11月23日に行われるドイツ戦に向けた最後のトレーニングを終え、ミックスゾーンに姿を現した久保建英、守田英正、板倉滉は奇しくも同様のコメントを口にした。
「やれることはやったんで。24時間切っていますけど、あとは個人としていい準備をして、誰が出ても最善の結果を残せるようにしたいなって思います」
久保がそう語れば、守田、板倉も続く。
「やるべきことはやってきましたし、ぶつけるだけかなと思います」(守田)
「できることは本当に全部やっているという印象がある」(板倉)
彼らの言葉からは、19日以降4日間のドイツ戦に向けたトレーニングがいかに充実していたかが伝わってくる。
谷口「すごくいい準備ができている」
やるべきこと、できることのひとつがドイツ代表の特徴であるゲーゲンプレスへの対策であることはすでに前々回のコラム(#3)に書いたが、もちろん、それだけではないだろう。
後方からのビルドアップ・速攻・ゴール前の崩しの精度を高め、ハイプレスとミドルゾーンでのブロックの使い分けを共有し、攻守のセットプレーを磨くなど、チームとして細部まで詰めていることが想像できる。
大言壮語めいたことを口にしない谷口彰悟も、力強い言葉を残している。
「トレーニングでは本当に試合を想定して、すごくいい準備ができていると思います」
ドイツ人記者にスタメンを聞かれた森保監督は…
そこで、気になるのはドイツ戦のスタメンだ。
17日に行われた親善試合のカナダ戦前日には先発予定の選手を次々と明かした森保一監督も、さすがに本番前にはそんなリップサービスはしなかった。
ドイツ戦前日の記者会見でドイツ人記者に翌日のスタメンを聞かれると、笑みをこぼし、こう答えるにとどめた。
「明日の試合を楽しみに待っていただければな、と思います。勝利を目指すうえでベストメンバーを選んで試合に臨みたいと思います」
また、先発メンバーにはもう伝えているのか、という質問に対しては、こう応じた。
「選手たちはトレーニングのなかで、先発に関してはほぼ分かっていると思います。ただ、相手の情報によって変わるかもしれないということもチーム全体で共有しながら準備を進められている」
GKは権田、最終ラインは板倉が先発なのでは
GKは権田修一の先発が濃厚だ。権田もドイツ戦前日のミックスゾーンに登場したが、「(アルゼンチンを破った)サウジアラビアはあれだけラインを高く取っていた。僕らにとってヒントになる」「今大会はアディショナルタイムが長い傾向があるが、最初から想定していれば問題ない」「ボールを奪ったあと、どこにスペースを見つけるのか」などと言葉に具体性があり、自身が出場することを前提に話しているように感じられたからだ。
ディフェンスラインは右から酒井宏樹、板倉、吉田麻也、長友佑都と予想する。
なかでも注目すべきはセンターバックだが、板倉が先発する可能性の高さは、例えば彼のこんな言葉から窺える。
「前日にこうやっていい状態に持ってこられたのが素直に嬉しい。ケガをしたときから、ここ(W杯)の1戦目というのは目標にしていた。すごくいい状態でW杯の初戦を迎えられるのは嬉しい」
冨安健洋も21日のトレーニング後、「もともとドイツ戦に間に合わせるために準備をしてきた」と語っていたが、彼が負ったハムストリングのケガは無理をすると再発の危険性もある。ここはカナダ戦でケガからの復調をアピールした板倉が先発するのではないか。
果たして遠藤とボランチを組むのは誰か
最も悩ましいのがボランチである。
11月8日に行われたシュツットガルトのゲームで相手選手と激しく接触し、脳震とうを起こした遠藤航は回復プロトコルを終え、すでに19日のトレーニングからフルメニューをこなしている。遠藤自身も「問題ない」と出場に向けて手応えをのぞかせた。
となれば、果たして誰が遠藤とボランチのタッグを組むのか。
その第一候補である守田は左ふくらはぎの違和感のために全体練習への合流が遅れていたが、「体に関しては100%に近い状態」と語り、ドイツ戦前日となる22日のトレーニングはフルメニューをこなした。
守田が現状について説明する。
「痛みではなく違和感だったので、それがいつなくなって復帰できるか自分としても分からなくてナイーブだったんですけど、少しずつできることが増えた。昨日(21日)も頭から練習ができて、今日(ドイツ戦前日)は全部やりました」
とはいえ、しばらく別メニューだったため、心肺機能が万全ではないようだ。
「2、3日でマックスには持っていけないんで。やっぱり試合を積み重ねないと、(体力は)戻ってこない」
そうした言葉を聞く限り、ボランチという最も運動量を必要とするポジションで、いきなり先発出場を果たすのは難しいのではないか。まずは途中出場して実戦に復帰するのが現実的と思われる。
残る候補は4人。田中、柴崎、鎌田、板倉の中で…
となれば、残る候補は4人。田中碧、柴崎岳、鎌田大地、板倉だ。
板倉は前述したようにセンターバックとして先発させたい。フランクフルトでボランチを務める鎌田に関しては、森保監督もカナダ戦の終盤にボランチ起用を試し、一定の成果を得ている。ただ、トップ下における鎌田のキープ力は今の日本の攻撃の生命線だ。その鎌田を1列下げると、前線の基準点を失うだけでなく、得点力まで低下してしまう。
柴崎はやはりドイツ相手では守備力やデュエルにおける強度への不安が否めない。ボール支配で上回ることが予想されるコスタリカ戦でこそスタメン起用し、そのプレーメイク力を生かしたい。
そこで予想するのは、田中の先発出場だ。遠藤とは東京五輪でコンビを組んでおり、連係は万全だ。約3週間ぶりの実戦となったカナダ戦では試合勘に苦しんだものの、1試合をこなして改善されているはずだ。
もともと足りないものを身に付けるためにドイツ2部に飛び込んだ経緯がある。足りないものとは、デュエルの部分。その成果を示す舞台としてドイツ戦ほど相応しいゲームはないだろう。
2列目から前の4人は“アメリカ戦のカルテット”が濃厚
2列目から前の4人は右から伊東純也、鎌田、久保、そして1トップに前田大然――9月23日のアメリカ戦に先発したカルテットが濃厚だ。
前田の2度追い、3度追いのプレッシングはドイツの守備陣に脅威を与え、彼らのリズムを乱してくれるに違いない。
伊東が右ひざにテーピングを施してトレーニングしているのが気になるが、もし、先発が難しい場合でも、堂安律、相馬勇紀、浅野拓磨が控えている。森保監督が試合ごとのターンオーバーを想定しているように、今の日本代表には2チーム分作れるだけの選手がいる。
森保監督は11月1日に行われたワールドカップメンバー発表会見で現在の心境を問われ、「行雲流水」と答えた。行雲流水とは、空をゆく雲と川を流れる水のように、自然体であるという意味だ。
ドイツ戦前日会見でも同じ姿勢を崩さなかった。
「これまでやってきたことに自信がありますし、選手の成長のために、いろいろな変化に対応しながら、自分たちのパワーとして積み上げてこられた」
そうきっぱりと語り、こんなふうに続けた。
「試合に向けては冷静に、最善の準備をして全力を尽くす。行雲流水の気持ちに変わりはありません」
指揮官も選手たちと同じように、やるべきことはやったという自負があるのだろう。
人事を尽くして天命を待つ――。さあ、いよいよ運命のドイツ戦だ。<つづく>
文=飯尾篤史
photograph by Takuya Kaneko/JMPA