。

 あくまで僕の感覚なんですが、開成や渋谷教育学園幕張に進学するお子さんの家庭と、Jクラブのユースでプレーする選手の家庭は、世帯年収や家庭環境がかなり似てきていると感じています。実際、僕が経営する塾には『勉強とサッカーを両立したい』という子どもがたくさん来て、Jクラブのジュニアユースから慶應義塾に進学した子がいます。

 Jリーグのユースの試合に行くと、親御さんたちが外車で子どもたちを送り迎えしているのをよく目にします。昭和的なハングリーさをそういう子どもたちに求めても響きづらいでしょうね。教える側が根性論を前面に出すと、絶対に今の子どもたちは引きます」

――とはいえ、子どもたちには勉強して欲しいわけじゃないですか。どうやって勉強を促すのでしょうか?

「僕はサッカー選手にも、受験生にも、保護者にも、現在地を理解してもらうことから始めます。たとえば代理人として初めて選手と会うときに、絶対に甘い夢を持たせるようなことは言いません。それは会社からも厳命されています。代理人は一番そばにいる存在だからこそ、現実を教えなければなりません。

 現在の実力から考えられるMAXの目標を設定し、そこから逆算して今何をすべきかを話す。選手たちには『あなたのサッカー人生を最適化する代理人になります』と伝えています」

――選手を勘違いさせないわけですね。

「夢は大事ですが、明日の練習をさぼるような選手は大成できるわけがない。『とにかく明日の練習を120%でやってこい。大きな地図はこちらがしっかり描くから』と伝えています。

 寝てる間にうまくならないし、成績も上がらない。自分の手と足、頭を使わなければ何も変わらない。指導者の役目は、子どもたちが正しい方向に進める道を見つけてあげることだと思います」

――「ハングリーさを押しつけない」、「現実を理解させる」以外に、教えるときのポイントはありますか?

「できるだけロジカルに言ってあげることでしょう。単に頑張れとか、これをやれというのでは響かない。今サッカーでは、トレーニングの意味を気にする選手がすごく増えていますよね。

 受験勉強に関しても、昔は夜中までやった方がいいと言う人もいましたけど、今そう言う人は皆無でしょう。現代は休息の大切さが認知され、効率が大事にされています」

「ひとりっ子は行間を読めない」

――富永さんの著書『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)では、「ひとりっ子は行間を読む力が苦手」と書いていましたね。ロジカルに教えた方がいいのは、それも関係していますか?

「今は世代を超えた交流が減っており、コミュニケーション能力が落ちている印象です。影響を与えているのはLINEのスタンプだと思うんですよ。スタンプ1つで返せるのは楽ですが、将来それが使えないシチュエーションではどうするのか。言語化のトレーニングを積めるように、丁寧に教えてあげる必要があります」

――説明すれば理解してもらえるでしょうか?

「説得ではダメで、共感を持たれないとダメだと思います」

――どうすれば共感を得られるでしょう?

「子どもや若者と同じ体験をすることですね。たとえば、僕はもともとひげを生やしていたんですが、選手たちに紹介してもらってヒゲの脱毛に通っているんですよ」

――ハハハ、それはすごい。

「みなさんに笑ってもらっています(笑)。富永は自然に髪がなくなったのに、なぜお金をかけてひげの脱毛をするのかと。選手たちもネタにし、LINEで共有して盛り上がっていました。

 共感についてさらに言うと、代理人や指導者が前を走りすぎないことも大事だと思います。子どもたちと一緒に走っている姿を見せるべきです」

――引っ張るのではなく、伴走する時代だと

「僕は塾にいるときに時間があると、子どもたちと同じ問題を解きます。自分が教える科目じゃないと意外に解けないんですが、そうすると教えられる側の気持ちがわかるし、子どもたちがこちらを見る目も変わります」

――マンチェスター・ユナイテッドのエリック・テンハフ監督が、試合に負けた翌日に選手たちに約14kmの罰走を課した際、自分も一緒に走って話題になりました。

「指導の現場でよく罰走が問題になりますが、選手が走っている間に監督がふんぞり返っているから反感を買うんですよね。監督が一緒に走れば、チーム内のひとつのイベントになります」

大人が理解すべき「子どものたちの目標設定」

――子どもたちの目標設定について、変化してきている部分はありますか?

「一昔前は高校選手権に出て、J1で3年くらいやって、代表になって海外に移籍するというのが、わかりやすいサクセスストーリーだったと思います。でも今は自分の夢を達成するための最短ルートがあるなら、それを使うという子が増えている印象です。

 ともすると生き急いでいるようにも見えるんですが、そこに到達する努力をいとわない。昔は海外移籍が決まってから語学を勉強するのが一般的だったのが、今は海外移籍を見越して英語を勉強している子が多い。

 あと若い子は明らかに二兎も三兎も追います。勉強、スポーツ、芸術がクロスしてきており、僕は『ブレンド』と呼んでいるんですが、掛け持ちをする子どもが増えています」

――NumberWebの記事で、横浜FCに内定した明治大学サッカー部主将の林幸多郎選手が、同時に弁護士も目指すと語って話題になりました。

「そういう選手は増えてくるでしょうね。今の若い子は転職ありきで就職するじゃないですか。サッカー界もプロ入団が最初の会社に勤めるみたいな感覚になってきていると思います。

 普通の価値観を持っている選手が増えていて、スポーツ選手っぽくない。昭和的な無頼派の選手はかなり少数でしょう。ビジネスパーソンの考え方とスポーツ選手の考え方を両方持っている若者が増えています。僕を含めてサッカーに携わる大人はそれを理解する必要があると思います」

文=木崎伸也

photograph by Kiichi Matsumoto