世界最高峰プレミアリーグでサラー、ソンフンミンら相手エースをことごとく封印し、日本代表でも守備の要として期待がかかる冨安健洋(アーセナル)。イングランドではどんな評価を受けているのか?  現地在住の日本人記者がひもとく。(全4回の#1/#2「久保建英のスペイン現地評」、#3「スペイン代表の現地評」、#4「堂安律の現地評」へ)

「トミは選手としてトップクラスのプロフェッショナルで、最終ラインに安定感をもたらした。優れた守備力だけでなく、我々の求めるプレーへの理解度も高い。適応力が秀逸だ。アーセナルへの貢献は高い評価に値する」

 日本代表DF冨安健洋をこう手放しで褒め称えるのは、アーセナルを率いるミケル・アルテタ監督である。ビッグクラブでひときわ存在感を放っている冨安について、40歳のスペイン人指揮官は、質問を受ける度に称賛の言葉を送っている。世界最高峰プレミアリーグで首位を走るチームの主軸として貴重な戦力になっていると評していいだろう。

エースキラー・冨安は何がスゴいのか?

 特に今シーズンの冨安は、エースキラーの役割をまっとうしている。相手チームのエースを封殺する役割を見事に果たしているのだ。

 特筆すべき冨安のストロングポイントは2つある。ひとつは「1対1の守備力」だ。チームメートのMFエミル・スミスロウが「練習で誰もトミを抜けない」と舌を巻くように、冨安が敵のアタッカーにドリブルで突破される場面はほとんどない。フィジカル、スピード、ポジショニングの良さを生かしたディフェンスを、アルテタ監督も高く評価している。

 もうひとつが「ユーティリティ性」だ。指揮官が「日本代表ではCBとしてプレーしているが、右SBと左SBもこなすことができる。どちらが利き足か分からないほど両足をうまく使える」と絶賛するように、複数のポジションでプレーできる万能性は大きなストロングポイントである。味方の選手交代に伴い、試合中に右SBから左SBにポジションを移すことも珍しい光景ではない。

 こうした2つの特性を持つ冨安を、アルテタ監督は相手チームのエースを抑えるキーマンとして最大限に活かしてきた。日本代表DFへの絶大な信頼は起用法からも見て取れる。

サラー、ソン・フンミン封印の裏に“冨安の起用法”

 例えば強豪リバプールとの一戦では、エジプト代表FWモハメド・サラーを封じるため冨安を左SBで起用した。それも、左SBを本職とするスコットランド代表DFキーラン・ティアニーをベンチスタートに追いやって、である。

 冨安は期待に応えてサラーとの1対1や空中戦をことごとく制し、昨季リーグ得点王を零封した。アーセナルが3−2で白星を挙げたこの一戦で、冨安は間違いなく勝利の立役者だった。

 欧州リーグのPSV戦(ホーム)では、逆側の右SBでプレーした。最大のタスクは、またしてもエース封じ。オランダリーグの得点王ランクで首位につける同代表FWコーディ・ガクポとのマッチアップを制し、堅牢な守備で完封勝利に貢献した。冨安は189センチの長身ガクポに空中戦で競り負けることなく、攻撃の柱を完全に潰したのである。

 昨シーズンを振り返っても、右SBとしてマンチェスター・Cのラヒーム・スターリング(イングランド代表=現チェルシー)とトッテナムのソン・フンミン(韓国代表)を封印。対する左SBでもリーズのラフィーニャ(ブラジル代表=現バルセロナ)を完璧に封じた。いずれも、マッチアップしたのは相手の「崩しの切り札」である。エースアタッカーのプレー位置に合わせ、冨安を左右両サイドへ振り分けることで、アルテタ監督は相手の攻撃力を半減させてきたのだ。

 こうした冨安の守備能力を、英サッカーサイト『アスレティック』も高く評価する。プレー分析に定評のある同サイトは、日本代表DFを次のように評する。

「冨安のディフェンスは非常に印象的だ。相手選手に果敢に飛び込んでいくのではなく、マーカーとボールの間に、素早く、シンプルに自身の体を入れる。そうすると、188センチの長身を誇る冨安から、マーカーはボールを奪い返せない。冨安はボールを奪って味方にパスをつなげたり、あるいはゴールキックに逃げたりする。SBとして、アーセナルの最終ラインに抜群の安定感をもたらした」

「冨安SB 起用」もオプションに?

 カタールW杯を戦う日本代表でも当然、冨安の堅牢なディフェンスは大きな力となる。

 日本代表では本職のCBとして出場する可能性が高いが、プレミアの「エースキラー」としてデュエル、空中戦にことごとく勝利してきた冨安の守備能力は、CBとしてもいかんなく発揮されるはずだ。ラインの背後にスルーパスを出されても抜群のスピードでカバーし、的確なフィードで攻撃のリズムを作ることができる。最終ラインの防波堤として、またビルドアップの起点としても、存在感を見せつけるだろう。

 もし森保一監督に勝負師の顔があるなら、冨安を「相手ウインガー封じ」としてSBでぶつけることもできる。これまでの慎重な采配から考えれば、森保監督が大胆な選手起用を見せる可能性は低いが、冨安がいればこうした思い切ったプランも可能となる。試合終盤のオプションとして、「冨安SB起用」のカードがあるのは90分を戦う上で心強いはずだ。

相次ぐ怪我を乗り越えて…いざ初W杯へ

 唯一不安があるとすれば、過去1年苦しんできた怪我である。カタールW杯までの1年間は、筋肉系トラブルとの戦いでもあった。

 度重なる怪我にアルテタ監督も慎重になり、今シーズンの序盤戦は冨安の起用を途中出場に限定した。その中で冨安はゆっくりと出番を重ね、体がフィットした10月9日のリバプール戦で今季リーグ戦初先発を果たした。

 この試合でサラーを封殺する大活躍を見せたのを皮切りに、6試合中5試合で先発。ようやくフルスロットルで稼働し始めたが、リバプール戦から約1カ月後の欧州リーグ・チューリッヒ戦(11月3日)で右太もも裏の怪我を再発した。73分から途中出場したこの試合で、突然ピッチに座り込み、15分後の88分に無念の交代となった。

 交代時の冨安は、非常に悔しそうだった。ピッチの外に出てゴール裏から歩いてベンチに戻ったが、途中ユニホームをめくり上げて口元を抑えたり、首を横に振ったりして、終始険しい表情だった。引き上げる際にメインスタンドから「スーパー、トミ」とチャントが歌われたが、いつもなら拍手で応える冨安も、この日ばかりはうつむいたままベンチに引き上げた。復帰と故障を繰り返してきた悔しさは、本人が一番、感じていることだろう。

 それだけに初戦のドイツ戦に向けて代表の全体練習に復帰できたのは、冨安にとって、そして日本代表にとっても間違いなく朗報だ。

 プレミアリーグで一回りも二回りも成長し、首位を快走するアーセナルの原動力となった冨安。「日本代表でプレーできることをいつもうれしく思っている」と語っていた冨安には、W杯の舞台で最高のパフォーマンスを披露してほしい。

 <#2「久保建英の現地評」につづく>

文=田嶋コウスケ

photograph by Kiichi Matsumoto/JMPA