球史に残る激闘ともいわれた日本シリーズも、オリックスが26年ぶりの日本一に返り咲き、今季のプロ野球公式戦も幕を閉じた。

 アマチュア球界も、社会人の「日本選手権」に、中旬から高校、大学の「明治神宮大会」があって、オフシーズンを迎えることになる。

 吹きわたる風もヒンヤリ感が増して、ちょっと前まで、暑い、暑い……と泣いていたのに、野球を追いかける夏からドラフトまでは、本当にあっという間に過ぎていく。

 その社会人・日本選手権の京セラドーム大阪。

 鷺宮製作所のエース・小孫竜二(25歳・179cm85kg・右投右打・創価大)の快投が続く。

 立ち上がりから、150キロラインを突破。ときに155キロ、156キロの数字をスコアボードに点灯させる。豪速球と同じかそれ以上の猛烈な腕の振りから、140キロ前後のスライダーとフォークで打者のスイングを崩して、NTT西日本打線につけ入る隙を全く見せない。

 10月20日のドラフト会議で、楽天2位。通算でも、16人目に指名された社会人球界有数の剛腕。ヤクルト1位指名の吉村貢司郎(東芝)に次いで、社会人投手では2人目に指名されている。

「中日さんが外れ1位でってウワサがあったので…」

 ネット裏には、様子を見守る3人の楽天スカウト。

 1位指名が2人獲れたようなものですね……と、水を向けたら、

「中日さんが外れ1位でっていうウワサがあったので、2位では持ってかれると思ってました。でも、中日さんが内野手(※明治大・村松開人を2位指名)にいってくれたんで、ほんとありがたいですよ」

 実際、東芝・吉村貢司郎投手以上の評価をしている球団も、いくつもあった……という話も伝わっていた。

 この大会の初日。バイタルネット相手に、1回戦を勝ち上がった東芝。エース・吉村投手は先発しなかった。

 ドラフト直後、この大会の選手起用は難しいと聞いている。指名された選手は、すでに半分は「預かりもの」。試合でケガでもされたら困るが、一方で、ドラフト指名されるほどの技量があれば、間違いなく「主力」の一員である。全国大会勝利のためには、欠くべからざる戦力でもある。

「来年の新戦力を使って、試してみたいっていう時期でもあるし。でもやっぱり、勝つにはベテランなんですよね」

 現場をあずかる指揮官の話だ。

「この大会だって、試合決めるタイムリー打ったり、いいピッチングしてるの、みんなベテランじゃないですか。そういう意味では、ものすごく心乱れるんですよ。(日本)選手権っていうのは」

ロッテ2位指名に「ウチも3位で考えていたのに…」

 ドラフト会議が終わって1カ月、心乱れているのは、プロ野球スカウトたちも、同じことのようだ。

 この日本選手権もそうだし、大学なら、明治神宮大会の予選にあたる大会がドラフトの後にもあちこちで行われる。

 そこには、今回のドラフトで指名された選手が何人も登場し、スカウトたちもそのプレーをあらためて目にする。

「ドラフトの前後で、印象が違って見える選手っていうのがいるんですよ、毎年、何人か。こんなやったかなぁって。ドラフト前に、もう何度も見て、自分なりにわかってるはずなんですけどねぇ……」

 それが毎年、不思議でしょうがないという。

「結婚して人が変わったとか、そういう節目っていうんですか……あるじゃないですか。ドラフトも節目には違いないと思うんですけど、指名されて自信持つのか、安心して肩の力が抜けるのか。グッとよく見える選手、いるんですよ。それが、ヨソの指名選手だったりすると、やっぱり、やられたなぁって、あるじゃないですか」

 たとえば……と挙げてくれたのが、天理大・友杉篤輝内野手(ロッテ2位、22歳・171cm70kg・右投右打・立正大淞南高)。快足と敏捷性抜群のフィールディングの遊撃手だ。

「ずいぶん早いなぁ……と思ったんです。2巡目の、それも3番目でしょう。頭から15人目ですから、1位とそんなに変わりない。ウチもそうですけど、3位で考えてたところ、結構多かったんじゃないですか? その『ちょっと早いなぁ』っていう感覚が、やられた!ってことなんじゃないかな」

 ウチも、もっと早くいかなきゃいけなかったんじゃないのか? それぐらい、いい選手だったんじゃないのか、じつは? そんな反問があとに残るという。

「実際、ドラフトの後で試合を見る機会があったんですけど、守りのスピードと精度が両立してる。スローイングの細かい部分でちょっと直したほうがいいなって、1カ所ありますけど、派手なプレーも堅実な守りもできる。走れて守れる選手は、代走や守備要員から実戦に食い込める。そこから打席のチャンスももらえるから、バットで勝負のタイプよりものすごく得なんですよ」

 11月2日、大阪市長杯争奪関西地区大学野球選手権。つまり、明治神宮大会・大学の部の「関西地区予選」である。

 その天理大と関西大との第2代表決定戦。友杉のファーストプレーだった。

 ショート後方にふらっと上がった小フライ。どん詰まりで滞空時間も短いその打球を、背走したまま向こう向きにキャッチした打球感覚の素晴らしさ。

 二塁手の左に飛んだゴロからのトスをセカンドベースをトップスピードで駆け抜けながら、一塁にストライクスロー。あっという間に併殺を完成させた一瞬のプレーの鮮やかさ……きっと本人も入団発表かどこかで、「ロッテの先輩の小坂誠選手のようなショートに」と言うかもしれないが、すでにして、現役当時の小坂遊撃手のスピード感そのもののプレーを体現できていた。

「他球団スカウトのタメ息が聞こえてくる」

 他球団の指名について、スカウトの方の話は続く。

「そりゃあ、キャッチャーですよ。うん、高校生ね。4位の最初のところで、山浅(龍之介・聖光学院高、中日指名)清水(叶人・健大高崎高、広島指名)が取られちゃったら、もういないんだ今年は。だって、出てないでしょ。その後に高校生のキャッチャー」

 そのスカウトの方は、ちょっと怒っておられるようだったが、後の話に、胸を突かれる思いがした。

「ドラフトっていうのは、真ん中らへんの順番でも、1人指名したあとに、よそが12人ぐらい指名するまで、次の番が回ってこない。今年のウェーバー順で最後のヤクルトだったら、2位・3位指名の後は、よそが22人指名するのを、指をくわえて見てるわけですよ。ウチだって、地区担当のスカウトがいるわけだから、よそが誰かを指名するたびに、その選手を担当していたスカウトのタメ息が聞こえてくる。スカウトの“夢”が1つずつ消えていく時間。これは、結構辛いものありますよ……どこもそうでしょうけどね」

 何年もかけて追いかけ、試合に、練習に、何度も足を運んだピッチャーが、バッターが、ただひと言のアナウンスで、「他球団のもの」になっていく切なさ。

 ドラフトが始まったのは、もう60年ほども前の1965年になる。

「今はもう、選手どころか、スカウトだって、生まれた時からドラフトがあった世代だから、制度そのものをどうこう言う時代じゃないし、今さら自由競争なんてありえないけどね。自分たちが指名するのは、毎年せいぜい7、8人。逆に60人も70人も、よそに取られる。ドラフトって、どこかが誰かを獲った……しか伝えられないけど、その反対側で、よそが誰か1人を指名した瞬間に、そのたんびに、どこかのスカウトの夢が1つずつ消えていく。こういう仕事をしている現場の自分たちにとっては、それもドラフトなんだよね」

文=安倍昌彦

photograph by KYODO