フィリップ・トルシエにカタールW杯における日本代表の展望と大会全体の展望を聞いたのは、大会が始まる数日前の11月15日のことだった。本来であればトルシエは、この時期、日本にいるはずだった。グループリーグの期間を日本で過ごし、セカンドラウンド以降はカタール協会の招きで現地へ。そして大会後にはベトナムを訪問するのが当初の予定だった。

 ところが、長い間完治しなかった膝がさらに悪化し、ついに手術をしなければならない事態に。予定をすべてキャンセルし、手術に臨んだのは大会が始まってからだった。手術そのものは成功したが、術後もしばらくの間は飛行機による移動は禁止された。来日はもちろんカタール行きも難しい。ただベトナムは、ベトナム協会と今後のことを話し合うために、いずれ訪れなければならないのだが……。

 ただしフランスにいても、W杯のすべての試合を彼は見ることができる。もちろん試合の後にインタビューに応じることも。カナダ戦後のインタビューでも記したように、カタール大会でもロシア大会同様にトルシエのインタビュー連載を掲載する。

 興味深いのは、カタールの不振など大会前の彼のコメントの一部が、現実になっていることである。それでは日本代表に関してはどうなのか。トルシエの分析と展望を3回にわけてお届けする。まずはその第1回から。(全3回の1回目/#2へ)

日本代表は2つのグループに分けられる

——日本代表の26人のリストはご覧になりましたか?

トルシエ 最初の印象は、チームが幾つかのグループに分けられることだ。第1のグループは試合を始める選手たちで、経験豊富な15〜16人ほどで構成されている。彼らがスタメンを構成する選手でもある。つまりGKは権田(修一)でDFラインは酒井(宏樹)、吉田(麻也)、冨安(健洋)、長友(佑都)。板倉(滉)も入るかも知れないが、彼らが試合をスタートさせる選手であることは誰もがわかっている。中盤では遠藤(航)と守田(英正)、鎌田(大地)。それから田中(碧)と柴崎(岳)も……。前線では伊東(純也)、浅野(拓磨)、南野(拓実)、堂安(律)、久保(建英)……。

 日本がどういう陣容と構成であるかはすでに分かっている。それはW杯最終予選を通して構築されたチームであり、苦しい戦いを戦い抜いたチームでもある。予選はスタートで躓き態勢を立て直さねばならなかった。だが彼らは決して恐れを抱かなかった。ハンディキャップを背負ったにもかかわらず突破争いに復帰した。だがそれは、ほぼ15〜16人の選手たちだけで成し遂げられたことも誰もがわかっている。だからこのリストで最初に目にするのは、そんな予選を戦った選手たちだ。

 2番目のグループは、チームの戦略を変えることのできる選手たちで攻撃陣に多い。思うにリストは少しバランスを欠いている。とりわけ中盤がそうで、多くの選択肢があるわけではない。守田、遠藤、鎌田、柴崎、田中……。もし遠藤と守田が怪我をしたら、また守備では吉田や冨安、板倉が怪我をしたら、代わりになる選手が谷口(彰悟)くらいしかいない。層は厚くはない。

 2番目のグループに関しては、攻撃陣は伊東と浅野、南野で試合をスタートできるし、久保や堂安、前田(大然)、三笘(薫)らで試合を終えられる。試合を終えるための駒は多彩で、攻撃のポテンシャルはとても高い。そしてリストの最後のグループは出場機会のほとんどない選手だ。町野(修斗)や相馬(勇紀)、上田(綺世)、伊藤(洋輝)……。若く有望なうえに、チームに加えても問題を起こさない選手たちだ。

 たしかに旗手(怜央)のような選手は興味深いが、もしかしたらどこかに問題があったのではないか。柴崎はプレーをしてもしなくともその経験をチームに伝えられる。森保(一)はそういう選手を選んだのだろうと私は推測する。柴崎の最近のパフォーマンスが決して良くはなくとも、彼がいることがチームの保証になる。結果が必要なときに、柴崎が遠藤や守田の後ろでベンチに控えることが、グループに安心感を与えるのだろう。彼のような選手がチームに保証と安定をもたらしている。

大迫の不在に不思議はない

——攻撃に関しては、森保監督が就任から使い続けてきた大迫(勇也)と原口(元気)のふたりを外したのは大きな驚きでした。

トルシエ 大迫はそう不思議ではない。大迫はアジアで戦うにはとても貴重な戦力だ。日本がボールを保持し、ゲームを支配したときは彼の強さが生きる。ボールを60%支配した戦いで彼の起用は納得できるが、W杯はドイツやスペインとの戦いであるのを忘れてはならない。力関係では日本が劣っている。アクションよりもリアクションのスタイルになる。守備も固めねばならず、ボールを保持しての攻撃は難しく、スピーディで素早い攻撃が頼りとなる。だから森保は三笘や前田、伊東、久保といった選手を選んだのだろう。個の力があり、素早い攻撃ができる選手たちだ。大迫が選ばれなかった理由もそこにある。

——9月の2試合で森保監督は、初戦のアメリカ戦と次のエクアドル戦ではメンバーをすべて入れ替えました。アメリカ戦がAチーム、エクアドル戦がBチームといえる陣容です。本大会はドイツ、コスタリカ、スペインの順で、すべてを同じスタメンで戦うのは厳しいと判断してのことでしょうか。疲労も出てくるし、コスタリカ戦は引いて守る相手から点を取らねばならないことも想定できます。グループ全体で3試合をトータルに戦うことを考えているのでしょうか?

トルシエ アメリカ戦とエクアドル戦は、選手のリスト作成のための試合であったと思う。森保は選手たちを把握している。ドイツ戦に誰を先発させるかは、すでに彼の頭の中にある。私たちもまたどんなスタメンになるかわかっている。

日本代表は十分に経験を積んだ

 繰り返すが経験豊富な成熟したチームだ。ドイツ戦は権田に酒井、冨安、吉田、長友、守田、遠藤、鎌田、伊東、浅野、南野で臨むだろう。たしかに南野は調子を落としているが、彼が優れた選手であるのに変わりはない。ドイツ戦には彼の復調が必要だ。相手に恐れを抱くことなくボールを保持する能力が。そして森保は、ドイツに勝つために前田や堂安、田中、三笘、久保らを試合途中で起用することができる。中盤では柴崎を投入できる。それがドイツ戦の日本だ。

 つまりアメリカ戦やエクアドル戦はスタメンを決めるための試合ではなかった。森保のなかでそれはすでに固まっており、エクアドルとの第2戦は久保や堂安らを信頼していることを、森保がメッセージとして発した試合だった。あの2試合は、日本が何かを発見するための試合ではなかった。森保はすでにチームを把握しているからだ。選手にメッセージを与え、彼らにプレーする時間を与えるための試合だった。

 ただこの2試合を通じて、森保は誰が左ウィングとして適任かといったディテールを決めたかも知れない。南野のポジションは彼でなければ相馬にするのかそれとも三笘にするのか。中盤には原口や旗手が使えるのか……。そういった決断を彼はあの2試合でしたかも知れない。選手にプレー時間を与えて信頼感を示す試合であったと同時に、まだリスト入りが決まっていなかった3〜4人を選ぶための試合でもあった。あの2試合はメンバー選考のためにあったと言える。

<#2に続く>

文=田村修一

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