今夏のレアル・ソシエダ移籍後、ラ・リーガで安定したパフォーマンスを見せてきた久保建英。そのプレーの何が変わったのか。また日本が番狂わせを起こすカギとして、スペイン人記者が「クボの意外性」を挙げる理由とは?〈翻訳:工藤拓〉(全4回の#2/#1「冨安健洋の現地評」、#3「スペイン代表の現地評」、#4「堂安律のドイツ評」へ)

「タケ・アル・クボ」

 サン・セバスティアン(レアル・ソシエダの本拠地)で過ごした5カ月弱の間に、タケ・クボはまるで指数関数のような成長曲線を描いてきた。

 冒頭のフレーズは、そこから思いついた言葉遊びだ。

 スペイン語には、何か良い物事に「al Cubo(〜の三乗)」と添えることで、さらに3倍良くなったとする表現がある。まさしく今のクボは、加入時の3倍は良い選手に変貌したと感じるのだ。 

ソシエダ移籍後、なぜ好転したのか?

 今季のクボは過密日程をものともせず、素晴らしいフィジカルコンディションを維持してきた。全体練習を休むことはほとんどなく、ニコシアでのオモニア戦で肩を脱臼するまで全試合に出場。直後の試合で肩の痛みを抱えながらも出場を直訴したというエピソードは、彼の不屈の精神力をよく表している。

 ピッチ上では好不調の波がなくなってきた。以前は単発的に良いプレーを見せる反面、試合から“消える”時間が長かったが、今では常にプレーの中心にいることを望み、より頻繁にボールに関わるようになっている。

 この点については、プレー環境の変化が少なからず影響していると考えるべきだろう。

 これまで所属した他チームでは、常に攻撃の中心であることが求められた。ほとんど全ての攻撃がクボを介して組み立てられ、彼の調子が悪ければダイレクトにチームの攻撃も機能しなくなってしまった。クボ自身、チームを勝たせるんだと気負うがゆえ、結果が出ないたびにフラストレーションを溜め込んでいるようにも見えた。

 それが攻撃面での責任をミケル・メリノやブライス・メンデス、ダビド・シルバらと分け合うことができるラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)では、気負わず落ち着いて自分のやるべき仕事に専念できるようになった。その意味で、日本代表の監督も彼の能力を最大限に引き出せるよう、選手の組み合わせを考慮すべきだろう。

サイドで飛躍。守備も格段に成長

 中央のポジションでしか輝けないと言われていたクボが、ポリバレントな選手に豹変したことは驚きだった。加入時点では誰も想像していなかったことながら、今では左サイドでも右サイドでも、2トップの一角としても高いパフォーマンスを発揮できるようになった。日本代表の監督はこの点も頭に入れておくべきだ。

 さらには守備面でもたくましさを身につけた。

 現代フットボールでは、ポジションを問わず守備面のタスクを全うするためのタフさが求められる。苦しんだ時期を経て、ボール扱いの名手であるだけでは足りないことを学んだのだろう。声を張り上げて要求し続けるイマノル・アルグアシル監督の期待に応え、クボは球際でも戦える選手に成長した。

 それではドイツ、コスタリカ、スペインと対戦するワールドカップで、クボは難敵相手にどのような脅威をもたらすことができるのか。

スペインを苦にしない“久保の特性”

 鍵の1つはプレッシングにある。

 プレー強度、機動力ともに磨きのかかった今季のクボは、イマノルが求める高い緊張感を保ちながら、相手のビルドアップを阻むべく前線を駆け回り続けている。

 とりわけGKを追い込むプレッシングについては、今やラ・リーガでも指折りのプレーヤーとなった。二輪車のように力強く、ナイフのように鋭く圧力をかける彼のプレッシャーに手を焼いたGKは1人や2人ではない。第6節エスパニョール戦でGKアルバロ・フェルナンデスからボールを奪い、アレクサンダー・ソルロートのゴールをアシストしたシーンはその最たる例だ。

 取るに足らないことだと思われるかもしれない。だがワールドカップのような短期決戦の大会では、あらゆるディティールが明暗を分ける。1つのミスが早期敗退のきっかけとなることも十分にあり得るのだ。

 しかもスペインの守護神ウナイ・シモンは、その手のプレッシャーを苦手とするGKだ。彼は足元でパスを受けた際、判断の遅れから危険なミスを犯すことがある。そのタイミングで素早くプレスをかければ、何が起こり得るのか。ラ・リーガでプレーするクボは、そのことをよく知っているはずだ。

 2つ目の鍵は、スペースへ抜け出すデスマルケ(マークを外す動き)だ。

 ラ・レアルは攻撃時に複数の選手が連動し、味方が作ったスペースへのフリーランを繰り返している。クボもそのような攻撃に加わる中で、スペースに抜け出してパスを引き出すプレーを学んできた。

 スペインの守備陣は、アンカーを務めるセルヒオ・ブスケッツの背後を取られると脆さを露呈する傾向がある。まさにそのようなプレーを日々イマノルから求められているクボは、今季のバルセロナ戦でもブスケッツの背後のスペースに抜け出してマークを引きつけ、アレクサンデル・イサクのゴールをお膳立てしている。

番狂わせの鍵は「久保の意外性」

 逆にスペインが日本戦でボールを独占するためには、第一にクボからボールを取り上げなければならない。これまでプレッシング、デスマルケといったクボの新たな強みについて述べてきたが、彼が持つ最大の脅威はボールを持った際のクオリティーの高さに他ならない。

 ひとたびボールを持てば、どこから突破してくるのか、何をするのかも分からない。ライバルはもちろん、見る者をも驚かせる意外性に満ちたプレーこそ、日本が番狂わせを起こすための最大の鍵となるはずだ。

 スペインは中盤から2列目にかけては世界屈指のクオリティーを誇るが、最終ラインは人材、組織力とも盤石ではない。とりわけスピードを生かした攻撃を仕掛けるライバルを苦手とするだけに、クボは本職のトップ下はもちろん、サイドから中央に走り込む形でも危険を作り出すことができるだろう。

 今のクボは中央のポジションでしか輝きを放てない選手でも、守備面でハードワークできないと批判されていた選手でもない。7月にラ・レアルの一員となって以降、彼は守り、攻め、フットボールを生み出す穴のない選手となった。

「ここでの4カ月がなければW杯には行けなかった」

 わずか4カ月のうちに、これだけの進化を促したイマノルの功績は讃えるべきものだ。想像して欲しい。彼の指揮下でこの先4年間プレーした後、果たしてクボはどんな選手に成長しているのだろうか。

 もちろんこれだけの急成長を遂げる上で、クボ本人の努力があったことは間違いない。実際、クラブ関係者は口を揃えて彼のプロ意識の高さ、チームへの献身性を讃えている。

 ラ・レアルとは長期契約を結んだが、ワールドカップに出場するためには短期間で結果を出す必要があることを意識していたのだろう。クボは先日、クラブメディアのインタビューでこんな言葉を口にしている。

「ラ・レアルのチームメート、監督やスタッフに感謝したい。正直、ここでの4カ月がなければワールドカップには行けなかったと思うから」

 タケ・クボからタケ・アル・クボへ。新天地で飛躍のきっかけをつかんだ彼は、心身ともに素晴らしい状態でワールドカップを迎える。日本代表はカタールの地で、サンセバスティアンで培った日々の成果を享受することになるはずだ。

<#3「スペイン代表の現地評」につづく>

文=ロベルト・ラマホ/ディアリオ・アス

photograph by Kiichi Matsumoto