発熱により日本代表への合流が遅れたMF三笘薫。コンディションが懸念されるが、敵を圧倒する「個の力」を持つ三笘は、カタールW杯を戦う日本代表のキーマンであることは間違いない。

 所属先のブライトンでは、10月29日の国内リーグ・チェルシー戦から直近3試合で2ゴール、1アシストと大活躍を見せた。W杯が近づくにつれ、ブライトンで調子を一気に上げてきた印象だ。

 では、それまでベンチスタートが続いていた三笘が、突如覚醒した理由は一体どこにあるのだろうか。

 もちろん、三笘自身の成長は大きい。今年7月にブライトンに合流し、8月のプレミアリーグ開幕から約3カ月が経過した。三笘がクラブに慣れ、チームメートも日本代表の特長や活かし方を覚えたことで、自身の力を発揮できる環境が整った。

 さらに、チェルシー戦ではレギュラーCFのダニー・ウェルベックが急病で欠場し、三笘に先発のチャンスがまわってきた運もあった。こうした運を引き寄せることもプレミアリーグを戦う上で大事な要素になるが、三笘によればチェルシー戦の前から「先発組でも練習していた」という。

 しかも、負傷した右足首の痛みが消えず、痛み止めを服用しながらプレーしていることも明かしている。足首の状態が万全ではない中で、覚醒した理由はどこにあるのか。

 主因として真っ先に挙げられるのは、9月に就任したロベルト・デ・ゼルビ監督の存在だ。三笘を先発に抜擢し、自身の戦術に日本代表アタッカーの特性をうまく組み込んだのは、このイタリア人指揮官に他ならない。デ・ゼルビ監督が三笘のストロングポイントをうまく引き出していると言えよう。

「チームとしていいから、自分も特徴を出している」

 実際に三笘自身も、ブライトンの戦術が自身の好調につながっているとの認識を示している。

 三笘にとってW杯開幕前、最後の公式戦となったリーグ杯のアーセナル戦。試合後の取材エリアで「ブライトンで活躍しているが、相当の自信を持って代表に行けるか」と質問が飛んだ。三笘は「いや、そうではなくて」と否定し、次のように言葉をつないだのである。

「やっぱり、チーム(ブライトン)としていいから、自分も特長を出しているだけです。代表になると、まったく変わってくる。出力の部分だったり、役割も変わってきます。ブライトンでやっているままプレーしてしまうと、代表ではうまくいかないとは思っています」

デ・ゼルビの戦術とは?

 デ・ゼルビの就任当初から、三笘が頻繁に口にしているのが「チームとしてビルドアップの形が決まっている」ということ。

 9月の就任当初からデ・ゼルビ監督は、日々のトレーニングでビルドアップと攻撃のパターンを繰り返しているのだ。ルーティーンワークとして行なうことで、自身の戦術と考え方をチームに落とし込んでいるのである。

 ブライトンの基本形は4-2-3-1になるが、最後尾のGKからビルドアップを開始すると、チームはフォーメーションの形を変える。「1トップのCF」と「トップ下」が真横に並び、最終ラインがCBの2枚だけになる「2-4-4」に変形。さらにセンターライン付近までボールを運べば、2-3-5に形を変える(図1)。

 いわゆる、ボールの位置によって陣形を変える「ポジショナルプレー」と呼ばれるもの。4-2-3-1の左MFを主戦場とする三笘も、当然ポジション取りを変える。2-3-5に変形すれば、最前線「5」の位置でポジションをやや中寄りに移すのである。

 チームの狙いは、ボールを保持しながら前へ前へボールを運ぶこと。フォーメーションの形を変えることで、相手陣形とのギャップを作り出し、局面局面で数的優位を作りながらボールを前方に進める。

アーセナル守備陣が食いついたところを見逃さず…

 その際、ポイントになるのがサイドアタックだ。

 例えば、アーセナル戦で奪った三笘の得点シーンでは、後方部からビルドアップを開始した。ボールを右サイドに展開し、攻撃のギアを上げていく。するとアーセナルはブライトンを潰そうと、守備の重心を左サイドに移した(動画の5:54頃から)。

 ブライトンは、アーセナル守備陣が食いついてきたところを見逃さず、マークの薄い逆サイドにボールを展開。逆側の左サイドにいた三笘がフリーでボールを受け、きれいにゴールを決めたのである。

 今一度このゴールを振り返ると、GKのパスから、スコアラーの三笘まで実に16本のショートパスをつないでゴールを奪った。その間、右サイドを経由してアーセナルの守備重心を移動させ、最後は三笘をフリーにしてゴールを決めたのだ。

 デ・ゼルビ監督が「美しかった」と自画自賛する三笘のゴールは、指揮官の狙いが結実した得点だったのだ。イングランドのサッカーファンは、こうしたブライトンの華麗なパス回しを「デ・ゼルビ・ボール」の表現で讃え始めている。

 思い起こすと、三笘が決勝ゴールの起点となったウルバーハンプトン戦の3点目も、似たような流れから生まれた。

 チームが右サイドで攻撃の形をつくり、敵の守備陣を食らいつかせたところで、三笘のいる逆サイドに展開。相手DFと1対1になった三笘がドリブルで突破し、ゴールに結びつけた。

 もちろん、三笘のいる左サイドで攻撃をつくり、逆側の右サイドで仕留めるケースもある。デ・ゼルビ監督は「ウインガーのミトマとソリー・マーチが、相手と1対1の状況をいかに多く作るか。それが大事なんだ」と話していたが、指揮官の狙いは先述したとおりだ。高度な戦術の中で、三笘の強みを引き出していると言えよう。

 3ゴールに絡んだウォルバーハンプトン戦後、チームのポジショナルプレーについて、三笘は次のように話している。

「『中にも入ってプレーしてくれ』と言われています。これは練習でもやっているので。外でも中でも、どちらもやらないといけない。ボールの動かし方は全部練習している。そういう形を作っていくのは、チームとして取り組んでいることです」

選手配置の妙も、好調を維持している理由の1つ

 選手配置の妙も、三笘がブライトンで好調を維持している理由である。

 三笘が左サイドでコンビを組むのは、抜群の運動量を誇るSBペルビス・エストゥピニアン。三笘が中寄りにポジションを移せば、エストゥピニアンはオーバーラップで大外を駆け上がる。あるいは三笘が大外に移れば、今度はエストゥピニアンがインナーラップでひとつ内側のレーン、つまりハーフスペースを突く。試合前、2人はポジション取りで頻繁に意見交換していることもあり、試合を重ねるごとに連係が良くなってきた。

 そして三笘の後方にいるのは、守備範囲の広いMFモイセス・カイセド。ボール奪取に長ける守備的MFカイセドが控えることで、三笘も「なるべく高い位置でポジションを取れと言われていますが、後ろにカイセドがいる分、前に行きやすい。その恩恵はすごく受けています」とやりやすさを強調している。

 SBエストゥピニアン、守備的MFカイセドという2人のエクアドル代表が三笘の脇をしっかりと締め、支えているのである。

 三笘が覚醒した背景には、こうしたデ・ゼルビ監督の戦術──ポジショナルプレーと選手配置──が大きく影響しているのだ。

日本代表で“ブライトン戦術採用”は難しいワケ

 では、W杯の日本代表が同じようなシステムで戦えるか。結論から言えば、難しいだろう。そこには複数の要因がある。

 まず、ポジショナルプレーの構築には相応の時間が必要だ。

 毎日トレーニングを行えるデ・ゼルビ監督であっても、攻撃を機能させるまで1カ月以上の時間を要した。無得点に終わったブレントフォード戦(0-2●)、ノッティンガム・フォレスト戦(0-0△)では決定機を作れず、「いまだ連係構築中」の印象を残した。

 マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督も「3週間程度の時間でポジショナルプレーを完成させるのは難しい。時間が足りないからだ。招集から試合まで2〜3週間しか時間のない代表チームでは、それは相当難しい。ひとりでもポジショナルプレーを理解していない者がいれば機能しないからだ」とその難しさについて語っている。

リスクを伴うサッカーである点も無視できない

 また、リスクを伴うサッカーである点も無視できない。ブライトンではサイドバックが高い位置にポジションを取り、最終ラインのCB2人だけでビルドアップを開始する。当然、途中でボールを奪われたら、失点に直結するリスクを抱えることになる。

 実際にリーグ戦のブライトンは、マンチェスター・C戦(1-3●)、チェルシー戦(4-1○)、ウルバーハンプトン戦(3-2○)、アストンビラ戦(1-2●)と、失点の多さが目立つ。ドイツ、スペインの強豪と同組に入った日本代表が、同じ戦い方で挑むのはリスクが高すぎるだろう。そもそも自陣で守備ブロックを敷き、慎重な入り方をするであろう日本とは、アプローチの仕方がまるで違う。

 こうした一連の理由から「ブライトンで活躍しているが、相当の自信を持って代表に行けるか」の問いに、三笘は「いや、そうではなくて。代表になるとまったく変わってくる」と強い口調で返したのである。

 17日に行われたW杯前最後の強化試合カナダ戦。日本代表は相馬勇紀のゴールで先制したものの、セットプレーから同点に追いつかれ、試合終了間際にPKを与えて1−2で敗戦した。日本代表の森保一監督は、W杯で三笘をどのように活かすのだろうか。指揮官として、戦術の引き出しと力量が大いに問われるはずだ。<つづく>

文=田嶋コウスケ

photograph by Kiichi Matsumoto